論文:Media Education through Digital Games: A Review on Designand Factors Influencing Learning Performance(Ishak, S. A., Hasran, U. A., & Din, R. , 2023)
読んだ文献
Ishak, S. A., Hasran, U. A., & Din, R. (2023). Media Education through Digital Games: A Review on Design and Factors Influencing Learning Performance. Education Sciences, 13(2), 102. https://doi.org/10.3390/educsci13020102
要約
研究目的
本研究は、過去20年間にわたり蓄積されてきたデジタル・ゲームベース・ラーニング(DGBL)に関する研究を批判的・包括的にレビューし、特に教育的デジタルゲームの設計手法と学習成果に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的としている。具体的には、子ども向け教育ゲームを念頭に、(1) 教育用デジタルゲームを設計する際に用いられる主要なアプローチ(モデルアプローチ・学習者中心アプローチ・ゲーム中心アプローチ)を整理し、(2) DGBLにおいて学習成果へとつながる内発的動機付け、ゲーム要素、学習経験といった要因を抽出することで、今後の理論的・実践的指針を示すことを狙っている。
研究方法
研究方法は、主に近年の関連研究文献に対する包括的な文献レビューである。著者らは、DGBL分野における教育的ゲーム設計と学習成果に関する研究を精査し、設計手法やモデル、理論的枠組み、学習者特性、ゲーム要素、学習戦略等に着目した。また、学齢期の子どもを対象としたゲーム設計研究に特化して、教育ゲームの発達的標準手順と、それを上回るゲームデザイナーと教育者間の視点の差異を検討した。統制実験やケーススタディ、モデル開発研究など、多数の一次研究や学術レビューを参照し、比較・分析している。
結果
文献レビューの結果、教育用デジタルゲーム設計には以下の3つの大きなアプローチが用いられることが明確となった。
モデルアプローチ:既存の理論モデルや設計フレームワーク(例:IDDTIモデル、問題解決型ゲームモデル、ナラティブ中心設計モデルなど)を参照・適用し、学習内容とゲーム要素を体系的に統合する手法。
学習者中心アプローチ:対象となる学習者(子ども)の認知発達段階、興味、認知スタイル、特別な学習支援(スキャフォールディング)などに合わせてゲームを最適化する手法。
ゲーム中心アプローチ:先にゲームメカニクスやインタラクション要素を考案し、それらに教育内容を統合する発想に基づく手法。
これらのアプローチのもと、学習成果に影響を与える要因として、(1) 内発的動機付け(楽しさ、自己決定感)、(2) ゲーム要素(グラフィック、音声、フィードバック、挑戦度、ナラティブ構造、インタラクティブな操作性)、および (3) プレイ経験(フロー、プレイヤー特性、視覚的注視パターンなど)といった要素が、学習達成度や知識獲得を実証的に向上させうることが明らかになった。
考察
本研究は、DGBL領域において有効なゲーム設計が単一の普遍的手順で確立されないこと、そして教育的価値を最大化するためには学習理論、ペダゴジー、学習者特性、ゲーム原則デザインなど複数要素を有機的に結合する必要がある点を示した。特に「良いゲームデザイン」には、教育者的視点(学習内容・認知発達考慮)とゲーム開発者的視点(エンゲージメントを高めるゲーム要素)との調和が不可欠である。また、プレイヤーの内発的動機付けと深い没入(フロー)、多様な学習スタイルに対応可能なゲーム要素のパーソナライズ、ナラティブ構成といった複合的工夫が、学習成果向上に寄与することが確認された。
これらの知見は今後の教育用デジタルゲーム開発において、学習者中心、モデル理論基盤、ゲーム中心設計のいずれを採用するにせよ、理論的・実証的基盤を強化するうえで有用である。また、さらなる研究では、これらアプローチや要因を統合・一般化した普遍的ガイドラインの構築や、学習者特性へのより精緻な対応、STEM分野など特定学習領域への適用拡大などが期待される。
自分にとっての学び
今日は午後からゲームを用いた教育に関するイベントに参加するので、関連しそうな論文を読んでみました。ゲームを教育に活用する研究で検討されていることは、そのままスポーツを教育に活用する場合にも転用できるように思います。ゲームと比較してスポーツは、スポーツそのものをデザインする機会は少ないですが、スポーツを教育に活用してユーザーに価値を届けるためには、ゲームにはゲームデザイナーがいるようにスポーツにもスポーツデザイナーが必要に思います。デザイナーとプレイヤーのバランスが変化していくと、社会的なスポーツの捉え方も多様になっていくような気がしました。