ゲイがバレンタインにチョコを買うなら
今日仕事帰りにスーパーに寄ったら、若い男性がバレンタインデー用のチョコを物色していた。結構長い時間なやんでいる。
「おう兄ちゃん彼氏にか。買いづらいなら代わりに買ってやるぞ」とか言えるタイプのおっさんであることを誇りに感じている私だが、他人は私が思っているより遥かにデリケートであるから様子をみる。まあヤクザみたいのに声かけられて泣き出されても困るし、ここはスマートにね。おっちゃんそっと待つよ。ゆっくり選べ、なあ若者。
……なげえよ。おっちゃん急ぐんだよ。シュークリームとエクレアをためつすがめつ眺めて時間を潰すのにも限界がある。お腹空いた。じゃあな若者。
というわけで23時に岡崎道徳を流しつつエクレア食いながら書いている。シュークリーム1個とエクレア2個買っちゃったよ。なんでだよ。
まあでもなあ、心配もするわけよ。ちょっと聞いてくかい。エクレア食う? おっちゃん、新宿京王地下の某ショップで店員に嫌な接客されたことあんのよ。いうても2008年だし東京だよ。新宿だよ。そこで付き合いたてホヤホヤの彼氏さんにチョコ買ってみようかなと思ったわけさ。どうせならちゃんとバレンタインっぽいのがいいよね、といかにもそれらしいのを選ぶ。
ここからよ。店員さんにショーケース指さして、これ下さいって言ったら、何か店員さんの笑顔が消えて、怖い顔になっててさ。
「これキャンペーンの包装になるんですけど! 本当にいいんですか!」
ちょっと何でキレてんの。「あ、ハイ大丈夫です」と答える。
「バレンタインですよ! キャンペーンの包装になるんです!」
「分かってます。あと愛の贈り物にキャンペーン連呼はいかがかと」
「そういう風に思われますよ! いいんですか?」
こええよ。っていうか「そういう風」って何だ。「思われる」って何だ。
なんか、心なしか包装する手つきも乱暴でさ。それがおっちゃんにとっての最初のバレンタインチョコ購入体験だったのよ。なんかさ。ナイーブなこと言っちゃえば、相手に渡す時にね。そんな風に扱われたチョコだっていうのが、悪い気がしてさ。しょんぼりしたよね。まあ渡したけどさ。翌年からは、ゴディバにしたさ。以来ゴディバ。あそこで嫌な思いをしたことないから。あれがいいかなこれかなって、毎年めっちゃ時間かけて選んでる。これって何の味ですかとか質問もするし、あっちもいいけどこっちのもめっちゃいいですねとか悩んでいるゲイを店員さんたちはニコニコ待っててくれる。
――分かってる。もちろんネットで買ってもいいんだろう。でも東京で暮らすゲイなら実店舗で買いたい。おれみたいにゲイも買いに来たりするって、企業に分かって欲しい。それは大事な可視化だと思うんよ。東京という大都会に暮らすゲイだからこそ、カミングアウトできない地方のLGBTがいつか少しでも楽になるように、続けたい――そんな気持ちがある/あった。
最近は、そんな肩肘張った思いより、ゴディバの店に癒されに行く感じだけどね。毎年一度の、楽しみだ。
去年は、そういう感謝の思いを15年分、ゴディバ・ジャパンのサイトからメールで送った。こんなお返事をいただいた。
こんな循環も愛のような何かかもしれなくて、バレンタイン・デーに相応しい。そんな気がしてる。だからバレンタイン・デーは好きなんだ。
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