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約束のロータリーであなたを目で探す
筋金入りのユーミンファンと待ち合わせするときは以下の手順を要する。
①最初は聞こえないふり(雑誌をめくる)
②グッと睨みつける
③「なぜ名前知ってるの?」→ 「いやだ久しぶりね!」
待ち合わせるだけで大変である。なんで一度は聞こえないフリすんの。
この曲が収録された「ALARM a la mode」は良いアルバムなのだが。約束しといて「さあ明日は何を着て行こう?」って白い服と白いローヒールを合わせて前夜ひとりファッションショーをして、当日どしゃ降りだったから我に返って「予定ができた」と電話を切る、というパターン(『白い服、白い靴』)も考えていたのだが(きっと喜んでもらえたはずだ)、当日は快晴。
準備に何パターン必要なんだろ……
スウェットパンツにティンバーのブーツでいいか。面倒だし。そもそもローヒールなんかねえよ。じゃあ雑誌は何にするか。「コスモポリタン」? アレ今でもあんのかな? ここはハズシで「漫画ゴラク」? やり過ぎか。悩む。とことん悩むなあ……
でもそんなことも仕方ない。相手は全く同じ内容のDVDを所有し何度も繰り返し観ているのにも関わらず、それが映画館で上映されるや飛行機で新宿まで観に来ずにはいられないほどの推し活人間である。ユーミングッズであれば正隆のウチワでも買うであろう御方である。いそいそとバスタ新宿へ。イヤーカフ、やっぱ休日とはいえ派手かな。外そう。あれ、こんな心の移ろいが、なんかちょっとユーミン世界かも。それにしても人がクソ多くね。インバウンド効果すげえな。こんな中で見つけてもらえるんだろうか……
「RYOJIさん!」
あ、名前呼ばれちゃったから「聞こえないフリ」できないや。……えっ、じゃあそういうあなたは……
「山ちゃん?」
あわわわわ。山ちゃんって、実在するんだ……!
両手を握り合ってピョンピョンとかはせず(多くの旅行者の一番の思い出になってしまうのを避けた)、「荷物少ないけど大丈夫?」とか、まともな人間アピールする。だって、おれいつも異常なテンションの記事ばかり書いてるから(自覚アリ)本当は物静かで控えめだって分かってもらわなきゃ。
「あの記事サイコーだった! ギャハハハハ」(3分後)
なんかね。やっぱ緊張はしてたんすよ。多分一般レベルから考えたら、ふたりともコミュニケーションオバケみたいな部類であろうとは思う。でもおれはそれでも不器用だし、よく言葉に詰まるし、山ちゃんのサービス精神は繊細さの上に築かれている。とんでもない気遣いの人だと、文章を読んでいて思う。もちろん山ちゃんは「そんなことないない!」と言うだろうし、それも本当で実際に雑な部分だってあるだろう。でも会ってみると、やっぱり思っていた通りの人だった。こういうとき、文章って「出る」よなと思う。
しかし正隆のウチワはマジで要らないらしい(予想外のこともある)。
IKEAの店内をウロウロして、そこでホットドッグ食って、歌舞伎町を歩いて。もしかしたら一生会うことがなかったかもしれない人と時間を過ごしていることが不思議なのに、それでいて何の違和感もない。ひたすら楽しいだけ。こんなことがあるもんだなあと思った。笑い過ぎて、あとから喉が痛かったくらい。映画館でユーミンのライブ映像を観て(想像を上回るもので本当に観る機会をもらえてよかった)、鳥貴族で焼き鳥食って、酒を飲んで。
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多分、ネットでつながっているほとんどの人とは会わずに過ごしてしまうんだろうと、おれは予感している。たとえば SNS で打ち出しているキャラクターと実像がちがう人は(それは悪いことじゃ全然ない、OKだ)二の足を踏むと思うし。でもこうやって会いたい人はいるなあとやっぱり思った。
意外とね、隠している本質なんて、バレてたりするもんかもしれないし。山ちゃんの言によれば、おれはそのまんまらしい。えー。
問題は、別れの寂しさ……かな。あとの祭り……いや祭のあとの。
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もちろん帰りのバスを待つ間だって楽しかった。でもそのバスが来たとき、山ちゃんが「もう帰って下さい」と言ってくれるので「分かった」とすぐ背中を向けた。見送られるのが嫌いな人は、寂しがりやさんだと思う。だから遠ざかるバスを走って追いかけていいならそんなギャグだってやり切るつもりだったけど、あっさりやめた。毎日会えるみたいに別れた。
君に会えなくなるなんて――「WANDERERS」。この曲も映像のなかではとても楽しいダンスで。ちょっと踊りたくなったもんな。いい歌だなあ。
じゃーにー