セリフが聴こえる

揚げたてのカキフライを目の前にしたとき、そこにタルタルにウスターソースか醤油をかけた直後、
「食いもんだ! 食いもん持って来い!」
「血が足りねえ……何でもいいジャンジャン持って来い」
「うるへー!! 12時間もありゃジェット機だって直らあな!」
と脳内でセリフが聴こえる。映画『ルパン三世 カリオストロの城』で主人公ルパン三世が銃で撃たれ重傷を負い、ベッドに寝かせられているとき重大な事実を告げられ、直ぐにでも体力を回復しなければ窮地からの挽回ができないと、起き上がりつつ言うセリフだ。どーーーーしてもなんとしても、食事のタイミングを逃し空腹を我慢しても、カキフライが食べたいときは、心身ともに疲れていてそれでもめし食って少し休んでもそのあと起き上がってなんとかせなあかんみたいなときが多いからだろうか。惣菜では満たされない。惣菜のカキフライでもアルミホイルの上に乗せ魚焼きグリルで温めれば、電子レンジよりベチャっとはせず、それなりにパリッと、ノリスプレーでアイロンがけしたシャツの襟程度のしゃんとしたエッジにはなるが、クリーニングから帰ってきた真っ白なシャツかのような揚げたてのシャープさには敵わない。パクッ→白飯→ハグッ→白飯→では次はひと口でアムッ→白飯→白飯と一気呵成に食べる。パリサクっとした外側に反して、歯で噛み切った中身は──まるで内臓かのような──ドロリと柔らかでグロテスクな得体の知れなさが、カキフライの魅力のように思う。何度食べても、それが想像通りの味だったとしても、初めて行った土地で〈知らない食材〉を食べているかのような。屠った獲物を 臓腑から喰らう肉食獣かのような。
そういった具合に、以前に読んだか観たかした記憶の中の物語と結びついてしまう食べ物がある。しかし、劇中と同じ料理とは限らない。コラボカフェなどでは凝った〈劇中再現〉の料理がメニューに並んでいたりもするが、良く出来ていると関心することはあっても、不思議とそそられない。
随分昔に。子供時代に従姉妹の部屋で読んだ、『あさりちゃん』(室山まゆみ)の記憶だけで書くが、その回は舞台が原始時代で、氷漬けの巨大なマンモスをみつけたあさりちゃん達がステーキハウスを開店する話があった。焚き火をたいてマンモスの鼻の肉を輪切りにして食うのだ。豚足にかぶりついているとき、たまにそのコマを想い出す。
「マンガ肉」だなんてネーミングされカテゴライズされ包装紙で覆われリボンをかけられると、どこか違う。もう少しこう、ナラティブというか、個人的なものだ。
ここから先は
〈2024年8月マガジン〉
〈2024年8月マガジン〉です。購入したときの金額で〈2024年8月マガジン〉に収録の日記や記事が読めます。更新は8/31までとは限りませ…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?