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30デイズ/ゲイと一緒に30日間

 ドキュメンタリー映画「スーパーサイズ・ミー」で知られるモーガン・スパーロック氏が亡くなった。残念な気がする。私は「スーパーサイズ・ミー」は未見で、氏の作品では「モーガン・スパーロックの30デイズ」シリーズの一本、「ゲイと一緒に30日間」を観たことがあるだけ、なのだが。

敬虔なクリスチャン、軍隊経験者、ヘテロセクシュアル男性、ミシガン州で親きょうだいと暮らす24歳。そんな彼がサンフランシスコで30日間、40代のゲイ男性と一緒に暮らしてみたら、彼の否定的な価値観は変化するのか?

「モーガン・スパーロックの30デイズ/ゲイと一緒に30日間」はそんな話。 


【ネタバレ注意】 
結末も含め具体的な内容に言及しています

 異文化交流は楽しいばかりではなく、拠って立つ価値観が揺らぐ苦しい経験であるかもしれない。それが偏見を抱く相手との交流であれば尚更だ。

 この青年にも、ゲイに対して一定の思いがある。特に宗教上の教えを疑うことは彼にとって苦痛だし、レズビアンの牧師との対話では反発もする。

 しかし同居するゲイに対して自分が抱いた信頼や、PFLAG(ゲイの親の会)メンバーへの共感、多くのゲイたちとの交流が、彼の気持ちをほどく。

 30日を終えミシガンの家に戻った彼は家族にその日々について語る。でも何かが共有できない。家族からの反応に同調できない自分に、彼は気づく。

 郷里に帰ってからの彼が経験する「もどかしさ」が印象的。彼はもう、家族と一緒にゲイを嘲笑できなくなっていた。「また行くのか?」「たぶんね」――彼のさびしさが心に残った。それは異端者としての自認である。


 それなりに長いので授業で取り扱うには思い切りが必要なのだが、それでも一度、学生たちに観てもらったことがある。これ一本を見て性的少数者が直面する状況を平らかに見渡せるわけではないし、どちらかと言えば価値観が変わる瞬間や、家族との分かり合えなさを含めた成長にともなう痛みに準備できればいいかくらいの気持ちだった。あれやこれや、色々な場面で。

 価値観が崩れる経験は苦しいものだ――周囲との温度差に悩むのは「当事者」(本当に当事者って言い方は不便かつ不適なので、大嫌い)だけではなく、時代の刷新を必要と感じた人々は皆それを経験する。シークエンスとしてその部分はとても短いのだが、このドキュメンタリーはそこを見落としていなくて、かなり好感をもった一本だったのだ。モーガン・スパーロック、ありがとう。



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