Bon Voyage
こんにちは、猟平と申します。
私は株式会社SPVRKという音楽にまつわるあらゆるエンターテイメント会社の代表をしながら、自身も作詞作曲家として活動し、アーティストのプロデュースをしています。
今回、noteを始めるきっかけとなったのは、元々自身がアーティストとして活動していた頃から言葉を綴ることが好きだったということ。そして現在も制作している楽曲に対しての想いや意図を、感情的な側面と、クリエイティブ的な側面で言語化したいという気持ちがあった為に、このnoteを始めることにしました。
まだ始まってもいないながらに、イメージしているのは、
・楽曲のバックボーンや、制作意図、制作秘話
・歌詞の解説や、込められた想い
・制作した、しているライブやツアーに対しての見解
・DTMをメインとした編曲の解説、音楽理論の解説
などを自分の言葉で綴っていけたらと思っています。
なぜこのタイミングで始めたのかというところですが、元々はインスタグラムのストーリーズに楽曲に対しての想いや、ライブの感想などを書いていたのですが、文字量に限界があるというところと、すぐにアーカイブ化されてしまうので、自分の言葉は日記のように溜めていきたいと思ったことがきっかけです。
また以前は楽曲に対して多くを語るということはアーティストとして野暮なんじゃないか、聴く側の余白を持たせた方が良いんじゃないかという感情があったものの、今は聴いてくださる方のイメージが膨らんだり、後続するアーティストや作曲家の造詣が広がったりのであれば、伝えられることは伝えたいという気持ちの方が大きくなったことも理由のひとつです。
早速ですが、今回は2024年1月にリリースしたBLVCKBERRY「Bon Voyage」という楽曲について解説していけたらと思います。
[1]楽曲解説
楽曲制作における背景
まず楽曲の制作に至った背景です。
BLVCKBERRY(私がプロデュースを務めるボーイズグループで、詳しくはまた別の機会にお話します。)は昨年の2023年夏より新体制を迎え、よりマスに向けてのアプローチを掛けていくことを目標とし、動き始めました。
ひとつは、よりパフォーマンスでの説得力を持たせる為のダンスのクオリティアップ、そこへ向けて翌年にはダンスベースでのパフォーマンスが出来るようになる曲の制作を目指し(後に制作されたのが「TOXiC」という曲になります。)、その経過点となる曲というポイント。
そういう意味合いでは以前制作した「MASTERPIECE」という楽曲も近い意味合いを持ち、現在で云う「TOXiC」のようなダンスを中心としたアプローチの曲がいつか出来るようになる為にという徐々に幅を利かせていく目的もありました。
余談ではありますが、2021年リリースの「Phoenix」という曲も同じようなニュアンスを持っています。私の持つ世界観やイメージではあの手の曲こそ、大きな舞台で映えるという印象があります。それこそリリースから数年経った今でこそ「Phoenix」は彼らの板に着き、自分達のモノにしていると感じられます。
アーティストが面白いのはそういうところで、楽曲というのはパフォーマーが変化すればそれに伴って進化してゆくし、ファンやオーディエンスの受け取り方も常に変わってゆきます。だからこそアーティストというのは長く続ければその旨みや味わいも深まってくると私は思っています。
ライブ環境の変化
もうひとつはライブの環境へ対してのアプローチです。
BLVCKBERRYは少しずつ、ライブを行える環境が変化してきたと感じます。印象的なところではRIP SLYME、SCANDAL、FRUITS ZIPPER、KREVA(敬称略)などが出演するフェスに出させて頂いたことや、明希(シド)さんの主催イベントへの出演、全国各地でのオープンスペースのリリースイベント、などBLVCKBERRYの名前も知らないような方々の前でのパフォーマンス機会も増えて来ました。
私は音楽は世界の共通言語だと思っています。言葉を知らなくても笑うことも泣くことも出来る。だから言語の発達しない古代から、音楽は人々に浸透し、生活や人生の側に寄り添ってきたのだと思っています。その共通言語として、老若男女、国籍問わず、ボーダーを超えていくことが出来ないものか、いやまずは少なくともボーイズグループという枠組みを超える楽曲に出来ないものか、と考えました。
そのときに必要だと感じたのはボディランゲージであり、
・拍手(手拍子)
・シンガロング
・ハンズアップ(手を挙げる)
この3つで心も身体も揺らす事が出来ると考えたわけです。
私自身も国内国外のミュージシャンのライブによく行きますが、一体感がすごい!と感じさせられるのは、やはりこの辺がメインです。例えばロックバンドで言えば拳をあげたり、EDMを中心としたDJであればジャンプ、アイドルやPOPSのアーティストならペンライトを持つし、メタル界隈ならモッシュでぶつかり合うこともあります。
私はどのアーティストも好きだし、どのアーティストへもリスペクトがあるし、物凄い一体感を目撃したときは感動すら覚えます。そしてその景色はなかなか忘れることがありません。ただどのアーティストにも上の項目は当てはまり、誰が行なっても違和感を覚えることはないでしょう。逆に言えば、所謂音楽フェスに行ってみれば常に上の3つで溢れています。その中にアーティスト独自の振り付けだったり、個性があって、コア層もライト層も楽しめる仕組みになっている訳です。
まさに音楽の共通言語であり、「Hello」のボディランゲージくらい容易に出来るノリを中心とすることをテーマにしました。そしてそのライト層を巻き込めることによって、日頃支えてくれるファンの皆さんが「おお、すごい盛り上がってる」と思ってもらえたり、良い景色を見せてあげられることが私に出来る還元だと思っております。
「Bon Voyage」を丸裸にしよう
いよいよ楽曲本体の解説に移っていこうと思います。
ここからはせっかくなので「Bon Voyage」を丸裸にしていきます。
楽曲の背景は先ほど説明しましたが、ではどうやって曲を作っていくか、というところに差し掛かります。
先にも申した通り、老若男女、あらゆる国境を超えることが目的だったので、まずはリファレンスイメージ出しからスタートしました。アーティストにとってリファレンスを公開するというのは結構タブーだったり、人によっては「空から降りてきた」とか言う方も中には居ますが、私はこのような曲になれば良いな、いつかこういう未来を見る事が出来たら良いな、と描いて曲を造るので、それを変に隠して格好つけてもしょうがないので、ご紹介いたします。
まずはColdplay「Viva La Vida」です。
言わずもがな、世界中のアンセムかもしれません。ものすごくシンプルなストリングスのループに、素晴らしいメロディ、そして言葉の意味がわからなくてもひとつになれるシンガロング。特にこの曲で印象的なのはChorus(サビ)における裏打ちのベルかもしれません。このベルがヨーロッパらしい世界観を膨らませてくれています。
公式にアップロードされているこの映像を見ると、音楽の力、その素晴らしさを感じ取ることが出来ます。
ここに居る数万人が皆自分のペースで、自分らしく、自分を大切に音楽を楽しんでいます。共に歌う人、身体で感じ、それを踊る人、笑う人、涙を流す人、スマートフォンで撮影する人、腕のサイリウムを掲げる人、メッセージボードを掲げる人、肩車される赤ちゃん、抱き合う恋人たち、誰も誰かを否定することなく、皆自分の歩幅で、自分が楽しむということを愛しています。
その世界を含めて、まずはこの曲をリファレンスにしたと云えます。
そしてもうひとつもColdplayから「A Sky Full Of Stars」です。
この曲に関しては、具体的な構造やイメージをリファレンスとしました。
BLVCKBERRYの楽曲では初めてChorus(サビ)後に、最大限の盛り上がりを見せるInter(間奏)を作りました。これはEDMでは良くある技法で、EDMの場合はBuildupで来るぞ来るぞ…と期待させながら、パンチラインを噛ませてドンドン!っていうパターンが多いのですが、ColdplayはPOPなメロディから間奏にドカンと繋ぐというのを上手く表現していて、そのあたりのテクニックを取り入れました。
またライブのこの素晴らしい世界観もそうです。人々が踊り、花吹雪が舞い、光り輝く世界が満ち溢れてる。私はいつかこのような曲に成ればという願いを込めて'Bon Voyage'を描きました。それを笑う人がいようが、私は構いません。夢を馬鹿にされようと、変わりません。自分が自分を信じて、いつかその花は開くと願って、種を植えます。
両曲ともに共通されるのは4つ打ちということと、コード感の大きな変化がないことです。私の楽曲には主に同主調による転調などを用いてサビでガラッと雰囲気を変えることがあります。サビを強調するには転調を用いる方法が一番有効的で、わかりやすく言うならばとてもJ-POP的になるからです。
一方近年の洋楽では邦楽的なアプローチの転調をあまり見る事はありません。最近は特にトラックメーカーやDJのよる楽曲の制作も多いので、コード的なアプローチよりもリズム的、ビート的な制作方法が多いのも要因かもしれません。
ただ私は日本人なので、コードの概念やメロディは非常に大切にしたいという気持ちがあります。なので今回は、コード感は一定をステイさせつつ、メロディで華やかに仕上げるということをイメージしました。
リズムも4つ打ちのBPMは130。私の中では世界中で誰しもがノリやすいビートは125〜135くらい(120〜140までは許容)の4つ打ちだと思っています。
とここまで来るとある程度、この曲がどういう方向に向かうか、範囲が狭まって来るわけです。
[2]歌詞解説
この辺りで「Bon Voyage」の歌詞を解説していきたいと思います。
まずは歌詞カードを掲載します。
過去にどれほどの数の歌詞を書いたかは覚えていませんが、人生の中でも自分自身に刺さる歌詞、言葉というものは在ります。「Bon Voyage」はそのひとつです。きっとこれからの未来もずっと大切にしていきたい言葉を綴ることが出来たと思っています。
それでは要所ごとに見ていきます。
この曲は0サビ始まりなので、まずは1番Aメロから。
「僕らの未来図」との関係性
もちろん、既にお気付きの方も居るかもしれませんが、この2行はBLVCKBERRYの楽曲「僕らの未来図」からのサンプリングとなっています。2021年12月に行われた新宿BLAZEワンマンライブにて、初めて「僕らの未来図」という言葉が世に出ました。その先で待つ初めてのO-EASTワンマンのタイトルとして放たれたのです。
その言葉を持った先で「僕らの未来図」という楽曲を発表しました。けれどその時点では未来図とは何のことやら、だったかと思います。そして迎えたO-EASTワンマン最後の曲として演奏されたのが「僕らの未来図」であり、その曲中で発表されたのが初めてのZepp DiverCityワンマンだったのです。
更にその先で行ったMASTERPIECEツアーファイナル、Zepp Shinjukuにて発表されたのが2度目のO-EASTワンマンとなる「Re:僕らの未来図」。こちらはまだ記憶に新しいと思います。
なぜ「Re:」なのか、まずはこれを紐解く必要があります。1度目のO-EAST当時の自分達は今の自分達を見てどう思うか。良い感じだね、しんどそうだね、頑張ってるね、もっとやれよ、どう思うでしょう。どう返事をするでしょう。
少し前の返事の象徴といえば、メールの返信につく「Re:」でした。中学生の頃とかは「Re:Re:Re:Re:Re:」なんて付くメールも日常でしたね。つまりこの「Re:」は再度という意味合いよりも"返事"としての意味を強く持ちます。
あの頃の僕への返事、僕からの返事、メンバーとの返事、皆への返事、そんな気持ちです。じゃあなぜ返事なのか、というところです。つまるところ、これは完結に言ってしまえば、「僕らの未来図」へのアンサーということです。曲という単位で考えるなら「Bon Voyage」は「僕らの未来図」のアンサーソングということになります。
だから2023年8月14日にZepp Shinjukuで告げた「Re:僕らの未来図」というタイトルには、2024年1月11日にアンサーソングとなる、そしてこれからの未来を新曲と共に示すよ、という意味が込められていました。なので、なぜこのタイトルなのか、良かったら考えてみてくださいと、何度か伝えていたのはその所以があります。そして放たれたのが2024年夏に渡るBon Voyageツアーだったというわけです。
これは昔からなのですが、自分の造るアートや作品には常に伏線を散りばめておいて回収するという、完全犯罪のような癖がありまして(知ってる方も居ると思うけど)、ただそれをあまり人に話さずに自分の中で満足して終わってしまうということも多々あるので、ここにしっかりと明記しておこうかと思います。
こういう伏線や仕込みが、映画やドラマだと世の中ではとても話題になるけれど、アーティストや作品という単位ではあまり話題になることはないですね。だから私はこれはBLVCKBERRYの楽しみと感じてほしいし、それほど愛を込めて作っているプロジェクトだと皆さんに伝わってくだされば、何よりも嬉しいです。
というわけで話はだいぶ回遊しましたが、アンサーであるからこそ仕込んだ「僕らの未来図」の一番最初の歌詞というわけです。
歌詞は、目の前のあなたへ向けた手紙
これはとても素直な気持ちです。私はいつもアーティストの活動は船旅だと表現します。同じ釜の飯を食べ、荒波に揉まれ、大きな港や次の島へ向かう。なぜそんなことをするのか、それは必ず目的があるから。私にとっては、見たことがない景色をあなたと見たいから、それだけです。
これも同じように素直な表現です。まず出会いがなければ、あなたが居なかった。あなたが居なければ、あなたと笑うこともなかった。あなたと笑うことがあったから、悲しさを感じることも、涙を流すこともあった。人生は常に対人です。ひとりで生きていくことなんて存在しない。どんなことも私とあなたの間で起きていること、その証を言葉にしています。
あの日の、というのは先述の通り、以前の自分とのやりとりという意味です。「ここではないどこかへ」とても気に入っている言葉です。旅を表しているようで、でも明確な目的を示しているわけでもなく。
人を傷つけて分かることもあります。人に傷つけられて学ぶ事もあります。きっとそれは全て自分の糧になる。だから恨む必要なんてない。私はそう思います(そんな素敵な人間で在りたいけれど、まだそんな人間ではありません)。
私たちはなんの為に歌うのでしょう。歌を歌っても戦争は止みません。争いは無くなりません。けれど目の前にいるあなたの表情だけなら、変えることが出来るかもしれません。その感情を少しだけ動かすことが出来るかもしれません。
あなたが何処にいても、空はひとつです。ずっとずっと広がる空の下で私たちは繋がっています。 文法的に云えば、この2行の並びはとても綺麗に描けたと思っています。"同"と"何"はどこか似ているし、句点からの"想う"の揃え方も、"もと(Mo-To)"と"事(Ko-To)"で韻を踏んでいるのもこだわりです。
腹を括ってるという意思表示
1番2番のサビはとてもバランスが良く、ワード的にもキャッチーでサビらしさもある中で仕上がっていますが、最後のサビは本当にメッセージとして込めています。
最初の2行だけでいいので、目を閉じて想像してみて欲しいと思います。たった2行で情景が一気に広がりませんか?その2行を浮かべた先で、後半の2行を見てもらうと、とても捉え方が変わるように思えます。
後半の2行が表しているのは「形在るもの」ということです。
私たちは人として生まれました。人を人としてカテゴライズしたのは人ですが、人としてのゴールは「死」です。大きな枠組みで言うならば、動物全てがそのゴールを迎えます。
それは生命を与えられた私たちだけではないです。生命、植物、建築物、企画、グループ、事務所、テレビ番組、食べ物、お店、地球、太陽、両親、子供、あなた、わたし。「形在るもの」は全ていつか迎えるゴールへ向かっています。だから、必死に生きようとするのではないでしょうか。今を届けようとするのではないでしょうか。これは悲しい話ではなくて、この余白は自分に当てはめてもらえたらと思っています。私にとっては人生懸けて音楽を作って、グループをプロデュースして、その全てを全てのあなたと歩み、捧げていれば、その答えはそれほど大切ではありません。
少しむずかしい話に聞こえてしまうかもしれませんが、シンプルに表すのであれば、この船にきみと乗るのならば、死んでしまっても怖くないよ、という愛情表現というのが近しいのかもしれません。
[3]編曲的解説
DTMという視点からこの曲を見ていこう
さてここまで大変長くなりましたが、音楽的な目線で解説して参りましょう。とはいえ、専門的な内容も多く飛び交うので、あまり難しく考えずご覧になって頂けると幸いです。DTMer、作編曲家、バンドマン、ミュージシャンの方からすると、完成した楽曲のプロジェクトや中身を見る事はまず無いと思うので(ラーメン屋がレシピそのまま教えるのと同じ)、良かったら良かったと教えてくれたら嬉しいです。笑
まず私の使用しているDTMはStudio One_Ver6.6.2です。Studio OneはSCRAMBLESという制作チームの門を叩いて以来、ずっと使用しています。なので2018年からとなります。その前はProtools、更に遡ればGarageBandを使用していた事もあります。が、Studio Oneが今でも圧倒的に操作感が良く、基本的に分からない作業が無いように感じられます。
今回の楽曲のBPMは110と130、冒頭の0サビ以外は130です。構成でいえば、日本的な表現でいうと、Aメロ-A'メロ-サビ-間奏-Aメロ-A'メロ-サビ-サビ'-Dメロ-大サビ-大サビ'、という感じでしょうか。コード進行も変わらず、ビートも大きく変わらないのでBメロではなく、A'メロかと思っています。
ではAメロから解説していこうかと思います。
まず、コード進行はⅣ(△7)-Ⅴ-Ⅰずつサビ前まで進みます。すごくシンプルです。
サウンド的に土台からステムデータを使用して説明していきます。パラデータだと100トラックを超えてしまうので、この記事を書くのに1年くらい掛かりそうだからです。ステムとしては、
・RYTEHM
・SYNTH
・GUITAR
・BASS
この辺りに分類します。それが更に細分化されているのがパラデータです。
・RYTHEM
RYTHEMステムは、KICK+FX+CLAP+DAMAGEで構成しています。ビートだけだと分かりづらいと思うので、Aメロ入りのフィルインから聴いてみましょう。
(↑Listen in browserを押すと視聴出来ます)
基本的にはキックが大きく聴こえると思いますが、影の最大の功労者はDAMAGEです。というか私の楽曲にはかなりの確率でDAMAGEを使用しています。
この子の何が優秀かというと、鍵盤ひとつで素晴らしいサウンドのパーカッションを鳴らしてくれるところです。しかもパーカッションパターンとして鳴らしてくれるので、例えば三連っぽいリズムとか、シンコペーションとか、縦きっちりとか、難しい譜割でない限りだいたいどれかフィットします。難しい譜割だったとしても、私の場合は波形に書き出してから、パズルのようにがっちゃんこしてはめるので、上手くいかなかった事がないですね。
ちなみにDAMAGE2も出ています。私ももちろん購入し、これでパーカッショニズム能力も爆上がり、と思っていたのですが、DAMAGE2はもう少し打ち込みに特化していて、オリジナルのリズムを組み立てたい人に向いているようでした。
もし4つ打ちや、とてもシンプルなビートで「なんかこう、もっと良い感じにしたい」とか「カッコよく聴かせたい」というあなたは、DAMAGEやKompleteに収録されているパーカッション系の音源をレイヤーしてみてください。結構いい感じになるはず。
・SYNTH
次はSYNTHステムです。だいたいの音階楽器をここにまとめています。大まかには、ピアノ+ストリングス+シンセで構成しています。
この曲で素晴らしい役割を果たしているのが、ピアノ(Pf)です。部分的ではなく、曲の筋肉と言えるくらいほとんどのセクションにピアノがいます。
そうしてAメロ冒頭から登場するのが、Pluckです。EDM系のサウンドを制作する場合はこの子がないと成り立たないですね。今回使用した音源はNEXUSのBeach Barというプリセットです。シンセ系の音源を使用する際はまず最初にNEXUSを開くことが多いですね。4にはまだアップデート出来ていません。笑
A'メロから登場するのはストリングスですが、使用音源はSPITFIRE CHAMBER STRINGSです。以前、谷山紀章さんの楽曲の制作の際に、室屋光一郎先生にストリングスの演奏をして頂いて以来、室屋先生のサウンドの虜となり、最近は専らTOKYO SCORING STRINGSを使用していましたが、広さの出る空気感のハマりを考えたときに、今回はSCSという選択をしました。
・GUITAR
ピアノと同じくらい今回の曲で活躍しているのがギターです。演奏はAKiさんバンドでもお馴染みの加藤貴之さんです。私はアレンジ面でも演奏面でも絶大なる信頼を加藤さんに置かせていただいております。加藤さんにお願いさせて頂いてイマイチだった試しが一度もないですね、本当に。
Aメロは繊細なアコギから始まり、サビに入る瞬間のエレキギターとのハマりが本当に素晴らしいです。これだけでも鳥肌が立ちます。その抑揚も感じてもらいたいので、A〜サビまで長めに掲載します。
本当に素晴らしいですね。こんなにシンプルでありながら、縦のリズムもしっかりしつつ、ちゃんとグルーヴしている。最高です。
・BASS
そしてベースです。EDMが基盤となっている曲なので、フレーズというよりも帯域というイメージです。プラグインはみんな大好きMODO BASSを根幹に、SUB BASSとしてSubLabXLを敷いています。どちらにもOneKnob Pumperを使用し、サイドチェインを掛けっぱなしにしています。サイドチェインのサウンドを求めている方は有無を言わさずOneKnob Pumperを使用してください。何年も使っていますが、こんなに簡単なエフェクトプラグインなかなかないですね。
とはいえとてもシンプルなので、あまり参考にならないですね。笑
・アレンジ面でのこだわり
ここまで大まかなサウンド面での説明をしてきましたが、アレンジ面でのこだわりのポイントを提示していきます。
・大サビでのピアノとギターの絡み
Dメロ(落ちサビ)の部分から半音転調し、大サビへと繋がります。一度聴いてみましょう。
明るく照らされた照明、紙吹雪が舞い、笑顔と涙で溢れるような、僕はそんな景色がこの音から汲み取れます。
ここでポイントなのは、大サビとして認識してもらい、圧倒的に開けるサウンドを造ることです。ラスサビだから半音上げておけば良いでしょう、というアレンジを良く見ますが、そこでコピペ作家と、細部に神を宿らせる作家の違いが出てきます。ここまで居なかったギターのオブリと、ピアノのカウンターメロディで怒涛のラスサビ感を造るのです。
44秒あたりからの早弾きがまた際立って素晴らしい。そこまでオブリとして大きなリズムで壮大に弾いていたのに、折り返しで刻み始める。合わせるかのように、右手で刻むような鍵盤。降ってくるような音を表現しています。
・大きいメロディライン
これは作曲面でのこだわりになりますが、ロングトーンを多く使用するようにしています。これは人間の声がいかに素晴らしい楽器であるか、唯一無二の存在であるか、という部分にも関わってきます。
たとえばサビは
「ぼーんぼやーじゅ、どこーまーでーもー、いのーるよーーーーーー」
というように平仮名で表すなら、伸ばし棒がたくさん付きます。
これはピアノやギターなどで表現してもなかなか難しいことなんですね。ロングトーンで世界一有名な楽曲はホイットニーヒューストンの「I Will Always Love You」だと思うのですが、
誰もが知る有名なフレーズ、
「えんだーーーーーーーーーーーーいやーーーーーーーーー」
なんて人間でしか再現出来ませんよね。勿論長ければ長いほど良いわけでもなく、それには神の領域のようなテクニックが必要なわけですが、ロングトーンというものには人間ならではの魅力が詰まっているわけです。
楽器の中でも太く、人間の声帯のような音色を持つサックスなどであれば、似たような表現もできますが(探してみたら素晴らしい演奏の映像がありました。今夜はこれで朝まで過ごしたいくらい最&高。)、それ以外の楽器ではロングトーンで人間ほどの存在感を出すのはなかなか難しいものです。
近年ではボーカロイドのように細かいメロディで畳み掛ける作曲も邦楽では多く見られます。海外で細かいメロディとなるとラップのようなアプローチが多いのですが、細かく繊細な音階を辿るのは非常に日本的と云えます。
「Bon Voyage」では雲の上の世界、船旅、映画でいえば1984年に公開された「ネバーエンディングストーリー」のようなイメージを持った曲のため、サビで大きなメロディということは意識しました。
・ミックスの話
最終工程として、ミックスダウンという作業があります。簡単にいえば編曲で出揃った素材を整える作業です。昔はプロデューサー、ディレクター、作曲家、作詞家、編曲家、レコーディングエンジニア、ミックスエンジニア、マスタリングエンジニア、など全て別の人が担当し、ベルトコンベアーのように作業したことも多かったようですが、最近は文明の進化や、業界の予算の縮小という点で、一人の人間がいくつもの工程をこなす場合も多くあります。
私は今回の曲に於いてはプロデューサーであり、ディレクター、作曲家であり、作詞家、そして編曲まで行います。これは案件によって変わってきますし、例えば先日、作曲と編曲を行わせて頂いた櫻坂46「確信的クロワッサン」は、プロデューサーと作詞家は秋元康先生であったり、さまざまなパターンがあります。
ミックスやレコーディング、マスタリングにおいて、案件によって私がFIXまで担当することもありますが、餅は餅屋、どうあがいても絶対に敵わない信頼をおけるエンジニアさん、原 裕之さんにBLVCKBERRYの楽曲は全て任せて参りました。
原さんはずっと長いことレジェンドといいますか、代表作を挙げるのが失礼なくらい数多くの作品を仕上げてきていらっしゃいます。それでも私がやっぱりすごいと感じてしまうのは、ご担当されたL'Arc~en~Ciel「HONEY」「花葬」「浸食 -lose control-」は日本の音楽史を変えた3枚だし、これだけ様々なアーティストを聴くのに「あれ、このサウンドめっちゃ好き。エンジニアさん誰だろう?」って調べると原さんだったりするくらい、音に原さんの魔法を掛けてくれるんですよね。
とはいえ、最近の編曲家はある程度完成に近いレベルのミックスが出来ないと仕事にならないのも事実で、私も出来る限り仕上げた状態で原さんにデータをお渡しするようにしています。
そんな原さんは初稿において、かなりの精度のデータをお渡ししてくださいます。それを確認しながら、原さんの所有する調布レコードというスタジオにて調整を重ね、楽曲が完成しました。
[4]あとがき
とっても長くなってしまいましたが、「Bon Voyage」解説いかがでしたでしょうか。次回、解説しようと思っている曲ももう頭の中にはあるのですが、さすがにもっと短くするつもりです。笑
どれほどの方がここまで読んでくださったかわかりませんが、大変感謝いたします。ありがとうございます。この記事を読んで、BLVCKBERRYへの造詣が深くなってくださったら嬉しいし、私もそうですが、アーティストへの愛が深まってくれたら嬉しいという気持ちで執筆いたしました。
BLVCKBERRYを元から知っていてくれた方は、ぜひこの上で「Bon Voyage」を聴いていただけたらと思いますし、noteがきっかけで出会った方や、知っていたけど聴いたことはないよ、という方も是非この曲に触れてみてくれたら嬉しいです。
昨日公開された、今年の夏ツアーのファイナル公演 at EX THEATER ROPPONGIで披露された「Bon Voyage」です。
またnoteでお会いしましょうね、ばいばい!
猟平
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