ウォンテッドリーのマーケティングトレース~共創による安価なサービス設計~
求職者と人事を繋ぐビジネスSNSのwantedly。
仕事でココロオドル人をふやす
をミッションに、仕事への価値観で繋がることのできるサービスを運営しています。
今日はそんなウォンテッドリー株式会社のビジネスモデルや戦略について紐解いてみます。
1.ウォンテッドリーのビジネスモデル
Wantedlyのビジネスモデルは掲載課金型です。つまり、リクナビや前回紹介したワンキャリアと同様に、企業はwantedlyに求人を掲載するために、料金を支払うことになります。
ただ、大きく違うのは、掲載料で、スカウト機能を使用しなければ、年間40万前後で利用することができます。リクナビなどに求人を1案件掲載すると、年間で70~100万ほどかかりますし、人材紹介の1人当たりの報酬も最低100万は超える相場観なので、格安ですね。
人材ビジネスの相場観については、下記書籍を読めば、ある程度把握することができます。
つまり、掲載する企業数が増えれば増えるほど、ウォンテッドリーは儲かることになります。また、掲載する企業を増やすためには、ウォンテッドリーを使用すると、
①コスト(金×時間)を少なく
②条件に合致した人材が
採用できる状態を作る必要があります。なので、どのようにして①②の観点で競合と差別化を図っていくのか、考察していきます。
2.顧客との共創でコストカット
wantedlyは後発サービスなので、認知がありません。そう考えたときに、分かりやすく差別化するためにウォンテッドリーが取った戦略が、
安価なビジネスモデルを作ること
でした。つまり
「リクナビよりも安く採用できるから、良かったら使ってみてね。いい人材採用出来たら、継続してね」
といったアプローチで人材サービス市場に切り込んでいったと推測されます。そのために、安価な課金モデルでも成立するビジネスモデルを組まなくてはいけません。
さて、人材紹介ビジネスで1番コストがかかっているのはどこかと考えると、「企業への営業と求職者へのマーケティング」です。
リクルートは、広告を載せる企業を集めるために営業を行いますし、求職者がサービスを使ってくれるように、マーケティングを行います。
マーケ/営業の共創で勝負!
これに対して、ウォンテッドリーがとった戦略は、マーケと営業への予算投下を減らすして、顧客である企業側に、集客機能(営業 & マーケ)を担ってもらう戦略です。
wantedlyでは、求人をシェアしたり、「応援」を集めることで、スコアが溜まり上位表示されやすくなる機能があります。
また、求人の内容を、人や会社の価値観にフォーカスすることで、シェアしたくなる欲求(人は元来自分のことを知って欲しい生き物である)を掻き立てています。
(下記ブログでも述べられています)
こうして、集客機能を会社側に任せることによって、社員の知り合い全員に届いたり、それを見た他社の採用担当にも、Wantedlyという採用媒体を認知させることができます。
採用媒体では、ネットワーク効果(ユーザーが多いければ多いほど、企業にとっての価値が高まる、掲載企業数が多いほどユーザーにとっての価値が高まる)が働くので、通常は後発で勝ち抜くのが難しい業界です。
それでもWantedlyが後発でユーザー数を伸ばせたのは、こうしたサービス設計による点が大きいです。
こうして、集客機能を企業に担ってもらうことで、コストを下げ、安価なサービスを提案で来ているのがWantedlyの強みになります。
人事部門でも予算が決められているため、多少工数がかかったとして、やってみようと思えるのは安価(無料体験まである)であることが大きいように思います。
3.いい人材を集めるために
しかしながら、どれだけ安かろうと、採用媒体である以上はいい人材が採用できないと意味がありません。
そこで、まずは、Wantedlyが1番活躍できそうな場所を考えてみます。
新卒・中途問わず、採用人数が多く、認知度が高いほど、一般の掲載課金モデル(リクナビなど)のコストは安くなります。これゆえ、ベンチャー企業の方が、求人媒体からの採用は難しいです。
また、ベンチャー企業の方が、お金もありません。なので「2人○○できる人が欲しい!」と言った悩みを持つベンチャー企業の方が、安価で採用できるWantedlyの強みが生きます。
加えて、採用難易度の高いマネージャー層だと、高いお金を払ってでも採用したい人材を取りたいケースが多いので、Wantedlyとの親和性は低くなります。
なので、Wantedlyのターゲットは、若手の採用に困っているベンチャー企業と推測できます。
そんなベンチャー企業に対しての、ポジショニングがこちら。Wantedlyの大きな特徴として、
給与の記載が禁止
というのもがあり、条件でなく、価値観で人材のマッチングを図ることで、ウォンテッドリーのミッション「仕事でココロオドル人をふやす」を反映させています。
(蛇足ですが、待遇面の満足度と社員の士気の相関関係はあまり高くないことが、北野唯我さんの最新著書OPENESSで明らかになっています)
勿論、価値観の一致は大切でありますし、ベンチャー企業は構造上どうしても、大手企業より給与が安くなりがちなので、都合もいいワケですね。
さらにベンチャーにフィットしたカジュアルさのある雰囲気をWantedlyサービス全体でイメージしています。こうしてみると、ベンチャー企業をターゲットにサービス設計をしているのだと色濃く分かります。
ベンチャー企業にとってのいい人材とは?
まずいい人材の獲得を考える前に、いい人材の定義を行う必要があります。勿論、仕事ができることに越したことはないのですが、売り手市場の中で優秀な人材には限りがあります。
価値観を重視した採用
それなので、ベンチャー企業では価値観を重視した採用を行うことが多いように思います。価値観がフィットしていれば、スキルは育つので、価値観や方向性の違いを大切にしているとよく聞きます。
Wantedlyでは通常の採用媒体と異なり、価値観や中の人をウリにして、会社のPRを行っているため、他媒体よりも価値観が一致する人材が多く採用できると推測できます。だから
価値観が一致する人材=いい人材
であるベンチャー企業は、Wantedlyを使うのです。多少の工数はかかっても、予算は安く、いい人材は獲得できる。なんと美しい。
4.これまでの戦略まとめ
まとめるとこんな感じになります。安価かつ、価値観マッチングでいい人材が採用できるから、使う価値がある。だから企業はSNSを軸に拡散する。
社員も、会社のことが好きならば、自分の会社のことを知ってほしいし、PRしたくなる。結果として、Wantedlyの認知も獲得できる。
4Pの相互作用がキレイにハマった美しいモデルですね。この成功からの1番の示唆はバリューチェーンをずらして、きれいなビジネスモデルを設計したところだと思います。下記考えです。
以前紹介した、ZOZOの受託販売モデルの考え方と同じです。バリューチェーンのどこで、競合に差をつけるかを軸に考えると発想しやすいなと改めて実感します。
この考え方はブルーオーシャン戦略の戦略キャンバスと近しきものを感じるので、興味のある方は下記書籍もおすすめです。
5.今後の展望
まずは、IR資料に目を通しまして。
<ここから見える方向性は2つ>
①マッチング精度の強化
②Wantedly Peopleへの投資
はい、もうこれしかないです。
データ基盤の構築と活用
より多くのデータを集めて、マッチングの精度を高め、「いい人材を採用する」といった根本の価値を磨き上げるのが今後の方向性にように思います。
名刺管理サービスのWantedly Peopleに投資をするのも、より個人のデータを集めてスカウトなどの活動に活用するためでしょう。
一部アプリ内広告でのマネタイズを狙っているようですが、本当の狙いはデータ基盤の構築だと推察します。
データ基盤構築の話は、下記でもした通り、IT企業が持続的競争優位を保つための大きな軸になると思います。
おわりに
webプラットフォームの企業を見ていたら、結局STPとバリューチェーンをずらして、データ基盤を構築しきる方向性は普遍だなと、複数の企業を見ることで、コツを掴めてきた気がします。
STPを上手く切ってポジションを取ったLINEがLINE payに投資したのも、
Yahooと経営統合したのも、
結局、どれだけデータを集めて活用しきれるか。そこ尽きるように。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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