見出し画像

ぼかれびゅ:世界が終わる日の話。/じん(自然の敵P)

 ぶっちゃけ、じん(自然の敵P)ってそんなにすごいか?

 ……と、全ボカロ好きを怒らせそうな一言から始めましたけど、
 安心してください。すごいですよ。
 もっと言うと、小説という観点から見てもすごいですよ。

 この記事はじんさんのすごさを、今更言うほどでないにしても改めて〝紐解いてみた〟的記事でございます。
 なので一文目から「あん?」って眉をひそめた皆様、どーかその振り上げた拳を下ろして頂ければと、はい。僕もじんさん大好きなので……仲間です。僕とあなたはとにかく明るいナカーマです。


 ではでは、早速じんさんのすごさを紐解いていきたい所ですが、音楽性はもう言わずもがなだと思うんですよね。
 そこで僕が今回着目したのは冒頭でもお話しした『小説』という観点です。
 お察しの良い皆さんなら「ああ、小説版カゲロウデイズのことか」と思ったことでしょう。

 残念だったな、それは残像だ。

 ほらほらタイトル、タイトル読んで!『ぼかれびゅ』って書いてあるでしょう。
 ボカロ曲のレビューでぼかれびゅなんだから、この記事もボカロ曲を紹介するに決まってんじゃないの!
 んも〜いつまで経ってもおっちょこちょいなんやから。アンタそんなだから昨日も体操服と間違えてお母さんのパンツ持ってったんやで!反省しい!

 ってのは学生時代の僕が言われた事なのでここはスルーしてもらって……

 小説という観点で曲を紐解いてみる――ってどういうこっちゃいと思われた方もいるかもしれません。
 そこで個人的なことをお話しすると、僕は普段小説を書いています。それもエンタメ重視の小説、いわゆる「ライトノベル」です。
 この観点からじんさんの『ある曲』を聞いた時、震えが走ったんです!

 これ、歌詞だけでもう完璧なエンタメ作品になってるやん……と。

 ヤバかったです。
 前から何度も聞いてた曲だったけど、改めて紐解いてみるとこの曲は、『物語音楽』としての完成度が異常だったんです。
 化け物級にすごいその歌詞を一つ一つ、『小説』という観点から畏れ多くも解説させて頂きます!
 では皆様お待たせしました。
 今回長文ぼかれびゅさせて頂くのは、コチラァ!
 ↓


 ヘッドフォンアクター


 タイトルで察していた方も多いと思いますが、こちらの曲がいかに小説としても優れているか、解説していこうと思います。

 なお本来なら本楽曲はカゲロウプロジェクトのストーリーの一つであり、特定のキャラクターが介在していますが、今回はあえて、あ!え!て!それを無いものとして扱います。
「おいおいリスペクトが足りねーんじゃねえのお⁉︎」という声が聞こえてくる気がしますが……安心してください、リスペクト履いてますよ。と言ったらそろそろ怒られそうなのでやめておきます。

 そうではなく、特定のキャラクターを抜きにした方がこの楽曲の完成度が伝わると考え、キャラを除外させて頂きました。ごめんね貴音……。

「えーい前置きが長ったらしい!早く始めろ!」って僕自身が思ってきたので早速歌詞を曲の始まりから見ていきましょう!
 ↓
 ↓

  その日は随分と平凡で
  当たり障り無い一日だった
  暇つぶしに聞いてたラジオから
  あの話が流れ出すまでは

 まず始まりの歌詞がこちら。
 小説に限らずあらゆるエンタメ作品において重要視されるのが、『始まりでいかに興味を引けるか』という点。
 とある一流舞台演出家の方は、「どれだけ素晴らしい舞台でも、最初の三分で観客を引き込めなければその作品はもう失敗なんだ」と仰っていたくらい『始まり』とは重要なものです。

 そういう点でこの歌詞は、あの話が流れ出すまではという部分で視聴者の意識にフックをかけています。「え?何あの話って」と。
 しかも前述する平凡で当たり障りない一日があるからこそ、非凡や異常といった出来事の到来を予感させています。

 とはいえ、これだけならまだ視聴者を引き込む力としては弱いでしょう。
 ですが……安心してください。次の歌詞をどうぞ。
 ↓

 「非常に残念なことですが、本日地球は終わります」と
  どこかの国の大統領が泣きながら話をするまでは。

 ……………………は?
 はあああああああああああああああああああああ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎
 えっ⁉︎ なに? 聞き間違えた? 終わる? え、地球が⁉︎ 情報源は? 大統領? え、じゃあマジ? マジ⁉︎ マジで地球終わんのっっ⁉︎⁉︎
 はああああああああああああああああ!!!!?

 ってなりますよねこんなんラジオから流れてきたら!
 しかも動画はここでイントロと共にタイトルが映し出されるものだから、こんなん……続きが気になってしょうがないですやん!!!!

 数あるエンタメ作品の中でも、ここまで強い『始まり』は中々ないと思います。これには蜷川幸雄も天からいいねサインだ!
 さあイントロも終わり、物語は本格的に始動していきます。
 ↓

  窓の外は大きな鳥たちが空覆い尽くしてく渋滞中
  三日月を飲み込んでどこかへと向かってる
  やりかけてたゲームはノーセーブ
  机にほぼ手つかず参考書
  震える身体をいなす様にすぐにヘッドフォンをした

 ラジオから衝撃的な知らせを受けた主人公。
 窓の外という歌詞からは、訳も分からず慌てて外を覗いた様が伝わってきます。
 しかしそこにあるのは大きな鳥たちが空を覆い尽くしてく異様な光景。
 それだけでなく、三日月を飲み込んでどこかへと向かってるという歌詞から分かるように、現在が夜だという状況説明もさらりと自然に行ってるんですねこれが。くあーレベル高え!

 しかもその上!やりかけてたゲームはノーセーブ 机にほぼ手つかず参考書 震える身体をいなす様にすぐにヘッドフォンをしたというこの歌詞!
 分かりますか⁉︎ これって、この曲の主人公がどんな人間なのかを端的に伝えているんです!
 きっと主人公はそこまで優等生じゃなく、こんな異常事態に立ち向かえるほどの強さはもっておらず、たぶん音楽が心の拠り所なんだろう――と。

 小説でも漫画でも映画でも、エンタメ作品において『キャラ』は重要です。超重要。ほとんどの指南書で「主人公は最初に出せ!」って書いてあるくらいです。
 ヘッドフォンアクターはそれをしっかり見せて、キャラの中身もちゃんと伝えているわけですね。

 じゃあその主人公を出すことに成功したら次はどうする?

 色々な答えがあると思いますが、自分は……
『事件』だと思います。
 ↓

  不明なアーティスト項目の
  タイトル不明のナンバーが
  途端に耳元流れ出した
  「生き残りたいでしょう?」

 異常な出来事を受けての、さらなる異常な出来事!
 しかもそれは主人公に垂らされた一本の希望なわけです。
 こんな『事件』を提示された視聴者はもう気になってしょうがない!
 加えてここで曲はサビに入る!なにこの盛り上げ上手!
 ↓

  蠢きだす世界会場を
  波打つように揺れる摩天楼
  紛れもないこの声はどう聞いても
  聞き飽きた自分の声だ

 な、なんだってえええええええええ!
 ヘッドフォンから聞こえてきた声は自分の声だった!事件が、物語が、何より好奇心が加速する!
 しかも蠢きだす世界会場から伝わるように、世界滅亡のパニックが起き始めていることが分かります。波打つように揺れる摩天楼は果たして、実際に建物が揺れるほどのパニックなのか、主人公自身の心情なのか。とにかく困惑するしかない主人公の心情が伝わってきますね。
 だけど『声』は待っちゃくれないんですよ!
 ↓

「あの丘を越えたら20秒で
 その意味を嫌でも知ることになるよ。
 疑わないで。耳を澄ませたら20秒先へ」

 ここで一番終了!と同時に、この作品における『目的』まで提示しているわけです。
(目的:世界滅亡から生き残ること、そのために〝あの丘〟へ向かうこと)

 この『目的』を提示することがどれだけ重要か……。
 試しに好きな小説や映画を思い浮かべてみてください。それがどんなものであれ、『〇〇が〜〜する話』と説明できると思います。

 この、〜〜するという『目的』があるからこそ、視聴者はキャラに感情移入して物語を楽しめるんですが……そう!ヘッドフォンアクターは、
 〇〇という主人公も、
 〜〜という目的も、
 曲の一番の中で全部まるっとしっかり提示しているわけなんです!

 エンタメにおける『型』を完璧に踏襲し、さらに『ヘッドフォンからの声』という作品の独自性を使って、「これからこの主人公はどうなる?」と興味を引かせている。
 だからこそ再生ボタンを止める気も起きず、続く二番を視聴者は楽しめるんですね〜これが!
 ↓

  交差点は当然大渋滞
  もう老若男女は関係ない
  怒号やら赤ん坊の泣き声で埋まっていく
  暴れだす人  泣き出す少女
  祈りだした神父を追い抜いて
  ただ一人目指すのは逆方向
  あの丘の向こうへと

 うーわパニックだよ。マジだよこれ……。
 世界滅亡の状況が、人々の反応を用いてリアルに描写されています。
 一番で作品の中に引き込んだ次は、作品の世界観にどっぷり!これでもかと沈み込ませてきます。

 ここまで来れば視聴者はもう後戻りできませんね。
 主人公と一緒になって、『目的地』であるあの丘の向こうへと向かっていくわけです。
 あーもう夢なら覚めてくれよ!全部こんなの嘘だろ?って心境。なのに……なのに!
 ↓

  ヘッドフォンから依然声がして
 「あと12分だよ」と告げる
  このまま全て消え去ってしまうならもう術は無いだろう

 嘘じゃないぞ。
 それどころか「あと12分だよ」と容赦無く告げてくるヘッドフォンの声。
 優れたエンタメ作品では状況を盛り上げるために様々な『リミット(限界)』を設けてきますが、ここではまさに12分というタイムリミットが押し寄せてきて主人公を焦らせます。
 焦って、鼓動が早くなって、それを表現するかのように曲は二番のサビへ!
 ↓

  ざわめき出す悲鳴合唱を
  涙目になってかすめる10秒
  疑いたいけど誰がどうやっても
  終わらない人類賛歌


【人間讃歌】意味:人生の素晴らしさを表現する作品のこと 

 こんな……こんな素晴らしさあってたまるか!
 パニックに満ちた世界を、ここまで皮肉に満ちた歌詞で表現するなんて。
 それとも本当に嘲笑っているのは、こんな状況を涙目になってかすめることしかできない主人公のことなのでしょうか。
 だけど立ち止まる余裕なんてありません。タイムリミットは確実に迫ってきているのですから。
 ↓

 「駆け抜けろ,もう残り1分だ。」
  その言葉ももう聞こえない位に
  ただ目指していた丘の向こうは
  すぐ目の前に

 ヘッドフォンの声さえも聞こえないなんて、いったいどれだけ無我夢中だったのでしょう。
 しかしその甲斐あって、ついに主人公は目的地へと辿り着くことができました。
 あまりの激走で、足が限界を迎えて倒れたのかもしれません。そう感じてしまうくらい、激しかった曲が一転、静けさに満ちます。
 ↓

  息も絶え絶えたどり着いたんだ
  空を映し出す壁の前に
  その向こう白衣の科学者たちは
 「素晴らしい」と手を打った

 ……え?
 ↓

  疑うよ

 ヘッドフォンの声が告げてきた、あの丘を越えたら20秒でその意味を嫌でも知ることになるよという言葉。
 信じられない出来事の連続を、疑わないでここまで走ってきた主人公はついに真実を目の当たりにします。

 これまで目にしてきた全てを疑うことで。
 

  そこから見る街の風景は
  まるで実験施設の様でさ
 「もう不必要だ」
  科学者は片手間に爆弾を投げた

  箱の中の小さな世界で
  今までずっと生きてきたんだなと


 衝撃的な真実……!
 エンタメ作品における最大の見せ場、『クライマックス』を盛り上げに盛り上げ、曲はピークへと上り詰めていきます。
 怒涛の展開に相応しくサビのメロディが畳み掛け、ついに物語は終盤へ。
 ↓

  燃え尽きていく街だったモノを
  ただ、呆然と見る耳元で
  ヘッドフォンの向こうから

 ……そうだ、『声』。
 全ての始まり。
 お前は何なんだ。いったいどうして主人公を生き残らせた!こんなものを見せてどうしたいんだ!

 小説でも映画でも最後の締め方が作品の良し悪しを決定づけるファクターです。
 ピリオドに成功するか失敗するかで傑作か駄作かが左右されてしまう。
 この重要なファクターに、ヘッドフォンアクターはどんな答えを出す⁉︎

 世界滅亡でスタートし、実は箱の中の小さな世界の出来事だったという真実が明らかになり、全てを知るであろう『声』がヘッドフォンの向こうから何かを告げようとしてくる。
 ならそれは、いったい――
 ↓

 「ごめんね」と声がした


 ……ああ。

 これが、傑作か。

 初めてこの曲を聞いた時の、この歌詞を耳にした瞬間の衝撃を今でも覚えています。
 鳥肌が止まりませんでした。

 人によっては物語の答えを放棄していると捉えるかもしれません。
 しかし自分は、この締め方以外にないと思うほど洗練された一文だと感じました。
 もしかしたらじんさんはヘッドフォンアクターにおいて、最後のこの歌詞を聞かせるために全てを持って行ったような気がします。

 エンタメ作品において、ここまで驚きと好奇心を刺激される締め方もないでしょう。

 しかも……
 しかもお!
 全てが終わったと思った曲の最後、動画の最後に!

 end…?

 って書かれるんですよ!!!?
 これで続きが気にならねえ奴いる? いねえよなぁ!!?

 そら次の作品期待しますわ!
 マイリス入れて何度も聞いてしまいますわ!
 じんさんのニコレポ期待して全裸待機してしまいますわ!!

 つまり『次回作を期待させる』ことにも大成功させているんです!
 これがどれだけすごいことか、もはや説明はいらないでしょう!

 カゲプロの魅力といえば様々なジャンルの作品、キャラ、楽曲ごとに繋がっていく世界観などありますが、ここまで広まったのもじんさんが持つ、『先を期待させる力』が大きいと思っています。
 次回作という意味でも、曲の展開という意味でも、何より物語の先という意味でも。

 それは今回紹介したように、歌詞の時点でエンタメ作品として完成されていること。
 つまり、歌詞だけでメチャクチャ面白い小説として読めるということが証明していると思います。
 じんさんは音楽性だけでなく、紡ぐ言葉だけでも僕らを先へ先へと牽引する力を持っているんですねえ。

 長くなりましたが、以上! じんさんのすごさを小説という観点で紐解いてみました!
 これを読んで頂けたそこのあなた! このままぜひとも本動画を見に行ってみてください!
 ↓


 自分も今回、初の長文ぼかれびゅでしたがいつもと違う感覚で楽しめました。今とても明るい気持ちです。とにかく明るい高広です。

 この明るさのまま、また来年もボカロを楽しませて頂きます。ぼかれびゅ部員三期生として、そして自分自身の小説でも界隈に貢献していけるように頑張ります!
 だからボカロPの方々も、体にお気をつけて創作を楽しんで頂ければ、一リスナーとして嬉しく思います。
 新曲アップの通知は僕らの重要な栄養素ですので。
 なのでいつでも全裸待機で皆さんの作品を待っています!

 あ、でも安心してください。
 リスペクト履いてますよ!

2023 12/30 高広亮

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?