スイスの重電工業ABBにUXデザイナーとして就職して1年半の感想
現在、僕はスイス・スウェーデン資本のABB(アセア・ブラウン・ボベリ)という会社でシニアUXデザイナーとして働いている。2023年3月に入社してから1年半が経ったのでこの節目にこれまでの経験を振り返り、公開可能な範囲で感想をまとめてみる。
ビジネスの詳細については書けることに制約があるが、ヨーロッパ資本の巨大なエンジニアリング企業でデザイナーとして働くことがどういうものか、その魅力とチャレンジについて記録しておきたい。
ABBについて
概要と歴史
超ざっくりレベルで:
事業分野
ABBの事業軸は大きく以下の4つ:
上記の事業の中で、僕はMotion事業に所属し、フィンランドのヘルシンキ拠点で働いている。
フィンランドでのABBの存在
フィンランドにおけるABBの存在感は大きい。首都ヘルシンキのPitäjänmäkiエリアにはメインビルの裏に大きな工場も併設されている。この拠点はABBのMotion事業がフィンランド国内で行う事業活動の中心地でもあり、研究開発が進められる重要なハブの一つとして機能している。
ABBはフィンランド国内でも高い評価を受けており、若年層からの支持も厚い。フィンランドの若者が選ぶ「最も魅力的な雇用主トップ50」においても常に上位にランクインしているを目にする。工学部の学生にとってもABBはキャリアを積む企業として人気が高いと聞く。
ABBでUXデザイナーとして働くことの魅力と挑戦
ABBにおけるUXデザイナーの仕事
UXデザイナーとして僕はソフトウェアのデザインを担当している。ユーザーリサーチやプロトタイピング、インタラクションデザイン、ユーザビリティテストまで、「普通の」UXデザイン業務とさほど変わりはない。
異分野デザイナー達とのコラボレーション
UX業務は特に変わったことはしていないものの、面白いと感じるのはABBにおけるデザインチームが多様な専門性を持つメンバーで構成されている点だ。僕の様なUXデザイナーの他、インダストリアルデザイナー、サービスデザイナー、ロボティクスデザイナー等、畑違いの分野のデザイナー達がいる。
特にロボティクス事業のデザイナー陣とのコラボは刺激的だった。(詳細は省かせてもらうが)あるロボットの操作性に関する議論ではロボの動きやセンサーの制御がUXデザインにどのように影響を与えるのかについて考えさせられた。ソフトの使いやすさだけでなく、ハードのデザインと技術との連携を念頭に置いたデザインアプローチが必要だと実感させてくれた。Web系のUI/UXのデザイン出身の僕からしたら、普段扱わない領域の視点を知れる貴重な機会だった。
国際的なチームとの連携
また、大規模な組織で働くことは、その規模ならではの豊かな刺激を与えてくれる。特にABBのようなグローバル企業では、世界中からの情報が日々飛び交い、国や文化の壁を越えて異なる文化や考え方に触れる機会が多い。そのため、毎週のように新たな発見がある。「この国にはこんなチームがあって、こうした取り組みをしているんだ」といった新しい気づきが絶えず生まれ、常に新鮮な視点が得られる環境だ。
ある国や地域の課題が自分の知り慣れているものとまったく異なることがあり、その違いから学び取ることも多々ある。こうした異文化との交流(とそれによる間接的な気づきや学び)がグローバルな大規模組織で働く魅力の一つと言える。
ハッカソンイベントに出展して地域社会と連携
地域で開催されるイベントと連携する機会も豊富にある。その一例が、2023年秋にヘルシンキで開催された「DASH」という学生向けデザインハッカソンへの参加だ。このイベントには、デザインやテクノロジーに興味を持つ若手の学生たち(まあほとんどがアールト大学生)が集い、我々ABBはスポンサー企業としてチャレンジを提供する役割を担った。
8つの学生チームが僕たちが提示したチャレンジに挑戦し、限られた時間の中で創造的なアイデアを形にしていった。僕は企業側メンターとしてそのプロセスに参加し、チームに対して助言やフィードバックを提供する役割を果たした。どのチームも素晴らしい成果を見せてくれたので、最終的に一つの優勝チームを選ぶのが非常に難しかったのが心残りではあった。
企業として、このような地域イベントに参加することは、単にスポンサーとしての役割だけでなく、若い才能と交流し彼らの成長をサポートする重要な機会となる。未来のデザイナーやエンジニアが自分たちの提供するチャレンジに挑戦してくれることは、企業側にとっても非常に価値が高いと思う。この経験を通じて、地域社会との連携をさらに強め、今後もこうしたイベントへの積極的な関与を続けていく必要性を感じた。また、僕自身もメンターとして参加することで、若手デザイナーの育成や支援に対する自身の関わり方についても考えさせられ、今後のキャリアにおける新たなモチベーションを得ることができたと思う。
ABBで働くことのチャレンジ
当然ながらABBで働くことにチャレンジもついてくる。提供するソリューションは産業向けで、その複雑さが大きな特徴だと感じる。特に最初の段階では、各トピックを理解するのに時間がかかった。たとえば、産業用モーターがどのような技術で動いているのか、モーターを制御するインバーターがどのようにその動きを調整するのか、といった基本的なところからまず理解する必要がある。それぞれの産業に合わせた具体的なアプリケーションについても、深く掘り下げて学ばなければならない。さらに、それらの技術を操作するためのソフトウェアの機能や、UXの観点からの使い勝手についても把握することが求められる。
このように、コンシューマー向けのウェブサイトやアプリのデザインとは一線を画していると感じる。消費者向けのプロジェクトでは、自分がユーザーとして製品やサービスが比較的直感的に理解できることが多いが、産業向けソリューションでは、その複雑さと専門性が新たな挑戦を提供してくれる。視覚的なデザインやUIの改善にとどまらず、物理的な機械がどのように機能し、どのような環境で使われるかという点まで深く関わることが求められる。
まとめと今後の展望
ABBでの経験は単にデザインのスキルを活かすだけでなく、グローバルなビジネス環境での働き方や、多様なチームと協力する面白さについても多くの機会と学びを与えてくれていると思う。ワークライフバランスもしっかり取れるため、仕事とプライベートの両方を大切にできる環境が整っている。
もし興味があるなら、ABBはフィンランドのみならず世界中で様々な業種で常に人材を募集しているので、ぜひ一度チェックしてみてほしいと思う。
近況報告
フィンランド語検定中級B1レベル合格
2024年1月に、フィンランドの国家語学能力証明検定であるYleiset kielitutkinnot(YKI)の中級B1レベルに全4科目で合格した。
フィンランドに来てから丸6年、フィンランド語の能力が(なんとか)向上し、日常生活においてはフィンランド語のみで困ることがほとんどなくなったが、ビジネスシーンでは使えないレベル感である。
自分の言語能力の成長を測る手段として、毎年検定試験を受けることを続けてきた。今回のB1合格は一つの大きな区切りだが、あくまで通過点として、次のステップとしてB2レベル合格を目指している。現在も個人レッスンを継続しており、より高度なフィンランド語スキルを習得したい。
フィンランドの永住権を取得
2024年8月、4年間の労働ビザを経て、念願のフィンランド永住権を取得し、無事に永住カードを手にすることができた。今(2024年現在)の右寄りの政権下では仕事を失った場合にビザの更新が厳しくなることが懸念されているため、永住権の取得は自分にとって非常に大きなマイルストーンだ。万一の事態にも柔軟に対応できる安心感を得られ、将来の仕事の選択肢や生活設計においてフレキシビリティを手にすることができたと思う。
永住権の取得は、個人的にもプロフェッショナルとしても大きな一歩であり、今後はより幅広い可能性に目を向けられるようになったと感じている。これからの挑戦に対する準備も整い、次なるステップを見据えた未来を楽しみにしている。
このブログも、フィンランドでの経験や進捗を定期的に振り返りながら、更新していきたいと思う。
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