STAR WARS に学ぶ、人が簡単に闇落ちするための4ステップ。そしてそれを防ぐために。
スター・ウォーズというのは、失敗しつづける家族の物語であり、闇落ちの物語である。
この失敗の起点となった、主人公の闇落ちの理由がとても示唆的だと感じたので、考察したい。
STAR WARSがそうであるように、この記事も「弱い自分と戦う全ての人」にとって参考になれば幸いである。
失敗し続ける家族
40年以上に及ぶ家族の物語なので、相関図は以下のように複雑になる。
(画像は上記リンク先より引用)
↑かいつまんで言うと、、、
アナキンは母親と若くして離別し、母親の愛を十分に受けずに育った。そして離別して10年たってから、母親は何者かに殺害される。
そのうえ、アナキンは妻が死ぬことを夢で予知しそれを防ごうとするが、失敗し、妻を失う。そしてアナキンは闇落ち。
オビワンは、弟子であるアナキンを弟のように大切にしてた。しかしアナキンが闇落ちしたので仕方なく戦い、弟子の三肢を切り落とす。
アナキンは一命はとりとめるも、悪役に唆されダースベイダーに転身。大量殺戮をしながら、圧政に加担する。
アナキンの子であるレイアとルークは、実親には育てもらえないうえ、成長後、実親であるダース・ベイダーと戦争をする。
レイアとハンの間には、ベンが生まれた。
ルークは、甥にあたるベンを弟子として育てようとしたが、互いを信じ合うことができず、ベンは闇落ち。カイロ・レンになる。
カイロ・レンは悪いやつらのトップとなり、ルーク&レイア&ハン陣営と親子戦争をする。過程で父親のハンを殺害。
まとめると、「オビワン→アナキン→ルーク(&レイア&ハン)→ベン」の流れでひたすら親子(師弟)関係に失敗し、争う。
師弟/親子関係がひたすらこじれ、宇宙で戦争をするのがSTAR WARSだ。
なので、STAR WARSというが、FAMILY WARS in STARSと言ったほうが実態をよく表すように思う。
なぜアナキンは闇落ちしたか
そしてこの家族戦争の起点は、アナキンの闇落ちである。
この闇堕ちの過程を描いたのが、ep1-3からである
原理主義的なep4-6ファンからは、ep1-3は否定されがちである。
しかし、アナキンの闇落ちは、「如何に人が闇落ちするか」を描いた秀逸な作品であると私は考えている。
ep1-3は、観客に「アナキンはこんな感じで闇落ちしたけど、君たちはどうなん?大丈夫かい?」と問うてくる作品なのだ。
そこで、アナキンは何故闇落ちしたかの流れを整理することで、如何に人間が弱く、如何にその弱さと戦えばいいのかを考察したい。
1. 母親と愛を失うことをひたすら恐れ、苦しんだ
ヨーダ: うむ。母親を失うのが怖いのじゃな?
アナキン: それが何の関係があるんですか?
ヨーダ: すべてじゃよ。恐怖はダークサイドへ至る道じゃ。恐怖は怒りに通じる。怒りは憎しみに通じる。憎しみは苦しみに通じるのじゃ。お前の心に大きな恐怖を感じるぞ。
少年アナキンがジェダイとしての訓練を受ける前に、ジェダイ評議会からその素質を問われる場面だ。
アナキンは奴隷として育った影響もあり、離別した母親からの愛しか、まともな愛を知らない。
が、とある種族に暴行を受け、母が死亡。アナキンは、母親が死ぬ夢を以前から見ており、以前から最も恐怖していたことが起こったことになる。
唯一まともに知っていた”愛”である母親を失ったアナキンは、怒り狂い、誰が犯人かも確認せず、近くにいた村民を皆殺しにする。闇落ちが確実に始まる。
ってなわけで、ヨーダの予言通り、母を失う恐怖が闇落ちの第一歩となる。
2. 心の平静を失った&苦しみを理解してもらえなかった
アナキン:よく眠れないんです。
オビ-ワン:母親のことか?
アナキン: なぜ母の夢ばかり見るのか分からないんです。
オビ-ワン:時間が経てば見なくなるさ。
母親を失う夢を見ることを、師匠に軽くスルーされる。
オビ-ワン: You're focusing on the negative, Anakin. Be mindful of your thoughts. (意訳:否定的になるな。自分の心を平静に保て)
ともいわれる。自分の感情を聞いてもらえないでいる。
師匠の中の師匠であるヨーダにも、母が死ぬ予知夢について相談するが…
ヨーダ:
死は人生の定めじゃ。隣人たちがフォースと一体となることを喜ばねばならん。悲しんではならんのじゃ。寂しがってはならん。執着は嫉妬へと通じる。欲望の影じゃ、それはな。
アナキン:
僕はどうしたらいいんです、マスター・ヨーダ?
ヨーダ:
己を鍛えるのじゃ・・・失いたくないものすべてを送り出すためにな。
最大の上司には、不安に寄り添ってもらえないばかりか、喜べと言われた。
このように、ジェダイの基本は、感情を抑えることであり、自分で心を平静に保つ(Be mindful of your thought)ことである。
これは常人には簡単にはできない。したがって、ジェダイの素質がある者は極めて幼い段階で親と離別させられ、世俗と離れてから訓練を開始する。執着を覚える前に。
しかしアナキンは、母の愛をいくらか知ってから訓練を始めたので、執着や恐れを捨てられないし、心の平静を保てない。
この”Be mindful of your thought”は劇中、何度もさりげなく繰り返される。戦争シーンに埋もれて目立たないが、非常に重要で本質的なフレーズである。
究極的にはBe mindful of your thoughtに何度も失敗して、ダース・ベイダーになっていく。
3. 罪悪感や苦しみが強化され、周りへの不信も募る
アナキンは、母親から離別したときから罪悪感を持っている。
もともとアナキンと母親は、とある雇い主が所有する奴隷であった。
しかし、アナキンの才能を見出したジェダイがその雇い主と賭けをし、アナキン親子を奴隷状態から解放しようとする。
その賭けにジェダイは勝利したが、雇い主に「2人は無理だ、1人までだ」と言われてしまい、アナキンが選ばれてしまう。
アナキンは自分がジェダイとしての素質を持っているから選ばれてしまったとに気づいている。それで罪悪感を感じ始め、別れのシーンではこのように言う。
Anakin (アナキン):
また戻ってきて、ママを自由にするよ。約束するね。
ちなみに上記の別れのシーン、左のジェダイが日向("Light side")で、母親の方が影("Dark side")になっていることは注目である。
母親への執着が彼を影に連れて行くことを暗示している可能性が高い。狙ってるなら、天才的な演出。(『スター・ウォーズ エピソード1』より)
もともと愛する母親を1人にしたことに罪悪感を持ってたアナキンだが、母親が死亡してから、アナキンは母親を守れなかった自分を強烈に責める。
Anakin (アナキン):
なんで母さんは死ななければならなかったんだ?なぜ救えなかったんだ?できたはずなんだ!
Padome (パドメ・アミダラ):
ときにはどうにもならないことだってあるのよ。あなただって全能じゃないんだから、アニー。
Anakin (アナキン):
でも、そうあるべきだったんだ!いつかきっとなる。いつかきっと、最強のジェダイになってみせる。約束するよ。人々を死から救うことだって学ぶんだ。
アナキンは母親を死なせた原因を、自分が全能でないことに求めてしまう。
『最強のジェダイになってみせる。約束するよ。人々を死から救うことだって学ぶ』
この箇所からは、アナキンが狂い始めているのが如実にわかる。
最強のジェダイになることも、無理に死を阻止することも、相手が全く求めないが、勝手に約束している。
これは相手のための約束ではなく、罪悪から逃れたいが故の自分の欲望である可能性が高い。しかしそれにも気づかず、彼は上記のように発言する。
母親を失ってからも、”母”を失うことへの恐れは続く。
どういうことかというと、母親とパドメの存在を重ね始める。
元々アナキンとパドメが出会ったのは、9歳と14歳(実際の役者は、当時9歳の子役と17歳のナタリー・ポートマンなのでパドメがすごくお姉さんに見える)。
(画像は、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』より)
しかもアナキンは母親と会えないため、年上のパドメを、どこか母親と重ねてみた可能性は高い。(この年の差でアナキンがパドメに惚れるのがおかしいとep1-3はよく批判される。しかし、アナキンがパドメから、”母性”を求めてしまったと考えると、説明がつくように思える。)
そしてパドメと秘密裏に交際を始めてしまい、パドメが妊娠してからはさらにその傾向は加速する。以下は妊娠をパドメから告白されたシーンである。
これは、後述の名越康文氏の参考文献で気づいたことだが、子供ができた割には、アナキンは中々に暗い目をしているうえ、次の言葉を言い淀んでいる。
なぜ、暗い目をしているのか。名越康文氏によれば、パドメが妊娠、つまりパドメが母親になったことで、パドメと自分の母親がより重なって見え始め、”母”を失う可能性が上がったからではないかと。
実際、直後のシーンで、パドメが母親と同じように死ぬ夢を見る。どこか母親を重ねている可能性は確かに否定できない。
アナキン:
母さんが死ぬ直前によく見ていた夢と似ているんだ。
とパドメにアナキンは告げる。
母親を死なせた罪悪感がさらに強化される流れになっている。
4. 苦しみに耐えられず、現実を見ず、合理化する
罪悪感と恐怖心が増すアナキンはどんどん苦しくなる。
3. にて、「自分が全能であれば、死から母も救えたはず」と考えるくらいにはアナキンが狂い始めていると書いたが、悪役のパルパティーンはそれに気づき、彼への人心掌握を強化する。
パルパティーンはアナキンと親しくなり、「フォースの暗黒面であれば、死をも避けられるらしい」(≒全能になれる)と唆す。
これによりアナキンは”全能”や、”死を回避すること”という、非現実なことを更に考え始める。母親が死んだ現実を直視できないためである。
パルパティーンは悪賢いのでさらに追い打ちをかける。
オビワンやジェダイ評議会は、アナキンを精神的に未熟として、昇進を止め、さらにはアナキンの意見を聞き流すことが多くあった。そこにパルパティーンはつけ込んだ。
Palpatine (パルパティーン):
君の才能をろくに評価できないような評議会にはまったく腹立たしい限りだ。なぜ彼らが君をジェダイ・マスターに昇格させなかったのか分かるかね?
Anakin (アナキン):
知りたいものです。ますます評議会から疎外されているような気がしています。彼らはフォースについて私に何かを隠しているんです。
Palpatine (パルパティーン):
彼らは君を信用していないのだよ、アナキン。彼らは君の未来を見ているのだ。君の力が制御できないほどに強くなることをね。ジェダイが君の回りに作り上げた欺瞞のもやから抜け出すんだ
「ジェダイ評議会は、アナキンの能力や思いに対して無理解で、アナキンを抑圧する存在だ。」とパルパティーンは唆し、ジェダイに対して怒りが立ち込めるように常に仕向ける。
アナキンは精神的に未熟な面があるので、昇進が遅れたり、意見が一部通らないのは、ある種当然である。
しかしパルパティーンは、アナキンがジェダイに対して疑念を持つことを支持し、彼の怒りの合理化を後押しする。
そして十分にアナキンがジェダイに対して疑念を抱き始めたら、とどめの一言である。
Palpatine (パルパティーン):
私には君の愛する者を救える力がある。(ジェダイか私かを)選ぶのだ。
アナキンはもうジェダイを選べないくらいに疑念がふくらんでいた。
そして闇落ちする。
闇落ちした後も、合理化は続く。
最も印象的なのは、アナキンが大量殺戮をした後にパドメと会う以下のシーンである。
Padme (パドメ):
アナキン、私がほしいのはあなたの愛だけよ。
Anakin (アナキン):
愛では君を救えないんだよ、パドメ。僕の新しい力だけが救えるんだ。
Padme (パドメ):
その代償は何なの?あなたは善良な人よ。そんなことはしないで。
Anakin (アナキン):
母さんを失ったように君を失いたくないんだ。僕はどんなジェダイが夢見ていたよりも強い力を手に入れた。それを君のために使うんだ。君を守るためにね。
Padme (パドメ):
一緒に逃げましょう。子供を育てるのよ。今ある現実を何もかも捨てるの。
Anakin (アナキン):
分からないのかい?もう逃げる必要なんてないんだよ。僕は共和国に平和をもたらしたんだ。議長より強くなった。彼を倒すことだって可能だ。君と僕とで一緒に銀河系を支配しよう・・・僕らの好きなようにすることができるんだよ。
キテますね、アナキン。
このやり取りから見ても、アナキンはパドメの願いなんかより、「母親を死なせた現実を無視する力」のほうが大事なことが伺える。パドメの願いなんて一言も聞かず、力を求めている。
極めつけは、闇落ちを阻止しようとするオビワンへの返しである。
Anakin (アナキン):
講義はもうたくさんだ、オビ=ワン。ジェダイの欺瞞はお見通しだ。僕はもうこれまでのようにダークサイドを恐れない。僕の新しい帝国に平和と自由、正義、安全をもたらしたんだ。
闇落ちと暴力の合理化が甚だしい。
正義を持ち出して攻撃的になることを合理化するのは、『正義中毒』に近いものを感じる。
大きい喪失感&罪悪感&トラウマなどを解消できずに、ひたすら苦しんだのがアナキンなのでしょう。
まとめ
(母親と愛を失って)喪失感と罪悪感に苦しむ。
↓
↓←感情を抑えろとだけ教わり、誰も苦しみや不安に寄り添ってくれず
↓
苦しみが強化され、周りへの不信も募る(心の平静が失われる)
↓
苦しみから逃避するため、全能や権力や支配を望み始め、暴力的になり、さらに自分のやっていることを正義と合理化する。
という流れである。
教訓:何があれば闇落ちを防げるか
アナキンが辿った流れは他人事ではない。誰もが陥りかねない流れである。
最近であれば、コロナ周りで起きる出来事がそうだ。
漠然とした不安や苦しみから、猜疑心が出てきてはいないだろうか。必要以上に政治家や著名人や感染者を感情的に叩いて、それを正義だと感じてないだろうか。アナキンが罪悪感や孤独感を理由にジェダイを疑い、攻撃的になったのと全く同じ流れに感じる。
以下のリンクやSNSの一部投稿を見ると、それを感じる。
この場を借りて、自分にはこのようなダークサイドを拭いきれてないことを告白する。
ではどうすれば防げるのか。
名越康文氏が言うには、アナキンは「心の平静を保てなくて」闇落ちしてしまったが、ではどうすれば「心の平静」は保てるのか。
ひとつは、感情を抑えるのではなく、直視し、受け入れることではないだろうか。自分の感情と行動を内省し、なぜ自分が不安になったり、どんな理由や誘惑によって自分が攻撃的なっているかを考えるのだ。
そしてもうひとつは、上記が1人ではできなければ、その支援を求めることではないだろうか。
アナキンは感情や過去を直視し受け入れることができず、暴走した。
しかし、周りのジェダイ達がアナキンに感情を抑えることではなく、吐き出させて傾聴してあげていれば、結果は変わったような気がしてならない。
このep1-3を見ると、自分の心を襲う闇に敏感にならなくては、と思う。
必要なら、助けを求めなくては、と強く思う。
昔から言うように、『一寸先は闇』なのだから。
参考文献: