2社を経て分かったアールト大学IDBMはフィンランドでの就職に役立つのか

元々僕はIDBM修士課程を卒業してからは日本に帰る予定であったのだが、気づいたらフィンランドに居残ってから2023年8月現在では計5年間が過ぎようとしている。

IDBM入学時、当プログラム卒業後のキャリア構築については手探りで情報を仕入れたものの、当時は日本人留学生の立場からフィンランドに残って就職するケースの情報があまり見つからなかったと記憶しているので、知り得ることには限りがあった。なので終わったら必然的に日本に帰って留学経験を活かす、という様な選択肢を予定した。

しかし、せっかく日本での仕事や生活に区切りをつけてフィンランドに留学しにくるのだから、その先の現地での仕事の機会についてどういったものがあるのか、知っておきたいのは当然だと思う。

IDBM後のキャリアについてはプログラム側からの公式なデータは発表されていないので、これは自分と自分の周囲の話ベースで主観が強めだが、フィンランド現地の会社2社を経験した今、IDBMが現地での就職に役に立ったのかどうかを少し話してみたい。

尚、僕はUXデザイナーという職種で、フィンランド渡航前は7年ほどデザイナーとしてのキャリアがあるという前提での話になる。

また、当記事では起業/独立という選択肢はスコープ外とし、あくまで「現地の会社に就職する」という視点とする。

卒業後も旧友と定期的に会って情報交換

IDBMの就職活動の実情

結論から言うと「自由でバラバラ」だ。決まった道筋はないが、パターンとしてはいくつかある。

パターン①:学期の途中で就職する

これはIDBMに入るまで知らなかったのだが、学期の途中で就職先が見つかったのでそのまま仕事を始めるというケースが結構ある。キャリアイベントで引っかかる、産学連携プロジェクトに参加してそのまま採用される、ハッカソンで知り合う、直接応募する、など、出会う方法は様々だ。

フィンランドでは学期の真っ只中であろうがその時に適切な人材であれば就職できてしまう様な気がする。僕が"普通"と認識していた「修士を卒業→就職」というパターンと比較するとアプローチが違う(EU圏内の人は学費が無料だったり、そもそもフィンランドでは人生いつでも学べるカルチャーの土台がしっかりあったりするのでこの辺りの時間感覚・金銭感覚は僕のとはちょっと違ったかも)。

就職・採用活動は常に行われていて、就職するタイミングも割と自由である(それが良いのか悪いのかは別として)。なので、IDBMに入ってからは卒業を待たずに就職することができるし、そうしてる同級生を何人も見てきた。

ちなみに、外国からの留学生ではあまり見ないものの、フィンランドの現地の人でフルタイムで既に働きつつ修士号もやりにきた、というパターンの人もたくさんいるということは触れておきたい。

パターン②:卒業後に就職する

当然ながら修士課程を終えてから(もしくは終わりに近い時点で)就職活動を始める人もいる。僕もそれと似たパターンで、修論を書き終えたタイミングでご縁があり、アールト大学の研究助手/非常勤講師として働けて、その契約終了と共に1社目に就職した、というパターンである。

パターン③:しばらくのんびりする

知人にはIDBM卒業後に数ヶ月間の(自分探しの様な)旅に出たりした人もいる。卒業後すぐに就職先が決まってないといけないという必要性やプレッシャーがないのだろう。そういうカルチャーもいいなとは思う。修士で得た学びや気づきを吸収、解凍するという意味ではしばらくのんびりやりたいことを探すのは大いにありだ。IDBM/アールト大学には世界の色々な国からの人がやってくる。築けたコネクションやネットワークを活かして世界を旅できるのは滅多にない良い機会だと思う。

結論

IDBMの就職活動事情のモデルケースの様なものはなく、みんなそれぞれ自由気ままに動いているように感じる。

卒業生の就職先例

僕の同期や周りの卒業生はというと以下のような企業に就職している(筆者の周りの友人例、一部)。

・Microsoft(インターネット・ソフト)
・Wärtsilä(船舶用エンジン・エネルギー関連)
・NOKIA(通信)
・Unilever(一般消費財)
・Schibsted(筆者の元職場 - インターネット・ソフトウェア)
・ABB(筆者の現職場 - 重電工業)
・Accenture(デザイン・ITコンサル)
・Reaktor(デザイン・ITコンサル)
・Futurice(デザイン・ITコンサル)
・Airbus(航空・防衛)
・Wolt(インターネット・ソフト)
・Aalto University(博士課程・リサーチャー)
・スタートアップ企業/起業
・KONE(エレベーター機器等電動構造)
・Deloitte Digital(デザイン・ITコンサル)
・Hellon(デザイン・ITコンサル)
・Nordea(銀行)
・OP (銀行)
・S Group(フィンランドの小売協同組合)
・F-Secure(サイバーセキュリティ)
・Posti(フィンランドの郵便サービス)

上記の様に業界は端から端まで様々であるものの、職種はUXデザイナー、エンジニア、プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー等のテクノロジー関連が多い。フィンランドではテックでのニーズはコンスタントに高いので、ITコンサルでの就職も多い。

就職し易いパターン

フィンランド語が必要なくて就職し易いのはテック系、要するにソフトウェアエンジニアとUXデザイナーだ。

さらに、既に実際の仕事経験があると、就職し易いのも事実だ。ポートフォリオ等で自分の実力・実績を瞬時に見せることが可能(即戦力になる)だからだ。これは応募する側の自分自身の経験を元にも言える。手に職があるとスムーズに行く確率が高くなる。

逆にマイナーなパターンとしては、学士を卒業し、勤務経験無くすぐにIDBMに入学するパターンだ。日本からの留学生はこのパターンは少ないとは思うが、他の国から留学に来てる方を見ると、ちょっと厳しそうな印象がある。特に、フィンランド人とダイレクトにやり取りするような職種(リサーチ関連やその他のビジネス開発系)は当然ながらフィン語がマストになってくるので、ハードルがまた少し高くなる。

もし、IT系のエリアでIDBM後の現地就職を真剣に考えた場合は、少なくとも事前に数年間の実績があることがより望ましいと思う。

結局、IDBMは就職で役に立ったのか

振り返って見ると、前職のSchibstedでの直属のデザインマネージャーも、現職のABBでのデザインチームのリーダーも、2人ともIDBM出身だったという事実に最近気がついた(そしてその周りにもIDBM出身が数珠繋ぎの様にいる)。知らなかったわけでは全然なく、今まであまり意識していなかったのだ。

思い出すと、IDBMのことを面接で共通の話題にはすることができたと記憶している。元々コネクションがあったわけではないが、話しているうちにコネクションが見い出された、というイメージに近い。

IDBMを卒業したからといって採用されたわけではないが、決してマイナスにはならなかったと思う。


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