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Ep.1 五色ヶ原(2)

1日目 夜


地面からの冷気のせいか、ブルっと来て目が覚める。
時刻は20:00。テントのジッパーを開け、顔を出すと辺りは闇に包まれており、じわじわと頬が冷たくなっていくのを感じる。
立山 五色ヶ原。今晩はここで一泊するのだ。
遠くのテントから他のハイカーたちの話し声が聞こえてくる。


遠くからハイカーたちの晩酌の声が聞こえる

見上げると無数の光が闇夜に輝いていた。
宝石を散りばめたような星空というのは正に今自分が見ている光景を指すのだろう。
人間界から隔離されたこの場所だからこその光景だった。

いつ雲が再び出てくるか分からないので急いで撮影の準備をする。月は出ていたが22時には沈むので気にしないでおこう。

僕はワクワクしながらシャッターを切っていく。シャッター切る度に胸が踊る。幸せな時間だった。

撮影は天の川が山に隠れてしまうぐらいまで続けた。普段、都会では夜空を見上げる機会などは皆無であるが山では別である。少しずつ星が動いているのが分かり、地球の運動というものを、星の動きを介して当たり前のように観測できているこの状況が少しおかしく思えた。

ひたすらシャッターを切り続ける

2日目 朝

4時に目が覚め、再びテントから顔を出す。
遠くの空は既にオレンジ色に染まり始め朝と夜の境界線が曖昧になっていた。
地面には霜が降りており、昨晩はだいぶ冷え込んだのが分かる。何人かのハイカーは既に出発の準備を進めていた。

撮影を行う中で、眠気は山の冷たい空気によってすっかり覚めた。朝夕の時間は目まぐるしく光の条件が変わる中での撮影は一種のタイムアタックの様で、シャッタースピードや絞り、ISOの設定を細かく変え続ける必要があった。

ゴールデンタイムが終わる瞬間には、草紅葉になっている辺り一面を朝陽が黄金色に染め上げ、光のショーが閉幕した。

美しい朝だった

雷鳥沢へ

当初の計画は五色ヶ原に2泊する予定だった。
しかしながら、今夜の天気は曇予報。天気図を見ても星は厳しそうな感じ。また、今朝のショーは美しかったが太陽の昇る位置と五色ヶ原が少し低い位置にある為、アーベントロートを見るのは難しく、アーベントロートを撮影したい僕はキャンプ地を変えることにした。雷鳥沢で夜を過ごして、明け方に剱御前小舎まで登り、朝焼けを撮影するというプランだ。

ザレ峠から始まる復路は往路とは違い厳しい道であった。急斜面のガレ場を登り続け、少し下り、また登る。ヘロヘロになりながらも何とか一の越山荘まで戻り、そのまま雷鳥沢へ。

この壁を登る必要があった

キャンプ場についてやっとの思いでテントを設営する。辺りは夕飯の準備を始めており、僕もそのまま夕飯にありついた。今回の山行はオートミール×ドライフーズという組み合わせ。オートミールは軽い上にアミノ酸スコアも高く、栄養もあるから普段から重宝している。オートミールの薄い味や匂いはドライフーズと混ぜて帳消しにする。

「明日は絶対ゆっくり雷鳥沢で朝を迎えよう。しゃれた紅茶でも決めよう。」
そう決意し20時頃には眠りについた。

人界に降りてきた安心がある


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