それは、ぬるい働き方ではなくて
早朝、肌寒くなってきた時期の新宿駅の空気に触れると、圧倒的に会社員の頃を思い出す。理由はわからないけれど。
ふと、昔はその日一日会議が入っていなくても、朝早く起きて出社していたなあ、ということを振り返った。当時は出社することに一ミリの違和感も疑問もなかった。
それに比べると、今の会社員の皆さんは、SNSで私のように部屋でぐうたらに働く人を横目に「どうして出社しながら働かなければならないのか」と考えながら、憂鬱に出社しなければならないことを想像して、ちょっと大変だなあと思った。物事は、意識すると途端に面倒になる。だから人は「習慣化」しようと思うのだ。
逆に、働いてもらっている方も「どうして会社に来なきゃいけないのか」を伝えなければならなくなって大変だろう。昔は何も言わなくても出社してたのに、いつしか「なんで出社しなければならないんですか?」と尋ねられるようになったし、「出社しなくていい会社に転職しちゃいますよ?」みたいなことを言う人もいる。
まあしかし、テクノロジーというものは、そういった「やらなくてもいいこと」を増やしていく性質を持つものである。そして、テクノロジーの進化と社会の進化のタイミングにはタイムラグがある。『LIFE SHIFT2』では、これらをそれぞれ “技術的発明” と “社会的発明” と呼んで、表現している。
技術の進化スピードが速い時代を生きる私達は、社会的発明を間に合わせようと、いつも必死に生きている。
ぬるくない働き方を求めるのは、ぬるいのか
さて、今回の本題は「ぬるい働き方」だ。
いつの時代も言われていることではあるが、最近の若者は “そこまで働きたくない” らしい。少し前には、この内容を題材に、経済メディアで特集されることもあった。
確かに、私はどちらかというと、好きな仕事ためには徹夜とかしちゃうタイプだけど、そういうことをするといつも「なんか、前時代的でダサいのかもしれない」と怖くなる。「今はそういうのはやらないんだろうなあ」みたいに思う。
上り詰めて天下を取ってやる!金持ちになってやる!みたいな考え方というよりは、健康的に働き続ける。こういった働き方が “今風” なのだろう。そういった働き方をして疲弊する先輩の姿を見てきたこともその気持の背景にはあるのかもしれない。
しかし、よく考えてみると、コレって結構当たり前だ。誰しも身体を壊すほど働きたくないし、仕事以外の毎日も大事にしたい。
そしてよくよく聞いていると、時々、「ぬるい」と言われる内容は、例えば「明日までに提出してほしいと言った仕事をやってくれない」とか、「どんな仕事にも、(特にモチベーションを用意しなくても)やる気を持ってほしい」というようなものだったりする。
つまり、今まで好意でやっていたことを求めていることも多いのだ。まあそもそも「一生懸命働く」というのは、その人が任意でやっていることだったりする。
そう考えると、例えるならば、こんなことを言っているように思う。
いつも通っているパン屋さんで、5個クロワッサンを買っていると、店員のおばちゃんがご厚意でいつも1つおまけしてくれて嬉しい。でもある時、5個しかくれなくなってしまった。「なんで5つしかくれないんだよ!ケチじゃないか!いつも通っているんだから、少しはおまけしてくれよ!」とお客さんは怒る。
しかし、客観的に見てみれば、「クロワッサンが6個必要なら、最初から6個注文すればいいじゃん」と感じるわけである。
同様に、もし「明日までの提出が必要」ならば、最初に「明日まで」と言っておくか、「緊急のタスクが仕事に含まれることがある」とすり合わせておいて、仕事内容(相手への注文)に含んでおくべきだし、モチベーション高く働いてほしいなら、モチベーションを準備しておかなければならない。
尚更、今は一つの企業が個人を引退まで面倒見ない時代だ。懸命に働いても給料的にも上がり幅が大きいわけでもない。盲目的に一生懸命頑張る理由は薄い。そして、人材の流動性も高く、個人が働く環境を選ぶ立場にあるケースも多いために、「合わないなら別の環境に行く」ことも容易な時代である。
リモートワークができるようになり、出社することに意識的になってしまったように、今更当然のように「アツい働き方」をするのは難しい。
若者をDisったところで何も変わらない
これもあるあるだけど、だいたい「最近の若者はなっとらん」という意見が出る時——例えば、「倍速で動画コンテンツを見るなんて、絶対に感動が薄まる!」みたいな話題が出る時、だいたい「そうかあ、じゃあ倍速せずに見よう」と時代が逆行することはほとんどない。そして、若者は若者なりに、倍速でも感動し、ぬるい働き方の中でも成長する。
何より、「最近の若者はなってない」といったことでどうにもならないことが多い。むしろ、倍速視聴に合わせた視聴体験を準備した人が結局得をする。
「ぬるい働き方」もきっと、同じだと思うのだ。
「若者はぬるいからホント最悪!」と言っているだけでは何も変わらない。先述した動画でも語られているが結局、「頑張る理由を見つけてあげる」など、こちらが新しい時代の価値観に対して工夫したほうが生産性が高いのである。
「そんなコト面倒くさい。以前は何も工夫せずともやってくれたじゃないか!」と思うかもしれない。しかし、そんな以前の働き方こそが「ぬるい働き方」だったのだろう。
しかし、技術的発明の後、社会的発明を行った人類は長期的には幸せになっている。技術的進化が次々と起こる今、戸惑ったり、心が乱されることはあれど、この痛みを乗り越えて、人類として進歩した幸せを掴んでいきたいものである。
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