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Ep1. 五色ヶ原(3)

起床


普段20:00には寝ないので深夜2:00頃、目が覚めてしまう。
今夜は曇予報なので星は期待できない。なので、朝はのんびり雷鳥沢で過ごす予定だった。

テントから顔を出すと闇に染まった山肌の上で光が移動している。ご来光目当てのハイカーなのは間違いない。
「いい景色が見れるんだろうなぁ〜。自分はもうクタクタだからいいや」と思い、水を飲んで寝ようとした。
しかし寝れない。あのハイカーたちは一体何を目にするんだろうか。どんな美しい景色を目にするのだろうか。頭の中はそのことでいっぱいになってしまった。せっかく雷鳥沢まで下ってきたのにまた登るのか。果たして登りきれるのか。

気がついたら悩みながら登る準備をしていた。広角レンズから望遠レンズまでをザックにしまい込み、三脚もしっかり積み込む。
あの時間は間違いなく理性が好奇心に負けた瞬間だった。しかし、そんな自分のことを少し好きになってしまった。

出発

日の出を目指すハイカーたち

心地よく風に吹かれて揺れるテント達の間を通り抜け、雷鳥沢を後にする。とりあえず剱御前小舎まで登る。暗闇の中の登山は完全に自分との対話の時間である。1時間ほどくねくねとした道を登り続けていると剱御前小舎に到着した。

小屋前で休憩していると「どこまで行くんすか」とおじさん二人のグループに話しかけられた。どこで日の出を見るか決めてないと言うと「別山がいいよ。あそこは剱岳が目の前にでっかく見えるよ」と教えてくれた。どこから何がよく見えるなど分かっていない自分にはとても有難い情報だった。
おじさん達も別山に行くということでそのまま付いていくことに。剱御前小舎から別山までは30分ぐらいで到着した。

別山

別山の山頂は大きく開けた場所だった。
闇夜の中に佇む剱岳を見ると剱岳でご来光を迎えようと登っているハイカーたちのヘッドライトの光が見える。まるで山が脈打ってるかのような光景だった。

ヘッドライトが一筋の列になっている

段々とあたりは明るくなり、東の空は真っ赤に燃える。
どれがなんという名前の山ということさえも分かってない僕には「わぁ」という言葉しか出なかった。周りのハイカーたちは「鹿島槍がよく見えるなぁ!」とか色々と楽しそうだった。

東の空

山という環境は人の心を素に戻してしまう不思議な魔力があると感じている。空気は透き通りその空気を吸うことで心が純心に戻っていく。暗闇の怖さも、飛ばざれそうなほどの強風も、下界とは全く違う気温も全て自然に対する畏怖を心に形成するためには必要なのである。人の生き物としての純粋な気持ちを思い起こさせてくれる。それが山という環境であり、巨大な生き物であるのだろう。

夜明けのショーが終わり、あたりはすっかり明るくなる。僕はこのまま下山するか迷ったが、折角だからということで雄山まで歩くことにした。
大汝山、富士ノ折立を経て雄山にたどり着く必要があるが、荷物の殆どはキャンプ場にデポしてきたので特に苦しい思いはしなかった。

雄山を目指す

雄山までに沢山の人達とすれ違い、道中を共にしたが、皆何を考え、思いながら山を登っていたのだろうか。そして何を感じたのだろうか。いつかそんなことを色んな人と話せるような機会を持てればと思った。

最後はみくりが池温泉でゆっくり湯に浸かり、今回の山行は終了とした。3日間歩き続け、立山というこの山岳地帯の雄大さと厳しさを知ることができた。
夏や冬の立山も美しい景色を見せてくれるだろう。
夏の五色ヶ原もとても美しいことだろう。
何度歩いても終わりがない。自然には僕たちに見せてない無限の顔があることだろう。

今日も誰かが登っているのだろうか。

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