〈劇場版『銀河鉄道999』感想〉

〈2021年11月23日〉
『銀河鉄道999』4Kリマスター・ドルビーシネマ版上映が発表になった日のちょうど5年前に同作を見返していたときの感想を書いていた。

〈2016年11月23日〉
掃除やメール返信などをしながらなんの気なしに劇場版『銀河鉄道999』(’79)をモニタに流していた。

眼下に広がるメガロポリスの街並みに永遠のさよならを告げるかのように星野鉄郎は999の車窓を閉め地球から旅立って行く──までの冒頭28分「いやあ完璧だ」などとあらためて感じいったところで、「──そういえば鉄郎の母の命を奪った機械伯爵への復讐は劇場版では序盤じゃないんだよな(原作マンガとテレビ版では第1話で機械伯爵を倒してから地球を飛び立つのです)………あれっ、まてよ、これはそういうこと ……なの……か?」と、ある疑念が浮かびそのまま視聴を続けた。

あらためて観ると、この映画は全編を通して「夢の中」での出来事の印象が強い。過去に見た時よりもその印象が強くなっている。メーテルの存在が「少年の日の心の中にいた青春の幻影(劇中ナレーションより)」であることとはまた別に、全体の構成や登場人物が夢の中での物語かのようだ。

劇場版の前半はおおまかに下記のような流れで物語は語られる。主人公の鉄郎が機械伯爵を倒し母の仇を討つために機械の体を手に入れるというモチベーションが物語を駆動する。

・亡き母の面影がある謎の女性メーテルをメガロポリス中央駅で見かけた少年星野鉄朗はメーテルに連れられて999に乗りこみ旅立つ(母の死は回想によって語られる過去の出来事)。[28分]
・最初の停車駅である土星の衛星タイタンでトチローという人物の母から「むかし家を出てから戻ってこない息子が置いていったものだ」と、戦士の銃と帽子を託される。山賊アンタレスに「機械伯爵のいる時間城の場所はエメラルダスが知っている、いまに必ず会うだろう」と告げられる(ここらへんの脈絡のなさがとても夢の中っぽい)。タイタンを発つ。[44分]
・膨大な死者の亡骸が眠る冥王星を発つ。[49分]
・愛した人を探し続けて旅をする海賊エメラルダスとの偶然の出会い。母の仇である機械伯爵の居場所を知る。[55分]
・時間城があるとされるトレーダー分岐点でのトチローとの偶然の出会いと別れ。トチローの死を目撃した鉄郎は「人間は寿命が来ると死ぬ、夢を果たせず途中で死ぬんだ」と思う。[74分]
・鉄郎が憧れる大人の男として宇宙海賊ハーロックが登場。[77分]

ここからは鉄郎が機械伯爵のいる時間城に乗り込み母の仇を討つシークエンスが20分間ほど続く。まずこの「時間城」というネーミングの奇妙さ。城内はまるで悪夢のような内装。唐突に(かなり夢っぽい)鉄郎を救いに現れるアンタレス。機械伯爵はピンチに陥った際に部下であり愛人のリューズ(=竜頭)へ「時間を進めろ!」と、観客には事前に前フリや説明がなかった不可解な命令をする。

劇場版はテレビ版や原作マンガとはまた別なところで、機械人間(機械化人)の再解釈をしてるのではないか。「機械の体を手にいれる=永遠の命を得られる」ではなく、機械人間は「時を止めた=永遠に途中のまま=成長をやめた」存在。

時間城の応接間に飾られているのは、鉄郎の母親の亡骸でつくられた剥製。原作マンガでも印象的だったシーンだが、ここでふと思う。なんとなく以前からそんな気がしていたのだが、見返して確信した。劇場版では「亡き母の存在を永遠に美しい剥製のように心の中で飾り立てていたのは鉄郎だった」と見える。この点はものすごい飛距離の原作からの《変更》だ。原作マンガやテレビでは旅の出発点に起こるエピソードだった母の仇討ち。それを映画の中盤、旅の途中に持ってきているだけで、まったく違う解釈が可能になっている。

機械伯爵は倒され、リューズが時間を進め、時間城は砂のように崩れ消え去る。母の亡骸と共に。そして鉄郎は、メーテルとハーロックに「もう機械の体を手に入れたいとは思わない」と告げる。宇宙を旅して探し求めていた愛する人トチローの最期を知ったエメラルダス。トレーダー分岐点を離れる999の車中でメーテルは「おめでとう」と鉄郎に酒を勧める。そして鉄郎はメーテルに「地球に帰ったら一緒に暮らして欲しいんだ」と愛を告白する。少年が大人になったのだ。愛した人の思い出に囚われていた鉄郎やエメラルダスの止まっていた時間が動きだすというシチュエーションだ。

だから……劇場版999って、街中でふと見かけた女性に亡き母の面影をみた少年が恋に落ちる(=大人になる)までの数秒間の刹那にみた白昼夢だったのではないかしら、と見返して感じた。もしくは小さな子供を残したまま世を去った母親の愛が時を超えて我が子を成長させた話だったのではないか、と。さらにいうと、身近な人がいなくなってしまう喪失感とどう生きてゆくのかの話にも思えてしまう。
(2016年11月23日 記)

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