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カツカレー問題
カツカレーが好きになれない理由を、おれはちゃんと言えるんだ。問題は脂なんだ。フライに閉じ込められた豚の脂がカレーに溶け出さないし、調和してくれない。そして、とんかつに合うのはソースだ。カレーじゃない。
「倍うまくなるの」
「いやいや別々に食えば2度うまいでしょ。それが倍ってことでしょ」
こんな計算もできねーのか。オラオラ。
公然かつ昂然と「カツカレーが嫌い」と言うおれを職場の人たちは非難する。この件に関して、おれは一歩も退くつもりはないんだけど、いささか分が悪い。分かってる。いずれ全世界を敵に回すんだろう。いいさそれでも。おれは・カツカレーは・食わない。
人よ、ポークカレーが大好きなおれがカツカレーを嫌った意味を想え。
「じゃあハンバーグカレーはどうなの」
「ああ普通にいけますね。無問題」
「それは食うんじゃん!」
「いや全く別のことじゃんスか!」
なぜ分からないのか。大体ハンバーグカレーという例えが弱いよ。ハンバーグカレーは常にカツカレーより下位の扱いを受けており、せいぜいこんな場面で反証の材料に使われる程度しか日の目を見ない。言うほど食ってないだろハンバーグカレー。実は誰も食ってないだろハンバーグカレー。「別々に食う方がうまい」って思ってるだろ。そんなの例えに出してどうすんの。負ける気満々じゃん。
しかし一年間365日でたった1日だけは、カツカレーを食わなきゃいけない気がする。カツカレーを愛した父の命日だけは。もちろんそれでも可能な限り避けてるけど、それ以外で父の好物だった何やかやを食すことでごまかすけど、どうしたって「避けてる感」は滲み出す。
カツカレー苦手感と、亡父への義務感というアンビバレント。
夢に昔飼っていた犬が出て来た。尻尾をブンブン振ってた。相変わらず可愛かったけど今日だけは親父置いてくんな。可愛いけど。嬉しかったけど。そして父さん。犬だけ寄越すのやめて下さい。
さて、しょうがねえな。
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今宵、東京の片隅で。ひとりカツカレーを食ってるおっさんがいましたけど、それはおれでした。カツカレーを求めて夜の街をフラフラ歩いてたんですが、やっと探し当てて、それが意外にも……おいしかった……
ガストなんですけどね。ガストのカツカレーが正解だったんですよね。カツが薄いから脂身をほとんど感じない。そして、黒っぽい(欧風?)あまり辛くも甘くもないカレー。くやしいけど、これは食べられるし……おいしかった……これは、職場の人たちには内緒にしようと思ったのでした。「ほら美味しかったでしょ」って勝ち誇られるのはつらい。耐えられない。
まあこれからも別々に食べるつもりですが、年一くらいなら、いいかな。