2024/9/26

ある男がいた。小肉中背、年齢は40代くらいだろう。

その男は毎日18~19時の間に廃れたアーケード街の地下にある、お世辞にも繁盛しているとは言えない喫茶店に入る。
入店すると席に着く前にアイスコーヒーを頼み、座ると深呼吸をする。
コーヒーが運ばれるとセブンスターを一本吸って、カバンからキャンパスノートを取り出し、丁寧に白紙のページを開く。

ノートを見ながらボケーっとしたり、かと思うといきなり見開きのノートの左側のページから使いはじめる。罫線を思いっきり無視して、まるで一筆書きをするかのように文字を書いている。文章を丸で囲ったり、矢印でつなげたりもしている。


サラリーマンではないのだろう、平日でもスーツはきていないし、それっぽい服装でいることもない。例えば夏は派手な色の半袖短パンで、Tシャツの袖から時おり刺青が顔を出す。短パンはおそらく水着で、そのまま海に入っても都合がいいように設計しているのだろう。
体は引き締まっていて、肌も自然にハリがある。

見開きのノートが埋まると、一口コーヒーを飲み、また一服する。

この一服がノートとの時間の終わりの合図で、それからはただ店内を眺めたり、指をポキポキ鳴らしたりなどして時間を過ごす。

そして、閉店10分前にはあらかじめ用意されていた500円をポケットから出してお会計を済ませ、そそくさと退店する。

そんな男が店に現れなくなってから三ヶ月が経つ。
また新たな居場所を見つけたのだろうか、ある日から突然常連になり、ピタりと姿を消す、そんな渡り鳥のような人間が喫茶店にはたまに現れる。


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