〈2023年12月29日 金曜〉丸二日間も寝転がっている

〈2023年12月29日 金曜〉
先々々週は子が胃腸炎、先々週は子が鼻炎。そして私は先週月曜から体調が悪かった。月曜夜に「ああ喉がやられたな」と感じた翌火曜朝にはエナジードリンクと栄養ドリンクがないと動けなくなっていたのである。発熱はしていないのに身体全体に重りを巻きつけられたかのような怠さと水に潜っているかのような息苦しさ。鼻水も痰もないのに空咳は出る。子供の頃に覚えがある症状、ひと晩中ヒューヒューゴロゴロと喉を鳴らしうつ伏せや仰向けなどどれほど体勢を変えてもどうにもこうにもならない苦しさ、喘息の発作だ。マンガや映画には、空模様や空気の匂いで「じき嵐になる」だとか「くるぞ……伝説のビッグウェーブが」だとか思わせぶりな気配を口にするキャラクターが出てくるが、小児喘息を患ったことのある奴は、「ほう……くるか……やれやれだ」と発作の予兆を感じとることができるのである。

火曜水曜と、子が友人に送る手作りクリスマスプレゼントの制作を手伝ったりそれを包装したり習い事に連れていったり終業式の準備をしたりなど身体の不調を騙し騙しやり過ごす。嗅覚も味覚もあるのに日中はまったく食欲がなく野菜ジュースくらいしか飲めず夜になって無理矢理に豆腐を食う。普段のちょっとした風邪症状であれば「これ飲んで半日寝てれば怠さはおさまるし発作もやり過ごせる」はずの特定銘柄の売薬を買ってきて飲みつづけるもまったく効かず、ようやく予定が空いた木曜朝に病院へ行くと、もしコロナ陽性であったなら入院レベルで血中酸素濃度が低く(「ここまで自転車で来れたんですか?」と医者に呆れられた)、気管支炎・喘息との診断。その後も処方された薬とエナジードリンクと栄養ドリンクを飲み、なんとか週末-クリスマス-週明けを乗り切る。

今週に入り子の冬休みの宿題を見つつクリスマスツリーをしまい込み換気扇やらなんやらと大掃除の八割を終えた頃には、咳をするたびに脇腹がミシリミシリと軋むようになっており、夜中には咳のたび何度も痛みで目覚め寝られないのである。ゴホン痛ぇ、ゴホンゴホン痛てててて、ゴホゴホゴホゲホゴホクソッタレボケといったぐあいで自分で自分を殴っているかのようで腹が立つ。「チイッ、これは咳でアバラもってかれたかな」と、先週処方された薬のきれる木曜にほうほうのていで再診、血液検査とCTスキャン。画像診断の結果は肺炎なのであった。

CTを撮ったので肺がん検診も兼ねられたのは一挙両得であった。8月に受けた健康診断でレントゲンの結果、肺に何か炎症の治ったような跡だか影だかがあり要再検査だったがこれまで検査に行く時間的余裕がなかったのもあり、体調はともかく気分は晴れノー腫瘍イエス肺炎である。肋骨も折れてはおらずラッキーもおまけにつけたらあ。肺炎という診断がはっきり出たので、結果からいうと近所のクリニックで吸入だけで済まさずに大きな総合病院までやってきてよかったわけであるが、しかし受付から診療から検査から診断から会計から薬の受け取りまで五時間もかかり、「五時間もかかるならそのあいだ寝てりゃあ少しは楽になったかしらん」などと気持ちに余裕があったのは帰り道にスーパーで年末年始の食料品の買い物をし家に着くまでであった。帰路では高架下のベンチで缶コーヒーを飲み電子タバコをふかし近くで延々と他の鳩を突いてる鳩がいてその突ついてる鳩と突かれてる鳩とのあいだに脚をねじこみ「おまえなあ、そんなことずーっとやってんじゃないよ、人類かおまえは、バカやろまったく」と口に出すくらいの余裕はあった。だが、鳩相手に・なにやらゴチャゴチャとひとりで口にしている・初老の男は他人からすると実に怪しげでありそれを気にもとめておらずなのでもろもろ限界だったのだ今にして思えば。

帰宅し買い物を冷蔵庫にいれた直後、張り詰めてた糸がプツン、バタン、キューである。布団にぶっ倒れてしまった。それ以降は、処方された抗生剤と抗アレルギー薬と咳止めと吸入薬など五六種類の薬を毎食後に飲むのと子の入浴とめしづくり以外は、丸二日間、布団に寝転がっていた。少しKindleで本を読む以外になにもできずする気にならずただ横になっていた。何度かウトウトし幾度か夢をみると死んだ友人が何人か出てきて「こんな体調のときに限って出てくるなバカやろ、たしかにこの二週間スマフォで病名とかいろいろ調べておっかねえ気分になったりもしたけど、今回はそこまで重症じゃねえんだ、またいつか別の機会に顔洗って出直してこいバカ、だいたいあんたの墓参りだってまだしちゃいねえんだ」などと夢の中で悪態をついた。

常にマスクを3枚重ねつけてるかのような息苦しさと倦怠感で、しかも身体を動かすと咳が出てこれが非常に痛い。脇腹にはロキソニンの湿布を貼り続ける。しかし放置して再診をせず寝正月を決め込み我慢などをしていたら、およそ年明け早々から入院するはめになるところであったろう。現時点でも年末年始にこれ以上の呼吸困難を自覚したら救急車を呼んでくださいと医者から言われているのである。このnoteの文章を書けるようになったのは肺炎診断後、三日目になってからで、いまも胸の中にみっしり木目が詰まった重い丸太ん棒が入ってるかのような感覚である。丸太ん棒にストローや細い枝で手足をつけガシャポンカプセルを上に載せ立たせることもできぬ雑な工作物が転がっている。

丸二日間も寝転がっているだなんて、2023年に入ってからはじめてだ。体調不良を最初に自覚してから二週間、メリークリスマスもハッピーホリデーズも言いたくなかった世界情勢にはまったくちょうどよいうんざり具合の体調であった。

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