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ヤバい時は話し続けろ。小話をやるか?

晦日。シネマート新宿で「レザボア・ドッグス」観て来ました!

「レザボア・ドッグス」を映画館のスクリーンで観られるってんなら、そら行くっつの

 通常はカット前のダイヤモンドを扱っている宝石問屋。しかしこの日だけはカットしたものが入る。そこをいただく、もう買い手も決まっている、数分で片がつく。強奪を実行するのは、Mr.ホワイト、Mr.ブラウン、Mr.ブルー、Mr.ブロンド、Mr.オレンジ、Mr.ピンクという、寄せ集めたプロたち。

タランティーノの名を世界に轟かせた、衝撃の一作。

「ヘヴィ・トリップⅡ 俺たち北欧メタル危機一髪!」もよさげ。

おかわりいただけるだろうか。右下、そこにいるはずのない男性の姿が写り込んでしまっている
レインボーカラーの傘をもつバカみてえなカッコした男性の腕と足が消えてしまっている

 映画「レザボア・ドッグス」を初めて観たのは 30年も前のことだ。これと「トゥルー・ロマンス」は VHS を、地元の図書館で観たのだと思う。DVDが発売されたらそれを買って、Blu-rayになればそれを買って。とにかく先に観た「トゥルー・ロマンス」が好きだった。もちろん、あんな純粋でキュートな恋をしたいと思ったのだろう。ただしこちらはタランティーノの原案とはいえ、トニー・スコット監督作品である。全編に渡りタランティーノ節ではあるが、「レザボア・ドッグス」の飢餓感はなく、そう、スマートなのだ。山口智子と木村拓哉の「ロングバケーション」には「瀬名のマンション」、通称セナマンが出て来るが、ビルボードがある屋上で恋人たちが心を通わせていくあの絵作りだって、「トゥルー・ロマンス」でアラバマが毛布かぶってグチャグチャ泣いてたビルを意識していたんじゃないか。あれは瀬名のマンションじゃなくて、クラレンスのアパートメントだとおれは思ってる。おれが市庁舎で簡素に挙式する結婚に憧れてるのも、アラバマ&クラレンストゥルー・ロマンスのせい。25年ぶりに親友に電話をかけたときだって、Hello,Babe! で始めたかった(親友はおれに付き合わされて映画を観ていたので)。しかし親友のお母様が電話に出たからできなかったのが、人生で最大の無念なのだ。

 「エルビスより君の話を」
 「あたしの何?」
 「何してる? 好きな色。何に惹かれて、何が嫌いか? 恋人はいるの?」
 「ひとつずつ質問して」

「トゥルー・ロマンス」(1993)

 「映画を観たらダイナーでパイを食べながら映画の話をしたいの」――分かる。おれ隣の席だった兄ちゃんナンパしそうになったもん。昨夜、G-13の席だった方、あれ瓶ビールだったの?  おれジントニックだったけど乾杯したくてウズウズしてたの分かってた? なんでガラガラの映画館でおれの隣に? ランスに頼まれてとかじゃないよね? スパイダーマンのコミックス見る? で映画通りなら、この後おれと熱く燃えて明日には挙式なんだけど、どうすか。大丈夫な感じすか。いやいや、「トゥルー・ロマンス」より「レザボア・ドッグス」の話を。

あそこのジントニックは濃いです(初の有益な情報)。でも……やっぱ瓶ビールにすべきだった!

 ああでもさ、そうなんだよな。こんな有名な映画について今さらここに書くことなんて、ない。「レザボア・ドッグス」にせよ、「トゥルー・ロマンス」にせよ。映画通りダイナーに行かなかったからじゃない。そもそも前を通り抜けるときに、おれの膝にポップコーンがブチ撒けられることもなかったのさ。あの兄ちゃんったら、もう恥ずかしがり屋さんめ。これは、ひとり大晦日イブにクラレンス気分で映画館に座ってたおれの話でしかないんだ。若く何者でもなかった日に聴いた「You’re so cool」がずっと頭のなかで流れ続けているアホの。

「ユア・ソー・クール」 ハンス・ジマー

 でもひとつだけ、あの「レザボア・ドッグス」についてあなたとダイナーでパイを食ってる気分で話すんならさ、あの襲撃が惨憺たる結果になった原因である潜入捜査官(何色かは書かない)が、身分がバレそうになったりとかヤバいときに話し続けるための「小話」、あのシーンについてなんだ。捜査官はアパートメントで練習する、殺されないために。仲間たち(仲間じゃない、クズだ)の前で披露する、そして、あの心を撃ち抜かれたカット。タランティーノがやりたかったこと、低予算だろうが意地を見せつけようという気概に、俳優(誰かは書かない)が圧倒的な演技で応えたあのシーンだ。

 「重要なのはディティールだ」――潜入捜査官はアドバイスを受ける。襲撃という大きな見せ場であるはずのシーンを省いたこの映画について、タランティーノは劇中で種明かしをしているわけだ。派手な銃撃戦も大爆発もない、CGとワイヤーを使わなければ撮れないようなアクションもない、ロケ地さえ最小限なこの映画で、頼みは脚本だ。でも俳優たちは分かっていた、素晴らしい脚本があれば、歴史に残る映画になると。監督は俳優を信じ、俳優は監督を信じた。全員が自前の衣装を持ち込んでいたような、製作費100万ドルもかけていないこの映画で、しかし、誰もが内心ほくそ笑んでいたはずだ。「見てろ」と。言うほど残酷描写もないだろう、おとなしいものだ。この映画で驚くべきは、脚本家と俳優の力量でこれだけ面白いものが作れる、ということだ。もちろんこの映画は多くのフォロワーたちによってスタイルが表面的に模倣されたし、タランティーノ自身さえこれを超えたことがあるとも思えないのだが……しかしそれも当然だと思うのだ。改めて観て、やはり「レザボア・ドッグス」は最高だったんだって!


 ここ最近、どこで読んだのか「俺がやらないようなこと、やっちゃダメだぜ」というセリフがずっと頭に浮かんでいた。本の山から探すのが大変で未確認なまま、たぶんジェイムズ・ボールドウィンの「もう一つの国」だと結論した。合っているかは分からない。そうだろうと思うことにしたのだ。さすがに今年はもうアップしないと思うので――後回しにした大掃除が待っているし、ハニーに雑煮を作りたい――大変お世話になった一年の感謝を、そのセリフと共にお伝えしたい。
 ありがとうございました。おれがしないようなこと、しちゃダメだぜ。よいお年を。どなた様にも。おれにも。


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