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いちご街道と純喫茶(千葉県東庄町)
利根水郷ラインこと国道356号線の朝4時。ドーンパープルを撮りたかったのだけれど、後続車が停車を許してくれない。そのまま追われていると、でかい太陽が顔を出してしまった。こうなるとサングラスも全く用をなさない。この壮大な風景を毎日見ている人たちが都会に憧れる理由なんてあるのだろうかと思う。それは東京に拠点をおく者の発想だと言われるだろうけれども、私が東京に憧れていた頃だってこんな景色には特別な思いがあったし、それは今も変わらない。小型連休の後半。母の家に向かっていた。実家に異状がないか確認して、親戚に挨拶して、はとこ夫婦とランチをする。
早い時間に実家に着けると嬉しい。早朝の母の庭が好きだ。澄みきった空気を嗅ぎながら、鳥のさえずりを聞く。小鳥が枝から枝へ飛び移って遊んでいる。その戯れかけられた枝のしなりに一羽ぶんの重さを想像する。一斉に起き出した生きものたちの気配をしばし楽しみながら、近いうちに雑草を刈りに来なきゃなあと考えていた。しかし今回はランチがメインだ。はとこ夫婦がいくつも挙げてくれた候補の中から昭和純喫茶な雰囲気の「珈琲・中国茶 クイーン」をとお願いしていた。
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はとこ夫婦は唐揚げ定食を頼んでいた。いつものことなのだが、はとこは唐揚げなどを分けてくれる。親鳥のようだ。こちらがいつも腹へったと騒いでいるせいかもしれない。ここは唐揚げも春巻も美味しい。これも常だが、パートナーの近況の話などして、ずっとしゃべっているから私は食べ終えるのが一番遅くなる。ダメな兄と優秀な弟妹の構図。妹や弟がいたらこういう感じなのかなと、いつも思う。「そっち行くから時間あったらご飯食べよう」と誘える人たちがいるって、本当に嬉しいことだ。今度はどこ行こう。
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なんとパフェを撮影するのを忘れるという、あるまじき失態をおかしたことに今きづいた。これだからインスタグラマーになれないのである。ここは「いちごロード」と呼ばれイチゴ農園が立ち並ぶ通りにある喫茶店なので、新鮮なイチゴが使用されている。私は日頃チョコレートパフェを頼みがちなのだけど、そういうことならと、今回はイチゴパフェを選んだ。パフェのアイスもクリームも美味しかったが、確かにイチゴ美味しい。
近隣のご婦人たちグループや三世代のご家族が和気あいあいと食事を楽しんでいて、こちらもつい長居してしまった。お孫ちゃんはもちろんナポリタンを頼んでいたが、「いいか坊主、銀色の皿でナポリタン食える店は東京でも多くないんだからな」と言いたくなった。いつか幼き日を思い出してありがたみを嚙み締めることだろう。地元の人たちが憩う、良い喫茶店だった。
この「クイーン」は JR成田線の笹川駅から徒歩5分という立地にある。笹川駅(千葉県香取郡東庄町)周辺は「何もない」とそしられるのだが、東庄町は隣接する小見川町や栗源町また山田町が佐原市と2006年に合併して香取市になった時も合併しなかったのだ。つまり「合併しなくてもやって行けるから/合併する方が損だから」でもあったわけで、2006年以降も「香取郡」として存在する東庄町や多古町また神崎町は財政的に安定しているのかもしれない。川向こうの茨城県神栖市の工業地帯のような派手さは一見ないけれども、「何もなく」変わらずいられることの豊かさが思われた。隣のテーブルの三世代で外食を楽しんでいる光景はそうした「変わらずにいられること」の象徴のようであって、こういうものが「強さ」だなあと感じていた。そういう視点で町をみると、「〇〇ができた」「何でもある」という魅力語りは色褪せるものだ。何事もなく不変でいられるって、すごいことなのだ。全国どこにでもあるチェーン店の数が幸福度の指標になることはない。
食事を終えてそのまま東京に戻ってもよかったのだが、念のため母の家に寄って戸締りを確認することを伝えると、はとこ夫婦も一緒に行くという。母の家でまた尽きぬ話をしていると、庭木を突つくコンコンという音が響いて、見ればキツツキがいた。肉眼では初めて見た。車に積んであるビデオカメラを用意しているうちに、どこかに行ってしまったのだが。
じゃあねまた来るねと別れて、自分も母の家を出た。しばらく車を走らせていると、さっき別れたはとこ夫婦から着信があった。電話ができる場所に停めてかけ直すと、現在地を聞かれた。ああまた二人で何か企んだなと思いつつアホ顔で待っていると、たくさんイチゴを持ってはとこ夫婦が現れた。わざわざ東庄町に戻って買ってきてくれたのだという。そのいちごロードだかいちご街道だかで。新玉ねぎやらえんどう豆やらイチゴやらお土産をたくさん持たされて、実家に帰省した実感をたっぷり味わい、帰路についた。
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はとこという関係性であるから、私の祖父がはとこの祖母の兄に当たる。うちの祖父は天真爛漫で、はとこの祖母はしっかり者であったため、二人の関係性は妹が兄の世話を焼くことに尽きた。それが、それぞれの孫の代でも引き継がれている気がする……いやまさか。でもはとこの性格について、あのおばあちゃんに育てられたらそりゃこうだよなあ、という気はする。そしてあのじいちゃんだったからこうなのね、と我が身を省みることもあるのだ。いやいやそんな「不変」や循環はダメなのだ。しっかりせねば。