経営戦略とイノベーション

最近、経営戦略や事業戦略とイノベーションは一体的に語られることが多くなっています。

もちろん、アカデミックの分野でこれらは区別されるものです。

それにも関わらず、これらが一体的に語られるのは、イノベーションが企業の経営層や経営企画部、あるいは事業経営者にとって重要なテーマの一つになっている証左に他なりません。

経営戦略 2つの大流

経営戦略については、一般に大きな2つの流れがあります。

1つ目は、マイケル・ポーターが提唱した「ポジショニング論」。

外部環境の中で、自社がどのようにポジショニングするかが競争において重要である、という主張です。

ポジショニングを検討するためのフレームワークとして、ファイブフォースが提案されています。

2つ目はジェイ・バーニーが提唱した「ケイパビリティ論」

こちらは、自社が保有する資源をどのように活用するかが競争において重要である、という主張です。

どちらが競争優位の源泉となるか、専門家の間では論争が繰り広げられてきた歴史があります。

何が企業の競争優位を決めるか

少し横道にそれますが、企業の競争優位を決定づける要素とは何か、一定の結論を示したのが、リチャード・ルメルト研究でした。

リチャード・ルメルトの研究では、企業の競争優位性を決める要素のうち

15%は"業界に固有の何らかの要素(業界構造や規制など)"

45%は"企業や事業に固有の何らかの要素(保有資源や経営者の能力など)"

という結果でした。

ざっくりいうと、ポーターが主張したポジショニングが15%、バーニーが主張したケイパビリティが45%ということです。

リチャード・ルメルトの研究結果でさらに興味深いのは、残りの40%は"説明できない"とされていることです。

ここには様々な解釈ができると思いますが、企業の競争優位には不確実性が大きく寄与すると考えることができます。

最近はVUCA(Volatility:変動性・不安定さ、Uncertainty:不確実性・不確定さ、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧さ)というキーワードとして注目を集めています。

既存企業にとっては、新興企業の破壊的イノベーションにより自社の利益が奪われるといった自体も、不確実性の一つと捉えられているのではないでしょうか。

イノベーションを創出できる企業とは?

そんな背景の中、どのようにイノベーションを創出するかが経営課題の一つになっています。

イノベーションを創出する企業とは?という議論をしていると、重要な要素として①経営者(リーダー)の能力、②組織風土、③社内制度の3つに収斂することが多いように思います。

どの要素がイノベーションを創出する企業を形作る上で重要か、という点については、かなり主張が分かれています。

リクルートだと②+③でしょうか。

起業家精神を持った社員が多く入社し、「で、お前は何がしたいの?」と問い続けられる。顧客の"不"を探すことが是とされ、それが習慣として身に付いている(②)。

さらに、新たなビジネスアイデアを形にし、ローンチしていくためのRingという制度が存在します(③)。

一方、最近お話を伺った早稲田大学ビジネススクール教授の方は経営者の能力が重要とおっしゃっていました。

この議論はまだまだ続きそうです。

戦略論と組織論

さて、最近の議論の中で強く感じるのは、戦略論と組織論が切っても切り離せなくなっている、ということです。

企業が競争優位を築く上で、イノベーションの創出が重要な課題となっています。

一方、イノベーションの創出には、組織運営すなわち組織論が欠かせない要素になっています。

むしろ不確実性が増す現代において、経営陣が一定の計画を持って判断を下す戦略では対応できない範囲が広がることで、

不確実性に対応し、イノベーションを起こすための組織をどう作るかといった組織論がさらに重視されてくるのかもしれません。