論文紹介:専修学校の職業教育の社会的位置づけについて(本田 由紀, 2024)

国内の専門学校を取り巻く状況について知りたくなり、本論文を読みました。スポーツスクールや美容の業界では、専門学校でスキルを身につけて職場に入ってくる新入社員は多いです。そのため、専門学校は身近な存在ではありますが、その実態まではあまり知りませんでした。大学については、財政状況や志願者数の減少など、ニュースで目にする機会は多いですが、専門学校は大学ほど取り上げられていないように思います。

読んだ文献

本田 由紀, 専修学校の職業教育の社会的位置づけについて, 敬心・研究ジャーナル, 2024, 8 巻, 1 号, p. 1-12, 公開日 2024/07/13, Online ISSN 2434-1223, Print ISSN 2432-6240, https://doi.org/10.24759/vetrdi.8.1_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/vetrdi/8/1/8_1/_article/-char/ja, 抄録:

要約

この論文は、日本の高等教育機関の一つである専修学校専門課程(専門学校)における職業教育の社会的な位置づけを検討したものです。
学校統計やアンケート調査データなどを用いて、専門学校の教育需要、生徒の進路意識、卒業後の労働市場での状況などを分析し、専門学校が特に地方の女性にとって、看護、保育、美容などの「女性職」的資格職に就くための重要なルートとなっていること、また、専門学校が「即戦力」養成だけでなく、人間形成的な機能も担っていることを明らかにしています。
さらに、専門学校が抱える課題として、規模、財政基盤、制度化と柔軟性とのバランスなどの問題点も指摘しており、専門学校の機能強化に向けた今後の展望についても議論しています。

特に関心を持った箇所

周知のように、専修学校とは、従来は各種学校とされていた教育機関の中で一定の設置基準を満たすものを認定するという形で1976年に制度化された 学校制度である。高等学校卒業を入学資格とする専門学校(専門課程)、中学校卒業を入学資格とする高等専修学校(高等課程)、入学資格を特に定めない一般課程から構成されるが、生徒数で見れば専門学校(専門課程)が大半を占める。

これら、中等後の諸教育機関の中で、4年に満たない(多くは高卒後2年間の)教育を提供する機関、すなわち短期大学・専門職短期大学・高等専門学校および専門学校は、国際的に使用されるカテゴリーとしては短期高等教育プログラムと総称される。OECDによれば、日本では高等教育に初めて進学する入学者の35%がこのレベルの教育を選択しており、OECD平均の19%と比べて大きな割合を占めている。

専門学校の生徒全体の中で男性は26万2千人、女性は34万5千人と、女性の方が多くを占める。分野別にみると、いくつかの分野では性別による偏りが明確に見られる。男性の場合、最も生徒数が多いのは「工業関係」であり、次いで「文化・教養関係」、「医療関係」の順となっているが、女性の場合は生徒数が最大であるのは「医療関係」であり、それに続いて「文化・教養関係」、「衛生関係」の順となっている。「医療関係」では女性が男性の倍以上の生徒数となっており、その多くを「看護」および「歯科衛生」が占めている。「衛生関係」でも女性が男性の倍以上を占め、その内部では「美容」のボリュームが大きい。「教育・社会福祉関係」も女性が男性の倍以上であり、その中で生徒数が多いのは「保育士養成」である。他方で、「文化・教養関係」や「商業実務関係」では男女の生徒数の差は大きくなく、その内部 の学科で見ても必ずしも男女差は大きくないが、「デザイン」「動物」「ビジネス」などでは女性の生徒数が男性を上回っている。逆に「法律行政」では男性が多い。

主に海外で展開されてきた、各国のスキル形成システムを類型化して捉える「資本主義の多様性(Variety of capitalism)」論では、日本は企業内教育訓 練による企業特殊的スキル形成に特化した類型と位置づけられているが(表5)、実際には専門学校を含む短期高等教育プログラムが、学力や学歴の獲得とは異なる価値基準をもつ層に対して、企業を超えて通用する職業スキルや資格、社会人としての育成を提供していると言える。

2024年1月24日に文科省内の「専修学校の質の保証・向上に関する調査研究協力者会議」が公表した報告「実践的な職業教育機関としての専修学校の教育の質保証・向上と振興に向けて」においては、専門学校に関して今後強化すべき点として、大学等との制度的整合性の向上、専攻科の設置、学び直しのニーズに応えるための社会人の受け入れの拡大、留学生の受け入れ態勢の整備、教員の経験や知識および研修の拡充、情報公開の促進、生徒への修学支援新制度の適用拡大などが挙げられている。

自分にとっての学び

専門学校の歴史や他の教育機関との役割の棲み分けについて、今後専門学校を考察するうえでの基礎知識を得ることができました。
論文では、専門学校に対する期待が今後ますます高まり、特に大学との連携や社会人の受け入れ拡大といった点での役割拡充が求められていると述べられていました。一方で、こうした期待に応えるための財源や組織力の不足といったリソースの課題も指摘されていました。
また、専門学校が輩出する人材はエッセンシャルワーカーと呼ばれる、社会のインフラを支える職業に多く従事しています。専門学校の今後を、社会全体の教育システムや労働システムの課題として捉え、私自身も考えていきたいと思います。


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