【ホラー小説】グランドオーナリ『第2話』ルール
【あらすじ】
【注意事項】
※ある程度の残酷描写は予定しておりますが、過度な残虐描写、性描写などはありません。
※動物は今のところ出番があるか未定ですが、動物が酷い目に合う描写は断固としてありません。
※この物語内に登場する人物や団体名、そして奥那璃村という村などは全てフィクションです。
【エピソード一覧】
『プロローグ』バスの中で
『第1話』応募要項
『第2話』ルール
『第3話』グループ分け
『第4話』自己紹介
『第5話』コーヒー
【前回のエピソード】
【本編『第2話』ルール】
【1日目】
バスを降りると、私は大きな広場のど真ん中にい
た。
続けてゾロゾロと残りの人達も降りてくる。
その中で、スタッフと思われる長身の若い男性が人数を数える仕草をしている。
そうだ、私含めて30人いるんだっけ。
ざっと辺りを見回してみる。
この広場、サッカーコート一面分とまではいかないが、かなり広く、広場の中央には事務所のような建物がポツンと建っている。
そして、この広場をぐるっと囲むように、あの豪華なコテージが等間隔で並んでいる。
コテージも予想よりは小さく、バーベキュー用のスペースなのか、車一台分くらいの幅が各コテージにある。
こうやって見ると、写真よりも山々含めて施設全体が綺麗だし、私は興奮を隠しきれずニヤニヤしていた。
「何ニヤついてるんですか?笑」
彼女だ。
正面から見るとあまり宮城リョータには似ていなかったが。
「いや、あまりの迫力に圧倒されてしまって…」
「確かに予想以上のスケール感ですよね。天気も良いし、最高の7日間になりそうですね!」
この快晴の下、彼女の笑顔は眩し過ぎて少しクラクラしつつも、私はそうですねと答えた。
しばらくすると、人数を数え終えた先程の長身のスタッフが、降りたらこちらに集まってくださいと誘導している。
私達は流れるように広場の中央にある事務所のような建物の前に集まっていった。
「皆様、この度は私達のグランドオーナリのプレオープン記念無料招待イベントにご応募頂き、誠にありがとうございます!」
先程の長身のスタッフとはまた別の、アロハシャツに短パンの4〜50代くらいの男性が、ハキハキとした声で挨拶をはじめた。
「見てくださいこの青空!まるでガリガリ君のソーダ味みたいな透き通る青さですね!天気も味方してくれて、これで今回のイベントも大成功間違いなしです!ちなみに私はね、小学5年生の時にガリガリ君の食べ過ぎでお腹を壊して、ソーダじゃなくてグレープみたいな顔色になったことがありしましてね。なので皆様も体調管理はしっかりして、充実した7日間を過ごして頂ければなと思います!」
スタッフ達は手を叩きながら爆笑しており、それに釣られて周りの参加者も何人か笑っている。
うん、あの、はい。
なんか上手いこと言ってやったぜ的なあのドヤ顔を、私は冷めた目で見つめるしかできなかったが、私の隣にいた先程の爽やかな彼女がボソッと小声で呟く。
「練習したんだろうね…」
私はその不意の一言に吹き出すのを我慢しつつ、彼女の方を見ると、私と同じ冷めた目をしていた。
そして彼女と目が合う。
お互い冷めた目だが、同時に呆れて笑い出してしまうのを我慢しているようだった。
彼女のグイグイくる雰囲気に最初は身構えてしまっていたが、それもこのクソ寒いギャグのおかげで、私は彼女と仲良くできそうだなと思った。
それから数回ガリガリ君ネタを擦りながら、話題はこの施設の概要説明へと移った。
自慢のコテージ、温泉、地元の旬の食材、スポーツ施設、プール、などなど。
ほとんど広告で見た内容の繰り返しだったが、このソーダおじさんは(私の中で勝手にそう呼ぶことにした)施設で快適に過ごすための6個の大事なルールがあると言い出し、同時に周りのスタッフ達が何やらプリント用紙のようなものを配りはじめた。
「ルールと言いましてもね、まぁ基本的なことですので、皆様大丈夫だとは思うんですがね。大事なことですので、皆様もお配りしたプリントに目を通しながらお聞きください!しっかり説明したいと思います!」
「以上が私達のグランドオーナリで過ごすにあたってのルールなんですけども。禁止とか書いちゃうとねぇ、ちょっと怖いかもしれませんが、携帯電話とかね、緊急の要件とかもあるでしょうし、その辺は基本的にスタッフにご相談頂ければ対応致しますので」
私は配られたプリントに目を通しながら少し考えていると、参加者の誰かが質問ですと手を挙げたようだった。
「あの、ルール5についてなんですけど、起床とか就寝とか時間決まってるみたいなんですけど、あ、すいません、えっと…その具体的な時間とか…あと、私朝が苦手なんですけど大丈夫でしょうか…?」
質問した人は遠目でよく見えなかったが、恐らく女性で声が小さいのだろう、途中から近くにいたスタッフがマイクを手渡していた。
「良い質問ですねぇ!」
待ってましたというような顔をしているソーダおじさんは、テンションそのままに続ける。
「起床時間と就寝時間に関しましては、裏面にある施設時間割という部分にも書いてあるんですけれども、えーっとですね」
私も裏面を確認してみると、起床時間は午前8時、就寝時間は午後22時と書いてある。
しかし、私が気になったのは…
「起床後と就寝前の1日2回、専属スタッフによる人数確認の点呼がありますのでね、プリントに書かれてますけども、午前8時15分と、午後21時45分の2回ですね」
点呼って、合宿じゃねーんだから。
そう思った私だったが、その後のソーダおじさんの説明で少し納得した。
「ここ、広いでしょう?周りは美しい山々に囲まれていますけども、こちらとしては安全面に関して全力で取り組んでおりますけれども、万が一参加者の誰かが迷子とか、何かお怪我をされてしまうのだけは絶対に避けたいのですよ。何せ今回はオープン前でしかも1週間ですからね。私も代表として責任重大なのですよ」
先程までのテンションとは変わって、少し真剣な表情になるソーダおじさん。
ソーダおじさんってバカにした呼び方をしてしまって、私は少し申し訳ない気持ちになる。
「それにデジタルデンタルスもありますからね、電子機器から離れて、規則正しい生活リズムを取り戻して頂きたいという思いもあり、起床時間や点呼を設定しているのですよ」
ごめんソーダおじさん、これからもソーダおじさんと呼ぶよ。
デジタルデンタルスって、なんか最先端の歯医者さんみたいでちょっとカッコいいけど、カッコいいところもまたムカつくなぁ。
「デジタルデトックスですよ〜!笑」
スタッフの誰かが笑いながらツッコミを入れると、ソーダおじさんは頭をポリポリしながら失敬失敬と呟く。
それに合わせた他のスタッフも笑いながら相槌をしている。
「まさかこれも練習してたわけじゃないですよね?」
私は苦笑いを浮かべ、隣の彼女の方を見た。
「練習してたら逆に怖いよね笑」
やっぱり彼女とは気が合いそうだなと、少し嬉しくなる。
笑い声が収まると、ソーダおじさんは続けた。
「一応時間厳守って書かれてますけれども、どうしても起きれないとか、皆様もその日の体調とかもあると思いますし、そこは専属スタッフにご相談頂ければ、しっかり対応致しますのでね。ご心配なさらずにね」
質問していた参加者の女性は、頷きながら軽く頭を下げ、マイクをスタッフに返した。
「温泉とかその他の施設利用時間についてもですね、プリントに詳しく書かれておりますし、専属スタッフや巡回スタッフもおりますので、ご不明な点などあればいつでも聞いて頂ければなと」
そう言いながら参加者を見回してるソーダおじさんは、どうやら次の話題に移りたい様子だった。
「それではね、他にご質問など無ければ、各コテージのグループ分けをしたいのですが…」
いよいよグループ分けだ。
まぁ寝室は個室だし、そこまで関わり合うのかはわからないが、私はどうせなら隣にいる彼女と同じコテージがいいなと思うようになっていた。
「すいませーん!」
参加者の誰かがまた手を挙げたようだった。
先程の女性とは違い、ガタイの良い男性で、20代後半だろうか。
「はい!何かご質問でしょうか?」
ソーダおじさんは相変わらずのテンションだが、表情は少しめんどくさそうだった。
時間についても書かれているし、施設全体の地図も書かれている。
何かあればスタッフにと言っていたから、この場で他に質問するようなことは無さそうだと思っていたが…
「ルールを破ったら、何か罰則とかあるんでしょうか?」
その質問がなされた瞬間、広場の空気が少し変わった気がした。
ルール自体そんな難しいことは書いていなかったし、起床時間とかは大目に見てくれそうだったし、ルールを破ったらどうなるかなんて考えもしなかった。
確かに何かしら注意や警告とかされるんだろうが、そんなことわざわざ質問しなくてもわかるだろう。
私は小さい頃から無駄な質問やわかりきった質問をする同級生にイライラしていたので、この男性の質問にも同様にイライラしてしまった。
こっちは早くグループ分けをしたいのに、ちょっと学校のクラス替えみたいでワクワクしてるのに、またソーダおじさんが長々とあのテンションで答えていくのが目に浮かんでしまう。
次はどんな寒いギャグをかますのかなぁ。
「帰ってもらいますよ」
「え?」
私は思わず声が出てしまった。
他の参加者も同様にざわつき始めるが、ソーダおじさんは続けて言う。
「ルール5の起床時間などに関しては柔軟に対応していきますが、その他のルールに違反した場合は、大変申し訳ないのですが、問答無用で即刻帰りのバスにご乗車頂きます」
ざわついていた参加者は静まり返る。
考えてみれば、酒やタバコ、性行為などは確かにまずいだろう。
デジタルデトックスというのだから、勝手に携帯を持ち出すのもダメだ。
このルールというのは、グランドオーナリの世界観を崩さないためでもあるんだろう。
しかし、私含め先程の参加者のざわつきの原因は、間違いなくソーダおじさんの雰囲気だ。
無表情なのである。
今までのウザい感じは完全に消え失せてしまっており、それに加えて周りのスタッフ達も同じように無表情で、どこを見ている訳でもなく、ただ異様で、冷たい空気感だけが漂っている。
質問していた男性もそれ以上は何も言わない。
いや、この空気に飲まれて何も言えないのかもしれない。
私の頭の中ではさらに疑問が湧いてくる。
問答無用という強い言葉使い。
そして、薄っすら気になっていたルール6。
その他のルールは禁止事項が具体的なのに、このルール6だけ内容がフワッとしているなと感じた。
輪を乱す…つまり何か喧嘩とか、そういった類のことだとは思うのだが、それなら暴力行為や誹謗中傷といった書き方になるのではないか。
何故輪を乱すなどという抽象的な書き方になっているのか。
輪を乱したという判断基準は誰が、どうやって決めるのだろうか。
いや、そもそも普通に過ごしていれば何も問題ないだろう。
そう自分に言い聞かせていくが、考えれば考えるほど不安になっていく。
私は不安のあまり、助けを求めるような目で、隣の彼女を見た。
「大丈夫」
彼女は私と目を合わせずに、真っ直ぐに前を見つめている。
明らかに異様な空気の中で、彼女だけは冷静に心を保っているようだ。
「それではね!他にご質問も無いようですので、早速グループ分けをしていきましょうか!スタッフの皆さんよろしくお願いしまーす!」
ワクワクしていた私の気持ちは、まるで放置されたガリガリ君のように、溶けて消えてしまいそうだった。
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