
「ご感想への返信2023」No.23
カミングアウトをされたときに、自分の意見は言わなくていいとおっしゃっていましたが、実際に対面でカミングアウトをされた場合、そのあとにもコミュニケーションを続けないといけないことから自分の意見を言わないでその話を聞くというのは実際には非常に難しいのではないかと感じた。また、カミングアウトをする=受け入れてほしい、という心理があると思うのですが、自分の意見を言わないという(肯定する)以外にどのようにそれを受け入れればよいのは疑問に感じました。人間関係のお話なので、必ずしも正解があるわけではないと思いますが、常に相手の言動の裏にある考えや思想を尊重して人と関わることが重要だと感じた。
セクシュアリティを受け入れてほしい?
「カミングアウトをする=受け入れてほしい、という心理がある」という予測を立てたわけですね。しかしその人は何を受け入れてほしいか考えたときに、「セクシュアリティを肯定しなければ受け入れたことにならない」と思った。で、必然「ゲイでもいいと思う」という肯定になる――なるほど。結論から言えば、ちがいます。ちょっと説明しますね。
私は講義室で皆さんにゲイの講師だとカミングアウトしましたね。私の気持ちとして、「ゲイであることを皆さんがどう思っていようが」、言葉は悪いですが「どうでもいいこと」なんですね。それが偏見でも構わない。「講義が成立すればいい」。皆さんが講義中に私に対する反感や悪意を私の前で出さなければ(マナーさえ守れれば)、私は不快にならない。
だからあの時間、私は皆さんに一度も「講師がゲイであることをどう思うか」質問していません。それでも講義は成立したでしょう? 皆さんは私に対して「RYOJIさんがゲイでもいいと思います。私たちは講師がゲイであることを受け入れます」と言ったわけではないのに、何の問題も起こらなかったわけですよね。
カミングアウトは必ずしも受け入れを求めてなされるのではないし、受け入れを求めていたとしても「セクシュアリティそのものの受け入れではない」ということです。「講師として」受け入れられればいい。
私が患者なら、あるいは同僚なら、仕事をしてくれればいい。患者として受け入れればいい、同僚として受け入れればいい。そこであなたの価値観が仕事の邪魔をするようなら、あなたに問題があります。
だから「同化しなくていい」「共感はいらない」「個別状況の理解だけして(分からない時は聴いて)」と言っているわけなんですね。偏見や個人的な感情/思想で仕事ができなくなるのは困る。患者の病院離れを起こしてもいけない。皆さんが考えることは「いかにその患者が治療に集中できるか」です。ぜひヒアリングして環境を整えて下さい。その患者のセクシュアリティを理解する。ほかの患者と異なる個別性を「整理する」という理解をして下さい。
ここでも患者に対して(あるいは同僚に対して)あなたの価値観を説明することは不要でした。それでも成立するのです。なぜならあなたは「他者のセクシュアリティがどうであろうと」医療者としてあるいは同僚として職務を全うできるからです。
友人の場合はどうでしょうか。
あなたが受け入れるのは友人そのものであって彼女のセクシュアリティではありません。
意見を求められていないのに、良いか悪いか言う必要はありません。なぜならセクシュアリティが悪いはずがないのは「自明のことだから」です。でももし「どう思うか」聞かれたら?
「怒ってるよ。隠し事しやがって」
これが一番、ハンサムな答えです。友達に、他に言うことあるの?
もうこれからは全部言って。困っているならちゃんと話してほしい。
後から聞かされるの嫌だ。私もこれからは全部話すから。
そういう友達になれたってことだよね?
避けた方がいい言葉、それを言うべきたったひとつの場面。
「ゲイでもいいと思う」という言葉は、出て来ないのです。なぜなら当たり前のことだから。そしてシス‐ヘテロからの「良いか悪いか」という言葉で、性的少数者は簡単に存在と生存にかかる部分で抑圧されてしまう現状であればなおさら、シス‐ヘテロからは絶対に出て来ない言葉なのです。もしマイノリティから「どう思うか」聞かれたら、あなたが驚き、憤然としてもおかしくないレベルのことなのです。「聞かれたから答えるけど、それは侮辱的な質問だと思う。それが答え。分かった?」と言っていいくらいのもの。
私は教室で学生から「女性専用車両をどう思うか」聞かれたことがあります。とてもショックだった。「女性専用車両をあなたがどう考えるか分からない。なぜならあなたが男性だから」と言われた経験だからです。私には、そう聞きたい学生の気持ちは分かるけれども、それでもショックでした。ただ、私もあなたもマジョリティであれば、相手に「それは侮辱だ」と怒るより、社会の不備を修正していくこと。それしかないのです。
ショックだったけど、後から思い直したんだよね。そういう質問が出て来るうちは、まだ自分がやるべきことができていないんだと。
どうしても、必死に、本気で、絶対に、「あなたが性的少数者でもいい」と分からせなければならない場面がひとつだけあります。あなたの子が性的少数者だった場合です。存在と生存に許しを与えるのは、親以外にないからです。その時だけは、唯一、その言葉を使う場面です。頑張って下さい。