見出し画像

2024/08/19「リアル」第16巻 発売

4年ぶりに待望の新刊発売。

 あまり書けることはないのだけど、短く、私的な思いを。

「リアル」との出会いはパートナーからのオススメ

 「バカボンド」「スラムダンク」で知られる井上雄彦の、「リアル」を教えてくれたのはパートナーだった。交際が始まり間もなくだった気がするが、それまで刊行されていた分をプレゼントしてくれて、それ以降、新刊が発売されるたびに「自分用」「私用」の2冊を買い、渡してくれる。自分で買うからいいのに、彼の行動原理がよく分からない。

「リアル」で泣いたコマがあった

 読み始めてすぐ、好きになった。車いすバスケの話である。主に3人の主人公がいる。中学生の時に短距離走と出会い全国大会決勝に進むほどの選手であったが骨肉腫を発症し義足になった戸川清春。高校時代にバスケ部だったがナンパした女性をバイク事故で下半身不随にしてしまい退学した野宮朋美。何でも器用にこなすが劣等感の裏返しとして他者を見下す性格の高橋久信。彼も交通事故で脊髄を損傷し下半身不随となる。三者三様の絶望が青春を支配する。私は特に三人のうちひとり「加害者」である野宮朋美に心惹かれた――というより、その野宮朋美の「作品における扱い」に身体を震わせて泣いた。絶望に打ちひしがれ立ち尽くし落涙する野宮朋美を描いたひとコマ、その時に作者は野宮朋美に「NO EXCUSE」と書かれたTシャツを着せたのだ。ノーエクスキューズ、言い訳にならない。そうした意味だろうが、それは車いすバスケットチームの一団体の、そのチーム名でもあるからだ。

 交通事故を起こし、バイクに同乗させた人を下半身不随にさせた野宮朋美に、作者である井上雄彦は「NO EXCUSE」とプリントされたシャツを着せた。作者がそれを車いすバスケットチームのチーム名だと知らなかったはずはない。もちろん分かった上で、野宮朋美に着せた。それは永遠に終わらない贖罪を意味するのだろうか? しかし私はそれを一種の優しさと感じた。
 例えば同じような事故で同様の「被害者」となった人は、そのコマで「加害者」がそのTシャツを着たことを感情的に許せるだろうか。分からない。分からない私だけれど、私は作者の野宮朋美に対する思いの深さにボロボロ泣いたのだった。実在するチームのチーム名が入ったTシャツを加害者である野宮朋美に着せる覚悟を、確かに作者はしたのだ。それは共に罪を背負うような、質の覚悟である。

 どれだけ被害者の入院先に通いつめ追い払われても、野宮朋美は言い訳できない。出口のない青春。そんな野宮朋美に、作者はあえてふたつの課題を与えた――許されないこと。そして、救いを見出すことをだ。彼は一生消えない罪を背負い、その中から「自分のではない」大きな救済を何としてでも探し出さなくてはならない(ただしそれは挫折に終わるのかもしれない)。 
 どんな結末が用意されるのか。何がリアルなのか。どうしても見届けたくて、知りたくて、待っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?