無印が仕組み化して、ユニクロが仕組み化しないのは何故か。
企業の成功例を語る時に、実例を語る場合が多い。
平均年収1位、時価総額4位のキーエンスなど、優良企業の強みを紐解くコンテンツはあり触れている。
そして、このような権威性を利用したコンテンツはPVが伸びる。
一方で、これらのお役立ち記事の内容をそのまま真似しても、効果があるとは限らない。
キーエンスの例で言うと、キーエンスが最も優れているのは、市場選定とビジネスモデルだと分析している。
キーエンスの秘密としては、
・ファブラス経営
・No.1しか作らない
・徹底した営業管理
などがよく挙げられるが、それが成り立つのは参入障壁が高く、価格交渉権を持ちやすい市場選定を行った副産物であるから、それらを真似することは、別の市場では極めて困難なのである。
(仮に困難でなければ、キーエンスが年収1位の企業になれていない)
このように、勝つための秘訣は戦略とビジネスモデルに紐づく。
今回はその最たる例として、ユニクロと無印良品が行った異なる戦術について紐解いていく。
1.仕組み化は、本当に正しいのか?
無印良品が成功した秘訣の話を調べると、真っ先に出てくるのが仕組み化だ。
店長が感覚と経験に基づいて、仕入れや販売などを行っていた文化を一掃し、マニュアル「MUJIGRAM」によって、成功法則に再現性を持たせて、業績を回復させて話が有名である。
「MUJIGRAM」を軸に行動し、「MUJIGRAM」の内容に違和感を感じれば、それを一旦本部に上げて、議論を行い、再度「MUJIGRAM」の内容を更新して、各店舗で実行する。
まさにトップダウン型の組織である。
ここまでを総括すると、
安定した成果を残すためには再現性が大切だから、うちの会社でもマニュアルを作って、実行しよう。
と解釈をすることができる。
しかし、本当にそうなのか?
2.仕組み化しないユニクロ
実は正反対とも言える方法で、成果を残している企業が存在する。それが、同じ小売店のユニクロである。
ユニクロと言えば、上記の広告が有名であるが、一言で言うと、
本部ではなく、店長が正義。
なのがユニクロの取った方針である。店長の感覚に頼らず、本部を中心に作った「MUJIGRAM」で仕組み化を図る無印良品とは、真逆の方針を取っている。
柳井さんの著書「一勝九敗」には、「マニュアル人間の限界」という目次もある。
考え方としては、マニュアルでは対応できない部分があり、それを自分の頭で考えて行うことで付加価値が生まれるという考え方だ。
そして店長に裁量を持たせ、各店舗のボトムアップ型で、トップダウン型では出しえないスピード感を持った対応、アイデア、店舗の特徴を生かした販売などで、成果を上げている。
それを評価制度と紐づけて、成果主義の文化を敷くことで、マニュアルがなくとも成果を出せる社員が集まり、自ら年収を上げるために創意工夫する組織が出来上がっている。
やっぱり、マニュアルが全てじゃない。
ここまで読むと、そんな気もしてくる。
結局、成功は結果論でしかないのか。
時と場合による、で済まされてしまうのか。
3.経営戦略から紐解く2社の特徴
その謎を解き明かすべく、経営戦略のフレームワークで整理を行う。
マイケルポーターの基本戦略
とアパレル(正確には無印良品はアパレル企業ではないが)業界における各社の戦い方が分かれる。
詳しく整理すると、
ユニクロ:コストリーダーシップ戦略
<戦略>
ターゲットを絞らず、万人にとって便利なものを安価に大量生産することで、市場TOPを狙う。
<施策例>
・SPAモデルによって、コストを削減
・ヒートテックなど、広いターゲット狙い
無印良品:差別化戦略
<戦略>
価格を安さで勝負せず、コストリーダーとの差別化を図り、少しお金を払ってもよい!と思える商品を作る。
<施策例>
独自の世界観でファンを作る。
と安さと機能で勝負するユニクロに対して、無印良品の強みは世界観を売り出して、ファンを作っている。
別の例で例えると、
スターバックス(差別化)
少し高いがおしゃれで美味しい。
ベローチェ(コストリーダー)
安くコーヒーが飲める。
などが挙げられる。
これを更に深ぼると、人間の消費パターンは下記の2つで分けることができる。
機能的な価値を売る場合は、いかに大量生産と業務効率化で安く売るかが勝負になる。
一方で、心が満たされるような体験がある場合は、人は多少お金が高くても、お金を払う。居酒屋でのお酒や、旅行で買うお土産はこれに該当する。
同じビールでも、コンビニで缶ビールを買って飲むより、居酒屋という場で缶ビールを飲んだ方が盛り上がるからだ。
4.変わるのが価値か、変わらないのが価値か
前置きはここまでにして、これからまとめに入る。
結論、これらの2社の戦略の違いが、組織構造に変化を与えているのだ。
まずユニクロ。
ユニクロでは、
・ヒートテック
・エアリズムTシャツ
・フリース
を中心に、機能的価値の高い商品を安く売っている。そして、この便利か否かの判断軸は、顧客のニーズに左右される。マーケットインと言われる考え方である。
・今年は寒いから、ヒートテックが着たい。
・今年の流行は、カーディガンだ。
など、顧客の気分や時代の変化によって、ニーズが変化しやすい環境なのである。
そしてニーズが変化しやすい環境だからこそ、
ボトムアップ型で臨機応変な対応
が価値になる。だから、マニュアルに頼らずに裁量権を与えて、考えて仕事をすることが成果に繋がるのだ。
セブンイレブンの事例も似ている。
店長が次の日の天気を基に予測を立て、その結果をPOSデータに蓄積し、発注の精度を上げていくボトムアップ型の組織だ。
こちらもコンビニは、コンビニエンス(convenience:便利)の名の通り、
・機能的消費
・マーケットイン
・ニーズが変化する
なので、マニュアル化でなく、店長が自分で考えて行動できる仕組みを整えている。
一方で、無印良品。こちらは
無印良品の商品が好き!
という情緒的消費によって、売上が上がっている。
考え方としては、プロダクトアウトだ。
消費者の不に着目して商品ができたのではなく、理想の世界観があって、それを消費者に提案することで、情緒的消費を生み出している。
似たような例を挙げると、
・ディズニーランド
・スターバックス
・Apple
がある。夢の国みたいな場所があったら嬉しいなあ!なんて、ニーズからディズニーランドは生まれていない。
そして、この情緒的消費は、細かなニーズの変化に対応しない。
androidのスマホが複数種類あるのに対して、iphoneは1種類しか存在しない。iphoneの武器は、機能的価値以上に洗練されたデザインであり、持っていて自慢できるステータスであるからだ。
むしろ、変わらないことが価値となる。
ディズニーランドのサービスが、キャストによって異なったとしたら、それは夢の国ではないし、スターバックスの雰囲気が店舗によって異なったら、居心地の良さは保たれない。
変わらないの究極系は、京都の街並みだ。古き良き日本の伝統を変わらず守り抜いたことで、情緒的な価値が生まれている
無印良品も同様で、無印良品の魅力は便利さやニーズに合った商品でなく、持っていて何となくカッコいい、おしゃれだと思える情緒的な体験なので、細かな変化をする必要がない。
ゆえに、マニュアル化が肝になるのだ。
再度まとめると、
機能を売る→顧客に合わせる→日々改善
情緒を売る→世界観を売る→変わらない
といったビジネスの構造に基づいて、理想とされる組織の在り方が変わっている。
それに紐づいて、採用戦略も、研修も、評価制度も、変わるのである。
5.結論:事例は構造を把握せよ
今現在、様々な情報があり触れている。
・Twitterのフォロワーを増やす方法
・採用に成功した方法
・雰囲気の良い組織を作った方法
・新規事業を成功させた考え方
・業務効率化を進めた方法
しかし、これらも必ず、その裏には、その方法を行うことが1番最適である構造があって編み出されたのであり、万人にとって最適な手法といえることは数少ない。
そこに気付かず、
・流行りだから
・リクルートがやっていたから
・心理的安全性が流行っているから
なんて理由で、自らの事業に適応しようとしても、そのビジネスモデルにフィットしなければ、不全化してしまう。
これを防ぐ方法としては、まず、ストーリーとしての競争戦略を読むことをおすすめしたい。
その中で、このような1つ1つの事例を学び、構造と紐づけて考察を深めていくといい感じだと思う。マーケティングトレースという手法が紹介されているので、事例分析が初めての方は、これを参考にするのがおすすめだ。
せっかくなので、今携わってる事業について、
Q1. ポーターの基本戦略のどこに当てはまるか
Q2. 機能と情緒どちらを売っているか
Q3. プロダクトアウトかマーケットインか
を再度確認するだけでも、どこを磨けば事業が成長し、そのためにどんな組織を作るべきなのかの思考のヒントになると思う。
あとがき
完全に自身の解釈なので、事実齟齬があった場合は申し訳ないです。僕自身も勉強中ですので、捉え方の違いがある方は、議論出来たら嬉しいです。
経営戦略・マーケティングについてnote書くのは久しぶりな気がします。これくらいの小ネタだったら、それなりに持っているので、もっと興味がある方、面白いと感じてくれた方は、スキをしていただけると、モチベーションが上がります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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