映画「眉村ちあきのすべて(仮)」プロデュース記1 〜すべてのはじまり編〜
7月17日に渋谷ホワイトシネクイント、静岡シネシティザート他、全国順次公開の映画「眉村ちあきのすべて(仮)」のプロデューサーを務めた上野遼平です。
このnoteでは、いかにしてこの映画が作られたのか?波乱万丈のブッ飛び低予算映画制作記として、プロデューサーの視点で何度かに分けて書いていこうと思います。映画を観た人がこれを読めば舞台裏を知ってムフフと楽しめ、映画を観ていない人もこれを読んだら映画を観たいと思って貰えるような記事になればいいな〜と思っています。
記事の本題(面白いとこ)は3つ目の項からになります。前提知識の有無によって最初の2つは読み飛ばして貰っても大丈夫です。
「眉村ちあきのすべて(仮)」ってどんな映画?
まずは何よりここから説明しておく必要がありますね。もう映画を観た人は読み飛ばしても大丈夫です。
「ゴッドタン」などのバラエティ番組で即興ソングを披露するなどして話題沸騰中の「弾き語りトラックメイカーアイドル」眉村ちあき。(知らない人はWikipediaとか見てみて!おったまげるくらい面白い人だから!)彼女のアーティストドキュメンタリーとして作られた本作だったが・・・、密着ドキュメント、ジュブナイルSF、サスペンス、青春物語、冒険活劇とジャンルがシームレスに行き来する新感覚映画!・・・と言われてもよくわからない人は予告編を観てください。多分観てもよくわからないですが、なんか面白そうなのは伝わると思います。
もともと4月に公開予定だったのが、まあこんなご時世ですから延期になってしまい、オンライン上映なども経て、やっとこさ劇場公開出来るのが、7月17日になったわけです。
そしてこの奇想天外な映画をプロデューサーとして作ったのが僕、というわけです。
映画プロデューサーってどんな仕事?
そもそもここがイマイチわかっていない方も多いのではないでしょうか。という事で「映画プロデューサー」という仕事について一般論と僕の持論を交えながら簡単に説明しようと思います。
映画プロデューサーの仕事をひと言で説明するなら「映画製作プロジェクトを実現させるための総責任者」という感じになると思います。「じゃあ監督と何が違うの?」と思う方の為にもう少し踏み込んで説明しましょう。
映画監督は、役者の演技、ロケ地、衣装、美術セット、カメラの撮り方、照明の当て方、CGはどうするか、などの映画の内容の要素を指揮する仕事です。
一方で映画プロデューサー(以下「P」)はと言うと、資金集め、スケジュール管理、資金の使い道の決定・管理、危機管理、トラブル対応などなど、そしてキャスティング、スタッフ選定(この2つは監督と共に決めたり、監督の要望が色濃く反映されます)、Pが企画立案した場合は監督を誰にするかも決めますし、そもそもどのような映画にするかの方向性は監督と話し合ったり、場合によってはPの方が権限を持っている事も少なくありません。
これほど多岐に渡る業務であるPですが、映画企画の成り立ちによって関わり方や範囲は様々あります。
一つ目は、企画立案や資金集め等を担う業務です。もう一つが、企画や資金は既に用意されていて、それをどのように運用するかを担う業務です。このどちらもが映画制作には大変重要で、プロジェクト(=映画)をいいものにする為の仕事です。
例えば極端な例ですが、いくら才能のある監督やキャスト・スタッフがいても、資金繰りに失敗して撮影中のご飯が全く無いまま徹夜し続けたら、みんな死にます。いい作品はできません。そういう根本的な部分をクリアして、更にいい映画にする為の戦略立案をして実行するのがPの仕事と言えるでしょう。
更に僕のような「フリーランスのプロデューサー」の立ち位置についてもせっかくなので軽く触れておきます。基本的にプロデューサーは、映画会社やエンターテイメント会社の社員である事がほとんどで、プロジェクトを会社に承認してもらい、確保した予算をプロジェクトに出資します。また「制作プロダクション」の社員である事もあります。制作プロダクションは予算を預かりその運用の方を担う会社です。
フリーのプロデューサーというのは文字通り、組織には属さず(自分が制作プロダクション等の社長である場合はフリーのプロデューサーと同じようなものと考えられますが)、単身で企画売り込み、資金集め、予算運用などなどの業務を映画の作品ごとに契約して行うイメージです。
「眉村ちあきのすべて(仮)」プロデュース記1 〜すべてのはじまり編〜
いよいよ本題。面白くなってきますよ!今回の記事ではなぜ僕がこの映画のプロデューサーをする事になって、その時どんな事があったのかについて書きます。
まず今回僕のところにこの映画を作る話がやってきた時には、「眉村さんが主演の映画を作る」という企画・制作資金・監督・脚本(初稿)は全て揃った状態でした。眉村さん自身が社長を務める「(株)会社じゃないもん」が自分達の会社のお金で、社員で映像を担当する松浦本(まつうら・はじめ)さんが監督・脚本をするという前提でした。
つまりこの場合、「企画や資金は既に用意されていて、それをどのように運用するかを担う業務」としてのPを彼らは探していて、そこで僕に白羽の矢が立ったというわけです。
まず僕は話を聞いてびっくり仰天!眉村ちあきという人の事は少しは知っていたけど、会社の社長をやっていて、自分の映画を作りたいなんて事を考えるアイドルって・・・???しかも、監督はそのアイドルに雇われている社員って、ますます訳わからん!しかも眉村さんは自分と同い年の23歳。僕も23歳でこんな事やってると驚かれるのですが(18からやってます。その話はまた今度)、流石に眉村さんのやってる事は規格外過ぎて怖気付きましたね。
話を聞くと、まずミュージシャン映画を沢山手がける「SPOTTED PRODUCTIONS」に「会社じゃないもん」が相談して、それでこういうタイプの映画だと僕が向いているだろうという事で、こちらに相談がきた流れのようです。魔界人アイドル・椎名ひかりさんを軸にした「少女ピカレスク」やアーバンギャルドの松永天馬さんを軸にした「松永天馬殺人事件」といった、音楽アーティストの本人のキャラクターをそのまま生かした彼らの特殊な主演映画のプロデューサーをしてきた事もあって、僕のところに紹介のバトンが漂着してきた、と。なるほど、得意分野ですよ?
初めての打ち合わせ。カフェにやってきた大人しそうな男性は、松浦本監督。真面目そうな人。
そしてプロット(あらすじ)、脚本に目を通す。・・・なんじゃこりゃ!!!!!!!!!!!!!
「ただのドキュメンタリーじゃないんです」なんて言うから何か仕掛けがあるんだろうな〜とは思ってたけど、なにこの大胆過ぎる脚本は!?
※あっ、ドキュメンタリーだから脚本は・・・ないですね。ないはずですよね。
上野プロデューサーは、早速これまでの経験を踏まえて実現する為の予算を脳内で弾き出しました。そこで出た答えは・・・・
「「「「「 5億円 」」」」」
5億円です。嘘ではないです。予算5億円の映画といえば、東宝のビッグタイトルの予算です。「シン・ゴジラ」は多分10億くらいかかってるけど、その半分くらいの予算はかかるかもしれない。
しかし、まさか僕のところに5億円の仕事なんて来ないし、いくら眉村さんが割とテレビに出始めていたとはいえ、5億円を回収出来る程のタレントでない事くらいわかる。(眉村さんごめんね)スマホで眉村ちあきの画像を表示しながら「こいつは財閥の娘か、石油王の愛人か、そうでなければ人生棒に振るアホか・・・」と考えてました。
そして恐る恐る「ちなみに予算はいくらくらいあるんですか?」と質問する。この質問、本当にいつも恐る恐るなのです。だって、やりたい事に予算が見合ってなかったら、本当にキツイはめに逢うからです。
「お願いだから財閥の娘か、石油王の愛人・・・いや、紀州のドンファンの愛人でもいい。その辺のどれかであってくれ!」と祈っていたら、松浦監督が涼しい顔で「200万くらいですかね〜」と言う。
「「「「「 200万円 」」」」」
腰が抜けた。500万円かかるところを200万円ならわかる。いや、わからない。絶対に成立しない。なのに、5億円かかるところを200万円でと言うのだ。しかもこの涼しい顔で!
Pは、予算に合わせて監督や脚本家に脚本を変えて貰う事も大事な仕事のうちです。でも今回はそういう問題ではありませんでした。ちょっとロケ地の数を減らしたりしてどうにかなる問題ではなく、根本的に全てが間違っている!なのにこの松浦ってオッサン、なんで顔色ひとつ変えないで喋るんだ・・・。怖い・・・。よく見るとちょっと色黒で東南アジアの雰囲気もある顔立ち?もしかして、監督の故郷の国の物価だと可能なのだろうか?
5億円はちょっと盛ってますが、200万円なんて金額は論外過ぎます。そもそもCGもスペクタクルなアクションシーンもない普通の映画でも、200万円という予算は学生が友達と作る映画以外ではあり得ません。いわゆる日本のメジャー映画予算(2億円)で換算すれば、上映時間1分。目の前の脚本を1分に収める方がまだ現実味があるかもしれない。それはない。内容的にはハリウッド大作なのでハリウッド大作予算(200億円)で換算すると、0.72秒。もっとない。20世紀FOXのロゴが一瞬チラっと映ったら終わり。ポップコーン1粒も食べんと終わり。キャラメルがカリカリのとこ、見つける時間もない。
という事で、あり得なさすぎてむしろ、やってみたくなったのです。5億円の世界をどうやって200万円で作るのか。「プロジェクトX」よりも実現不可能な挑戦を、このサイコパスっぽい感じのオッサンと一緒にやるなんて、気が狂いそう・・・。でもそんな時こそ不思議とやる気がみなぎってくる僕もまたサイコパス。
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