二郎系ラーメンから学ぶUX
今やアメリカで何店舗も構える『一風堂』など、日本のラーメン屋さんが進出したり、独自の店が全米全土にオープンするなど、アメリカでのラーメンブームは、ここ数年ずっと勢いを止めることがありません。
その中でも、ひと際目立っているのが、ボストンにある二郎系ラーメンの『夢を語れ Yume Wo Katare』(以下、『夢を語れ』とする) です。私も、ボストンで3年ぐらい働いていた(2013-2015)のですが、頻繁に通っていました。
ご飯を食べるのに基本、並ばないアメリカ人ですが、そんなアメリカ人でさえ、1時間も並んでも食べたいと思えるラーメン屋さんなのです。
そして、この二郎系ラーメン屋さん、あのてんこ盛り(通常の量の3-5倍くらいでしょうか⁉)や美味しさだけが人気の理由ではないんです。
さて、なぜ人気になったのでしょうか?答えは店名に隠されています。
『夢を語れ』
その名の通り、夢を語る場なのです。(もちろんラーメンも美味しいですよ。)ラーメンを食べ終わった後に、食べた人がみんなの前で、自分の夢を語ります。(詳しくは後で説明します。)
(実際にお客さんが夢を語っている様子)
この二郎系ラーメン店『夢を語れ』。なぜ今回、noteで紹介しようと思ったかと言うと、このご時世、最適化されたUXを提供するサービスがたくさん増えていますが、『夢を語れ』ほど、作り手の思いが詰まったUX(ユーザー体験)を提供しているラーメン店はないと思うからです。
その思いを説明しながら、『夢を語れ』のUXについて、書いていきたいと思います。
まず、『夢を語る空間って、どういうことやねん』と皆さん、考えてらっしゃると思うので、少し背景から解説します。
なぜ夢を語れなのか
オーナーの西岡津世志さんから、いつも聞いていた話ですが、10年前、西岡さんは京都でラーメン店を数店舗、経営していました。”二郎系山盛りラーメン”ということもあって、かなり繁盛していたそうです。そして、経営側の業務が忙しくなり、徐々に厨房に立つ日が少なくなったある日、突然、複数の従業員がいきなり辞めていきました。
「なんで辞めるの?」
そう、西岡さんが問いかけると、
「西岡さんを目指して入社したのに、徐々に遠い存在となってしまい……。もう一緒の場所で働けなくなってしまったから」と口を揃えて答えました。
そこで気がついたことは、”自分の夢を追いかけてばかりで、みんなの夢と、しっかり向きあってなかった。”ということ。
そして、自分だけでなく、みんなの夢を応援する場所を作れないだろうか?
と思い始めました。そう考えたら、行動の早い西岡さん。いざ、夢を応援する場所を作り始めます。
さて、どこに作ろう?
すでに夢がたくさん叶っている場所ではなく、一番、夢が眠っているところはどこなのか? と、考え、世界中から沢山の学生が集まるとボストンに出店することに決めたそうです。そして、出店する場所の次に考えたのが、店名です。
ここに来れば夢が”叶う”わけではない。あくまで、夢を”語る”場所なのだ。
さて、夢を叶えるってどういうことなのでしょうか?
一度、ざっくりではありますが、夢を叶えるプロセスを整理してみます。
1.さまざまな経験することで、刺激を受ける。2.経験や刺激が消化され、やりたい事がぼんやり浮かびあがってくる。3.徐々に夢が明確化される。4.夢を達成するために、目標を立てて、やることをタスク化する。5.地道に実行する。6.さまざまな障害に立ちはだかる。7.がんばりづづける。その間、仲間が応援してくれる。8.夢が叶う。
ここで注目してもらいたいのが、2と3のポイントです。皆さんも経験があるかと思いますが、やりたいことが徐々に心の中で顕在化されてくるとき、誰かに言うか、迷うときがありませんか?
「言ったら否定されそう」「言ったら、義務化してしまいそう」「こいつ口だけだなと思われたくない」とか、思うかもしれません。ですが、『語る』そして『言語化する』という行為に意味があるのです。
神社の絵馬や七夕の短冊に自分の夢を書いた経験があるかと思いますが、それと同じで、頭の外に一度出すことで自分のなかで覚悟ができ、「私は今からやるんだぞ!」っと気合いが入ります。
つまり、『語る』という行為は、夢を叶えるステップにおいて、重要なのです。西岡さんはこういった思いがあり、名前を「夢を叶える」ではなく、「夢を語る」にしたのです。
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ラーメンを起点とした、夢を応援するUX**
『夢を語れ』に対する思いは理解できるものの、ラーメンを提供するという行為がコアのサービスなので、実際にラーメンを起点でどうやったら『みんなが夢を語る空間』をデザインできるかが、最初の課題でした。
まず、一つ目に考えたが、完食したあとのコールです。
大盛り一杯のラーメンを完食すると「Good Job!」とみんなからコールが入ります。
そして、汁もすべて飲みきれば「Perfect!」とさらにコールが入ります。
「なんやねん、ホストクラブか(笑)」と思うかもしれませんが、そこにはちゃんとしたロジックがあります。
二郎系ラーメンと夢を叶えるというプロセスには類似点があります。
感情ジャーニーを比較してみると、(すごくシンプル化したもの。)
二郎系ラーメンを食べているときの感情ジャーニー1.うわー美味しそうー。いただきます!2.やっぱ、最高。この油ーーー3.やばい、お腹いっぱいになってきぞ。4.く、苦しい。だれか食べるの助けて。。。。5.食った!!!めっちゃうまかったけど、苦しかった。
夢を叶えるの感情ジャニー(夢が明確になった場合)1.よし、夢が明確になったし、これから夢に向かってかんばるぞ!2.楽しい。この調子や。3.あかん、色々と難しいわー。4.やっぱり、あかん。ちょっと、誰かに相談しにいこう。5.よし、夢、叶ったぞ!!やっぱり応援してくたみんなのおかげ。
ここで、注目してもらいたいのは、4つ目のポイントです。
二郎系ラーメンを食べるときも(!)、夢に向かうときも、壁にあたります。(全員ではないですが……)そして、その際に重要なのは、仲間のサポートです。相談できる仲間や応援してくれる仲間の励みが壁を乗り越える原動力になります。そして、夢を叶えたとき、その瞬間を仲間と共有することが、最高の幸せの体験です。
『夢を語れ』でラーメンを食べるとき、苦しくなったら、スタッフがいつも、応援してくれます。そして、食べ終わったら全員から、全力で祝ってもらえます。
日本人は恥ずかしがり屋なので、このUXが成り立つかわかりませんが、アメリカでは、すぐに受け入れられ、お店はいつも賑わっています。
夢を考えさせるUX
もう一つこのUXの中で欠かせないサービスがあります。冒頭でも少し紹介しましたが、ラーメンを食べ終わった後に、語りたい人が、みんなの前で夢を語るという行為です。ユーザー的には、かなりハードルが高い行為ですよね。特に夢がよく分からない人にとっては難しい話です。
ですが、ここにも明確な意図があります。まず、任意なので、語りたくない人は語らなくても大丈夫です。他の人の夢を聞いているだけでいいのです。頻繁に食べに来ていると、さまざまな人の夢を聞くことになります。『今週末、カレーを作りたい』という夢もあれば、『将来医者になる!』というものがあったりと、夢の規模はさまざまです。重要なことはMustからくる義務的なものではなく、自分の意思 Want からくるものを、自ら語るということです。その夢の規模は関係ありません。
『夢を語れ』に通うと、たくさんの夢を聞くことになるのですが、自然に自分の夢と向き合うようになってきます。最初は『なんだか、みんな大きなこと言ってるな。恥ずかしくて、あまり語りたくないわー』と、思うかもしれませんが、徐々にみんなの言ってることに影響され、自然と自分もしっかりと夢や、やりたいことと向き合おう! となってくるから不思議。
そして、来店10回目で、じゃあ、「僕も今日は語ってみようかな」と、ユーザーの行動を変えることができるのです。他人が夢を語っている場所から、結果的に自分に影響を与えるという効果が生まれるのです。(これは僕自身の話です(笑))
プロトタイプしながら作ったUX
よく最優先するべきことは、ユーザーだといいますが、これほどまでに作り手が描きたい世界観をストレートに体現化したサービスは見たことがありません。ラーメン1店舗なので、チェーン店のように、サービスのシステム化や汎用性について考えなくてもいいので、簡単にプロトタイプできる場所だったから色々と実験ができたのかもしれません。
これらの取り組みは最初からスムーズに進んだわけではありません。例えば、食べた人が夢を語るサービスですが、最初は全員に語ってもらっていました。義務化させてしまったことで、結果的に売り上げがかなり落ちてしまいました。そこで、考えたのが、注文を受けるときに、「夢を語りますか?」と聞くということ。「語りたい!」と言ったお客様には夢フラッグを渡して、食べた後に語るルールにしました。そして、結果的に、上でも言ったように、語っている人に刺激されて、夢を語る人が増えていきました。
終わりに
もっと、夢を語れについて知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
そして、まだ私は行けてないですが、西岡さんが、新しく大分にお店をオープンしたそうです。
そして私、twitter始めました。
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