「緑閃光」vol.1相互評 1回目

皆さんこんばんは!更新担当の桃生苑子です。すっかり更新が空きましたが、その間にすっかり季節が春から初夏になりました。

公開後の反応のこと

ところで、vol.1を公開した直後、たくさんの方が引用してくださったり、読んだよ!と呟いてくださったりして、とても嬉しかったです。ありがとうございます。皆様のお言葉お気持ち、緑閃光メンバー一同たいへんありがたく嬉しく受け止めております。

それで、わーい!と呑気に喜んでおりましたら、vol.1の編集長である岡本はなより、こんな厳命が。

「みなさんに読んだよ、と言っていただけてうれしい。しかし、私達が自分たちの歌をどう読んだかも伝えたい」

というわけで、今回より相互評を何回かに分けてご案内していきたいと思います。トップバッターはわたくし桃生苑子から、瑞坂菜にあててのラブレターです。

瑞坂菜「まさに咲く」/評 桃生苑子

子 ど も ら の 〈コ ロ ナ 休 暇 〉と 呼 ぶ 弥 生 佳 き 日 に 河 津 桜 満 開
雨 上 る 夜 道 は 群 れ 咲 く 水 仙 の 放 つ 気 配 に 支 配 さ れ ゆ く

連作のテーマが「咲」だったことを意識してか、一首を除いて花を扱った歌を寄せた。

引いた歌は連作の冒頭2首。コロナ禍を象徴する不穏な気配+華やかな植物の力という構図が生きて、艶やかな幕開けを感じさせる。

 一首目、コロナ休暇とは感染拡大防止のために緊急事態宣言に先駆けて小学校等が休校になったことを指しているのだろう。この時点では子供たちにとっては、春休みが早く始まってボーナスのような感覚があった、ということが「休暇」という言葉の選択で分かる。河津桜の満開であるさまを佳き日のアイコンとして描きとった作者も、子供たち同様に晴れやかな気分を感じているらしい。

 二首目はこの一連で私のもっとも好きな一首。

雨上がりの夜道はほんのりと冷え、そこに群生の水仙の気配を感じているのである。夜間だからはっきりとは見えないけれど、確かにそこに咲く花の存在が感じられる。それは香りなのかもしれないし、濡れた地面に映るかすかな花影かもしれない。作者はこの道を歩いているのかどうかも描かれず、ひそやかに無人の道に立ち上る花の息遣いを感じることができるのも楽しい。

 向日葵の色の鞄で出かけたい風花の舞う試験日ならば

 試験日、という言葉からは受験の響きを感じるが、資格試験でもよさそうだ。とにかく本人にとって大切な試験の日だというのに、風花が舞うほど寒いのである。しかし、であればこそ明るい陽の光を思わせる向日葵の色の鞄で出かけたいと作者は歌う。

前向きな姿勢はこの作者の歌に通底するものであり、歌の世界の強さを支える大きな魅力だろう。

短歌は日常を切り取る表現でもあるから、この時期に作られた歌であればコロナ禍の影響は避けがたい。しかし、だからこそ、そこに咲くものに目を向ける力が必要であることをこの連作は教えてくれる。



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