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「13年の徒歩旅行」 UMA / design farm "Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields"展覧会評

UMA / design farm展"Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields"は2020年2月25日~3月28日まで、クリエイションギャラリーG8で開催されている展覧会。大阪を拠点に文化や福祉、地域に関わるプロジェクトを展開するUMA / design farmの13年に渡る歩みを描いた展示だ。

展示は3つの部屋に分かれており、Room Aではサインやピクトグラム、ロゴ、ポスターなどのグラフィック、Room Bではフィーチャーされた3つのプロジェクトのプロセスと、現在進行中の10のプロジェクトの紹介、Room CではUR団地の色彩・サイン計画の写真と映像が並ぶ。

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UMA / design farm展 Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/tomorrow-is-today/tomorrow-is-today.html

プロジェクトの途上から

展示のタイトルは"Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields"。明日=未来も今日の小さな一歩から。Probable(起こりそうな未来)でもなく、Plausible(起こってもおかしくない未来)でもなく、それよりも広い可能性のフィールドをPossible(可能な未来)と言い切る力を感じるタイトルだ。

それがいわゆるスペキュラティブなデザインの実践であっても、あらゆる制作は持ちうるすべての可能性を捨てて、現時点における、あるPossibleなフォームへと断ち切る力がなければ、結びを迎えることはできない。そこに関わる人たちとともにさまざまな可能性を模索しながら、ひとつのできる形へと収斂させていく、そんなプロセス自体をつくりだすことこそがUMAの試みであることがわかる。

ただし、そのプロセスを紐解くRoom Bに並ぶ、4コマ漫画ならぬ5コマ漫画で表現されているのは、アイデアの閃きでもなければ、プロジェクトの成就でもない。描かれているのはむしろその途上にある、協働する人たちとの些細な日常の風景ばかりだ。そこに聞こえてくるのはともに活動する人たちが掛け合う声。浮かんでくるのは誰も予想していなかったような偶然の出来事。UMAが活動する場にはいつもそこに関わる人たちのひたむきな姿とユーモアに満たされていることが伝わってくる。

それでも、壁一面に広がる膨大な量のワークとその密度を見れば、その道程が決して平坦なものではなかったことがわかるだろう。田畑を耕すこと(Farming)はときに辛く厳しい。大地を乾かすような日照りが続いたかと思えば、強く冷たい向かい風が吹き込み、とめどなく続く大粒の雨が降る。いまにも枯れてしまいそうな小さな苗を日々眺めれば、明日への願いも忘れてしまうかもしれない。

それでもなお、UMAは各地に生きる人と、そこにある自然と人工物そして今日まで編まれ続けてきた文化が織りなすあらゆる環境との対話と実験から、デザインを生み出すことをやめない。当たり前に昔からあったかのような姿で、明日への一歩を踏み出そうとする人の背中をそっと押すような色が形がそこに生えてきている。

デザインとはこういってよければ、放っておけば消えてしまいそうな小さな祈りを形にすることなのかもしれない。この展示は教えてくれる、そこに集う人たちがそれぞれの形で明日への意志を結びあう――その片隅におかれた小さな小さな拠り所、それこそがデザインのあり方なのだと。

13年の徒歩旅行

イギリスの人類学者にティム・インゴルドという人がいる。研究領域とするのは「線(ライン)」を手がかりに、古今東西の語りと概念を縦横無尽に動きながら、ラインとしての人間の生を描く「ライン学」である。彼は著書『ライフ・オブ・ラインズ 生態人類学』の中で、ラインの「結び目」に着目している。

インゴルドにとって、結び目は複数のラインとラインとが塊やこぶをつくりだすために互いに巻き合うことで、形づくられるもの。結び目は組み立てられて構造体をつくるビルディング・ブロックでもなければ、内部と外部とを分けるコンテナでもなければ、形状記憶を持たないチェーンでもない。つまり、結び目がつくられるとき、それぞれのラインが合わさることでまったく新しい何かへと変化するのではなく、それぞれがそれ自体として何かをつくりだす。そして、ラインはその結び目の記憶をとどめながらも、また別々の方向へと伸びていく。

この展示から見えるのはUMAと各地の人たちとの結び目の跡だ。協働する人たちと絡み合い、ほどけ、また新たな道へとそれぞれが踏み出していく。目指すべき道を探して彷徨いながら、そこに明確なゴールはなく、その道程は常に途上にある。

もうひとつの著書『ライン 線の文化史』の中で、インゴルドは「徒歩旅行(Wayfaring)」と「輸送(Transport)」を対比している。徒歩旅行において、人は自らの足で歩み、目を凝らし、耳を済ませながら、旅が与えてくれる経験を全身で受け止める。そこに最終目的地はなく、歩むことそれ自体がひとつの目的となっている。ある場所にたどりついた旅人を待っているのは次なる場所だけだ。一方で、輸送において、人はある目的地へと一直線に向かっていく。A点からB点、B点からC点へ動かされ、飛び地のように目的地を消費していく。そこには途上の出来事は捨象され、そこにあるのはせいぜい窓の外の景色くらいだろう。

Room Bで取り上げられた「小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト」で、UMAとMUESUMが標語として掲げた「観光から関係へ」がひとつの象徴であるように、UMAが描くラインは点から点へと輸送される観光の描く点線とは異なる。彼らが協働する人たちと関係し合う中で生まれる線はいつも曲がりくねっている。

UMAはとにかく動く。プロジェクトは各地で広がり、彼らは日本各地を縦横無尽に移動し続けている。しかしその動きをつぶさに見てみると、むしろ浮かび上がってくるのは、彼らが自分の身体で歩み続けた見えない軌跡の方だと思える。この展示が描き出すのはUMAとその道中をともにする人たちとの13年の徒歩旅行だ。

その逍遥の中でUMAが理念とするのは「ともに考え、ともにつくる」こと。その言葉を補ってあまりあるほどの協働が彼らの活動の特徴であり、むしろその協働をしてこそ、彼らのデザインと呼ぶべきことはたしかだ。

しかしその徒歩旅行を覗いてみると際立つ彼らの姿勢は、その道すがら見えてくる風景や起こる出来事を「ともに見る、聞く、感じる」ことだろう。それはA点からB点へと運搬される輸送をきらい、すべてを自らの足で動く徒歩旅行とするために彼らが身につけた振る舞いなのかもしれない。

人はそれぞれが生きる場と風景に否が応でも慣れてしまう習性をもっている。私たちの暮らしには目新しいものは何もなく、まちは変わらず、あたかもまったく動いてないように見せる概念に溢れている。UMAは対話と実践を通して、その道に生じている物事のかすかな動きを感じ取り、それをともに感じあう状況をつくりだす。そして、そこから糸を引き出し、人と人、人と土地が織りなす網の目として、インゴルドの言う「メッシュワーク(網細工)」を現前させるデザインの力を持っている。

この展示はUMAとその活動を育んできた人たちが、その生のラインを描きなおす場であると同時に、徒歩旅行へとともに歩きだすことへの招待でもある。もしあなたがラインを描くなら、だれかのラインがそこで待っている。そして、その一歩はもうはじまっている。明日は今日、今日は明日なのだから。

UMA / design farm展 Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields
会期:2020.02.25 火 - 03.28 土
時間:11:00a.m.-7:00p.m.
日曜・祝日休館 入場無料                      ウェブサイト:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/tomorrow-is-today/tomorrow-is-today.html

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