論文紹介:ドイツにおける職業訓練のデジタル化に関する取組み(佐藤 崇志 他, 2020)

直近、専修学校について調べていましたが、少し視点を変えて職業訓練について調べてみます。今回は日本国内の事例ではなく、ドイツの事例を調査した論文を取り上げました。

読んだ文献

佐藤 崇志, 今村 誠, 谷口 雄治, Sasaki Kenta, 菅沼 啓, 高橋 秀誠, ドイツにおける職業訓練のデジタル化に関する取組み, 技能科学研究, 2020, 37 巻, 1 号, p. 1-6, 公開日 2022/08/05, Online ISSN 2435-1814, Print ISSN 2434-3706, https://doi.org/10.20580/jptsci.37.1_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jptsci/37/1/37_1/_article/-char/ja

要約

この論文は、ドイツにおける職業訓練のデジタル化の取り組みについて調査した結果を報告しています。特に、デュアルシステムと呼ばれる、企業での実地訓練と職業学校での座学を組み合わせた訓練システムにおけるデジタル化の現状に焦点を当て、企業の取り組み事例、職業学校の教師の教育、そしてドイツ政府の政策を詳しく分析しています。また、日本の職業訓練のデジタル化に向けた課題と、ドイツから学べる点についても考察しています。

特に関心を持った箇所

前段として、ドイツでは、小学校・実科学校・ギムナジウム・職業学校・特殊学校など、どの学校で教える教師になるかによらず、教育学科で教師に必要となるカリキュラムを履修する必要がある。また、ドイツでは、中央レベルで連邦教育省による基本法令に沿って、教育カリキュラムが各州の法律で定められており、教師の1つとして職業訓練指導員が位置づけられていることから、教員養成は文部科学省、職業訓練指導員育成は厚生労働省と管轄が異なる日本とは、制度が異なる。

ドイツではデュアルシステムによる職業訓練が一般的である。デュアルシステムにより職業訓練を受ける場合には、自身の希望する職種だけでなく関連する仕事についても学ぶカリキュラムとなっている。例として、製造業では、企業の中でモノを作るための、原料調達から製品製造、出荷までの一連の流れを企業内で分野を超えて必要なスキルを学んでいく。職業学校は、モノを作るための一連の流れに関連した知識を体系的に得る場所であり、実際に身に付けたスキルを理論で裏付ける場所である。

今回の視察で最も印象に残ったのは、企業内教育と職業訓練の連携や情報共有が想像以上に密である点である。その理由は、ドイツでは優秀な人材の採用など、企業にとってのメリットが明確になるように、職業学校、手工業・商工会議所、企業の3者の実質的な連携ができているからだろう。日本における職業訓練のデジタル化においては、技術変化が非常に速いので、職業能力開発施設が常に最新の設備やスタッフを備えることは難しいことを考えると、企業にメリットがでるように留意しながら、企業内教育を職業訓練に組み入れる仕組みを作ることが一つの課題になる。

自分にとっての学び

ドイツの事例を知ることで、これまで自分が持っていた職業訓練の認識が、いかに日本国内の事例を前提としていたかに気付かされました。ドイツでは、企業、官公庁、職業団体が密接に連携し、職業訓練のシステムを構築しており、その取り組みは一つの方向性として非常に参考になります。
私は過去に、官公庁の就職支援施設での業務や企業内での人材育成に関わった経験がありますが、これらの取り組みは各機関ごとに目的やカリキュラムが設定され、相互の連携は見られませんでした。しかし、働く人々の立場からすると、提供主体がどこであれ、自身のキャリアやエンプロイアビリティを高める一貫した教育が求められています。
私自身、近年は、企業内における人材育成に焦点を当てて考えてきましたが、これからは視野を広げ、国全体でどのように人材を育成するかも考えてみたいと思います。

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