【ホラー小説】グランドオーナリ『第4話』自己紹介
【あらすじ】
【注意事項】
※ある程度の残酷描写は予定しておりますが、過度な残虐描写、性描写などはありません。
※動物は今のところ出番があるか未定ですが、動物が酷い目に合う描写は断固としてありません。
※この物語内に登場する人物や団体名、そして奥那璃村という村などは全てフィクションです。
【エピソード一覧】
『プロローグ』バスの中で
『第1話』応募要項
『第2話』ルール
『第3話』グループ分け
『第4話』自己紹介
『第5話』コーヒー
【前回のエピソード】
【本編『第4話』自己紹介】
パンパンパン!
私が階段を降りると、スタッフが手を叩いてみんなを集めていた。
爽やかな彼女は私を見て、早く早くと手招きしている。
「皆さん、今から自己紹介レクリエーションを始めますね。まずご自分の名前とですね、後は趣味とか職業とか、まぁなんでも構いませんので、とりあえず円になって座って、自己紹介っぽい感じで。それじゃあ、アタシから時計回りで行きましょうかね。」
急いでいるようで、そう捲し立てると、スタッフはソファの上に置いある大きめの赤いクッションを掴んだ。
レクリエーションというからには何かやるんだろうか?
私は先程の2階での一件もあり、まだ気持ちが落ち着かなかったが、スタッフの指示通りみんなが円になり、広々としたリビングのカーペットの上に座る。
「えー、自己紹介する方はですね、このクッションを抱えてください。そして終わりましたら、次の方に手渡してください」
なんか映画やドラマで見たことあるやつだなと思った。
「それでは、今回この赤グループの担当になりました、奥寺夏子です。昔は小学校の先生をやっておりましたが、色々とご縁があって、今はこちらの施設で働いております」
おいおい、これじゃ益々私が嫌いだった中学時代の担任を連想してしまう。
「趣味とかは特にありませんが、強いて言うなら友人とボードゲームをすることですかね。最近ハマって色々と楽しんでます」
中学時代の担任は人を叱りつけるのが趣味なんだと思うくらい、いつもイライラしていたが、この人は予想よりフレンドリーな感じかもしれない。
ボードゲームなんて人生ゲームでボコボコに負けた印象ばかりで、あまりやってこなかったけど、巣ごもり需要の影響で人気が高まってると同僚が言ってたっけ。
「それでは次の方、お願いします」
奥寺さんがそう言うと、クッションは隣に座っていた爽やかな彼女に手渡された。
「皆さん初めまして!新堂新といいます!趣味は絵を描いたり、ゲームやったり、映画観たり、色々好きなレズビアンです。仕事はフリーのイラストレーターやってるんですけど、将来はコミックアーティスト目指してます!」
私は今、彼女…新堂さんに色々と聞きたいことが沢山ありすぎて、ちょっと混乱している。
どんな映画が好きなのか、どんな絵を描くのか、ゲームは専門外だけども。
将来も漫画家じゃなく、コミックアーティストという言い方をしていたし、もしかしてアメコミとかが好きなんだろうか。
それならアメコミ映画とかで話題を広げられるかもしれない。
それに……新堂さんは……
私も……いや、昔は男性とも付き合っていたからバイセクシャル……いや、それもなんか違う気がして色々調べたんだが、結局これだと確信できるものが見つからず、今に至っている。
新堂さんに合わせようと、レズビアンかどうか確信もないのに言うべきではない。
どうしよう……
「あの、クッションを……」
新堂さんは私に向けてクッションを手渡そうとしていた。
「あ、すみません。私の番ですよね。えーっと……」
私はひとまず深呼吸してから、クッションを手に取る。
「風間舞です。趣味は映画鑑賞とバスケ、仕事は広告代理店に勤めてます。よろしくお願いします」
ゆっくり喋ったつもりだったが、自分でも分かるくらいの早口だった。
何も言えない自分が少し恥ずかしい。
新堂さんはあんなに堂々としていたのに。
「あの……好きな映画とか、後で聞いてもいいですか?」
ちょっとだけ左手を挙げてそう言ってくれた新堂さん。
頭がグルグルしていた私は、寒さに震えてるかのようにカクカクと頷くことしかできなかった。
私は緊張のあまりサッとクッションを隣に渡すと、もう一度深呼吸をする。
「あの、名前は、川名……川名七海です。趣味はゲームで、Vtuber……やってました……」
「えぇぇぇ!!本当ですか!!チャンネル名とか聞いても大丈夫ですか!?」
新堂さんの食い気味の声でボーッとしていた私も我に帰る。
川名さん、あんなに声が小さいのにVtuberというのは意外だったが、私のイメージの問題なのか、Vtuberというのはもっとキャピキャピしてるかと思っていた。
そして新堂さんのテンションにもビックリした。
映画よりもゲームが好きなんだろうか……
「いや、まぁ……別にいっか。大海原レイって名前で活動してて……」
「え、ウソ……」
食い気味で質問した新堂さんだったが、名前を聞いた途端何かを察したようだった。
「あんまり話すと長くなるので……すいません、これ……」
そう言いながら川名さんは、ガタイの良い男性にクッションを手渡した。
「えーっと、竹内大河です。趣味は筋トレとかっすね。仕事はフリーターで、バイトしながら俳優目指してやってます。まだまだ芽は出ないっすけど笑」
そう笑いながら言う竹内さんの表情、私にはどこか寂しそうな印象を受けた。
「あと、すいません、さっきはズカズカと部屋覗こうとしたりして。それに広場での質問も……俺の質問のせいで、あれ、めちゃくちゃ変な空気になりましたよね?笑」
みんな苦笑いをしつつも頷いている。
「まぁまぁ、自分も先程は少しばかりムキになった態度を取ってしまって、失礼しました。新堂さん?でしたよね。間に入って頂いてありがとうございました」
白髪の男性はそう言って竹内さんの肩をポンポンと優しく叩き、そのままクッションを受け取った。
「五十嵐一郎と申します。スタッフの奥寺さんと同じく自分も教師をしております。趣味は、そうですねぇ……昔は仕事一筋だったんですが、数年前に妻の勧めでカメラを買いまして、趣味と呼べるか分かりませんけども、最近は日常の風景だったりを撮るのが楽しいです」
全員の自己紹介が終わり、クッションは再びスタッフの奥寺さんに渡った。
「皆さんありがとうございました。それでは次にですね、2週目の自己紹介に移りたいと思います」
2週目?どういうことだろうか?
「次はですね、自分の名前の由来と、その名前に対する自身の印象、好きか嫌いかとか、それと、今回の無料招待イベントに応募した理由をお願いしますね」
クッションはそのまま新堂さんに手渡された。
イベントの応募理由はなんとなく理解できるが、名前の由来なんて聞いてどうするんだろうか。
新堂さんは、少し悩みながら話し始めた。
「ん〜名前の由来かぁ……自分でもあんまり覚えていないんですけど、男の子でも女の子でもこの名前にすると決めていたと、そう聞いたのは覚えてますね」
確かに新というと男性のイメージで、私も新堂さんの名前を聞いた時は少し驚いた。
「詳しい理由までは思い出せないけど、自分の名前は好きですね。この新堂新って左右対称な感じが美しくて、自分でも絵描いたりデザインしたりする関係からかもしれませんけど、名刺作る時もイイ感じになるし、結構気に入ってます笑」
ここまで自分の名前に肯定的になれる新堂さんに、私は純粋に羨ましいなと思った。
私の名前なんて……
「応募した理由といっても、なんとなくですかね。仕事関係で少し行き詰まってて、ちょっと息抜きしたいなぁ〜ってスマホいじってたら見つけて。私フリーランスなんで、時間も確保できそうだったし、そんな軽い気持ちで応募しました」
新堂さんはそう言い終えると、笑顔でクッションをこちらに手渡してくる。
「私の名前の由来は……父が、その、独断で。風間って苗字が強そうだから、少しでも女の子っぽい名前が良いからって、母も父には逆らえなくて、それで適当に舞に決めたみたいです」
なんだか空気を重くしてしまった気がする。
「名前は、あまり好きじゃないです。すいません……」
私は誰に謝ったんだろうか……なんだかめちゃくちゃ申し訳ない。
そんな気持ちを切り替えるように、私は応募理由を思い出す。
「応募理由なんですけど、私も最初は軽い気持ちというか。インスタで見つけて、仕事もキツくて、それで……長期休暇もあったんで、チャンスだなと思って」
仕事や親父への不満が湧いて出てくるのを抑えつつ、私はクッションを川名さんへと渡す。
「えっと……私も風間さんと同じで、自分の名前は好きじゃないです……その、七海って、海のように広い心で、奥ゆかしく美しい女性になるようにって。そう聞かされて育ったんですけど……現実は全然そんな人間じゃなくて……ごめんなさい」
川名さんの謝る姿を見て、私は気が付いた。
これは両親に謝っているんじゃないだろうか。
どんな理由かは分からないが、今の自分と、親が思っていた期待する自分へのギャップ。
私は両親から期待されて育てられた訳じゃないから、それだけで羨ましいとは思うが、期待に応えられない苦しみは理解できる。
「応募理由は新堂さんや風間さんと同じです。仕事……疲れちゃって……全部忘れたくて、そしたらインスタでここを見つけて。一回自分をリセットしたかったんです」
ただの内気な女性かなと思っていたけど、リセットという言葉に込められた気持ち……私には痛いほど伝わってきた。
川名さんも色々と辛かったんだろうけど、それでも涙目も見せずに人前で語るその姿、私は心から尊敬する。
そして、強く握られた跡が付いたクッションは、静かに竹内さんに手渡される。
川名さんの気持ちを汲み取ったのか、竹内さんは少し呼吸を置いてから喋り始めた。
「俺、大河って名前なんすけど、父さんが大河ドラマが大好きで、最初は秀吉とか、そんな名前を付けようとしてたみたいなんすよね笑」
竹内さんのこのチャラついた雰囲気、最初は気に入らなかったが、先程の謝罪、そして川名さんからの受け取り方。
竹内さんなりに場を和まそうとしているのかもしれない。
「そんで、秀吉って名前に母さんが大反対して。結局は大河に落ち着いたみたいなんすけど、小さい頃はそれこそ、大きくて強い男になれ的な、そんな意味だよって言われてて」
みんなの空気感が少しずつ柔らかくなっている気がした。
「高校生の時っすかね。母さんが急に名前の由来を語り出して、大河ドラマからで、あんたに説明してたやつは後付けだって、黙ってて罪悪感あったんだって。いやいや、それならずっと黙っといてくれたほうが良かったよって笑」
竹内さんの笑顔に釣られて、新堂さんや五十嵐さん、スタッフの奥寺さんも笑っている。
川名さんも先程に比べて、少しは表情が緩やかになっただろうか。
そんなみんなの雰囲気を見て、私もだんだんと落ち着いてきた。
「まぁ、そんなこんなで、この名前にはあんま良い思い出ないんで、好きか嫌いか言われたら、嫌いっすけどね笑」
私と川名さんが重くしてしまった空気を、竹内さんは軽々と立て直してくれた。
「応募の理由っすけど、バイト先の店長と揉めて、そのまま辞めて、ムシャクシャしてた時に見つけたって感じっす。暇だったし、のんびりできたらイイなーって思って笑」
そうして五十嵐さんにクッションを渡す竹内さんだったが、私は見逃さなかった。
川名さん程ではなかったが、力んだその手と、五十嵐さんにクッションを渡し終えた竹内さんの表情。
仕事で中々芽が出ないと言っていた時の顔と同じ。
竹内さんもまた、何か抱えているものがあるのかもしれない。
「そうですね……自分は一郎なんですが、1番になってほしいとか、そんな理由だったかなぁ。もう全然覚えてないです笑」
五十嵐さんも、竹内さんが作ってくれた空気感を崩さらないようにしてるのか、先程の自己紹介よりも明るい表情で喋り始めた。
「好き嫌いといっても、名前を意識したことなんて無いので、なんとも思っていないというのが正直なところですかね」
五十嵐さんはそう言うと、応募理由を語らずにクッションを渡そうとした。
「ちょっと五十嵐さん!応募理由がまだですよ」
渡された奥寺さんが気付き、五十嵐さんに再度クッションを渡しながら言った。
「ああ、申し訳ない!そうでしたね、すっかり忘れていました」
そう言うと五十嵐さんは、眉間にシワを寄せながら、思い出すような感じの表情をする。
「ええと、カメラが好きで、妻にインスタとか良いんじゃないかと言われましてですね。それでコツコツやっておりまして、そしたらたまたま見つけて、そんな感じです」
私が言えたことじゃないが、ちょっと早口気味で喋り終えた五十嵐さんだった。
クッションが奥寺さんに渡る。
「みなさんありがとうございました。今回お聞きした名前の由来、こうやって語り合ってみると、その人の人となりが少しだけ垣間見えると思います」
私は奥寺さんの言う通り、1周目の自己紹介よりも今のほうが、みんなの空気が少しだけ一体になったような気がする。
「自分の名前が好きな人もいれば嫌いな人もいます。ですが、重要なのは名前そのものではなく、その意味です。私は今回の7日間の最後に、もう一度皆さんに名前の由来を聞きたいと思います。」
名前の意味?
「7日間ここで生活をして、名前に自分なりの意味付けをしてみてください。親から付けられた由来ではなく、自分なりの由来を」
奥寺さんの表情は真剣だった。
そうか、だからレクリエーションなんだ。
単なる自己紹介じゃなく、これもこの施設のコンセプトに組み込まれている。
"新しい自分を見つけよう"という文言が書かれていたあの広告を思い出す。
「それでは皆さん、質問など無ければ、昼食の時間まで自由時間となります。温泉とかその他の施設については……」
スタッフの奥寺さん、新堂さん、川名さん、竹内さん、五十嵐さん。
第一印象とは違ったりした人もいるけど、みんなそれぞれ良い人そうだ。
私は、ここでなら自分を……
新しい自分を見つけられるかもしれない。
「すいませーん!全然関係ないんすけど、俺らの部屋がある2階に、何か変な空間みたいなのがあったんすけど、奥寺さん何か知ってます?」
私の前向きな気持ちは、竹内さんの本日2度目の質問で、ガッツリ後退させられた。
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