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論文紹介:授業における高校教師のフロー体験に内在する実践的意義(木村 優, 2011)

こんにちは。駒井です。
かれこれ2ヶ月ほど、外食を減らして健康的な食生活を心がけています。体重も数キロ落ち、日中の集中力も高まっている感覚があります。数年間、食事に気を遣わない生活をしていましたが、気を遣い始めると食事に対するアンテナの立ち方が変わりますね。
今日も引き続き、フロー状態に関する論文を読んでいきます。日本語で書かれた論文だけでも、相当数存在するので今後読み進めても読むものがなくなる心配はなさそうです。

読んだ文献

著者名,論文名,雑誌名,ISSN,出版者名,出版日付,巻,号,ページ,URL,URL(DOI)
木村 優,授業における高校教師のフロー体験に内在する実践的意義,教育方法学研究,03859746,日本教育方法学会,2011,36,0,25-37,https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680801348608,https://doi.org/10.18971/nasemjournal.36.0_25

要約

この論文は、高校教師の授業中のフロー体験の実践的意義を明らかにすることを目的としています。
教師が授業中に感じる喜びや楽しさといった快感情が、教師自身の認知、動機づけ、行動にどのように影響するか、そして生徒との相互作用にどのような変化をもたらすかを、質問紙調査、面接調査、授業観察調査によって分析しています。
特に、フロー状態の授業では、教師は生徒からの積極的な授業参加行動からの明確なフィードバックを受け、それに対して即興的に対応し、生徒と協働して学習課題を探求していく様子が観察されました。このことから、フロー体験は教師の授業実践をより洗練させる上で重要な役割を果たす可能性が示唆されています。
また、教師自身の授業準備や教材研究の充実、即興的な対応の成功、生徒との協働探究が、教師が授業中に喜びや楽しさを感じ、フロー状態に近づけるための重要な要素であると結論付けています。

特に関心を持った箇所

教師の満足感に関する一連の研究は,生徒との相互作用から生起する快感情が教師にとって最も重要な報酬であることを繰り返し示してきた。例えばLortie(1975)は小学校・中等学校教師94名への面接調査から,(1)病気や学習障害を抱え教師に困難と見なされる生徒が授業や学習に専心する“劇的な成功例”,(2)卒業生の感謝の言葉,(3)学級全体の成績向上,の3つの生徒の行為に教師は喜びや誇りを経験し,これら快感情経験を金銭的報酬や地位向上報酬よりも重視することを明らかにした。この結果から,生徒との相互作用から生起する快感情は教師の仕事への内発的動機づけを高め,教職継続を支え促す“心的報酬”と定義づけられている。

第1に,フロー体験に含まれる8つの現象の構成要素に加え,授業中に教師がフローを体験するには生徒に学習活動に対するフロー体験を誘発する必要が挙げられる。授業は教師一生徒の相互作用で成立し,本研究で示したように,教師は授業中の生徒の反応に基づき授業方略を成功と評価して快感情を経験していた。したがって,授業において教師は自らの働きかけに対するフィードバックを生徒の学習活動から得るのであり,教師1人の活動だけでフローを体験することは不可能と言える。

第2に,教師は日々の実践における試行錯誤と,そこで生起する様々な感情を手がかりに自らの目標を明確化し,現時の授業の挑戦水準と自ら能力水準を把握する必要が挙げられる。フローを体験するには活動の挑戦水準と自己の能力水準とが均衡するか否かにかかっており,両者の不均衡がもたらす感情への認識が自己能力発達の契機になる。つまり,リラックス,不安,退屈といった感情は,活動に対する挑戦水準と能力水準が不均衡に陥っていることを知らせ,その知らせを受けて人は自らの能力に沿った目標を活動に設定し挑戦することが可能となる。木村(2010)は,教師は授業中に喜びや楽しさだけでなく,いらだちや不安,苦しみや悔しさを経験し,これらの感情を手がかりに授業の反省を行い,授業方略の問題点を把握して実践を改善するための方策を練ると示唆している。この一連の過程で,教師は授業における活動の挑戦水準と自らの能力水準を常に更新調整すると言えるだろう。このような日々の実践における試行錯誤とそこで生起する多様な感情に支えられ,教師は授業中にフローを体験することが可能になると言える。

自分にとっての学び

教育現場を対象としたフロー状態に関する研究は、生徒を対象とするものが多い印象でしたが、今回の論文では教師のフロー状態を扱っている点が特徴的でした。
さらに、フロー状態が教師と生徒の相互作用によって成立するという視点も興味深いです。人と人の相互作用という点では、卓球のようなラリースポーツも似たような構造を持っています。フロー状態を相互作用に注目して分析することで、これまでになかった新たな示唆が得られるかもしれません。
また、フロー状態の前提条件である挑戦水準と能力水準のバランスについては、教師が自身の挑戦や能力を正確に自己認識することの重要性が述べられています。挑戦水準と能力水準の調整については、自分自身で振り返りながら行う方法や、支援者との対話を通じて行う方法が考えられると思いました。

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