論文紹介:公的職業資格制度と専門学校の歴史的考察(植上, 2003)

今日からまた専門学校に関する論文を読み進めていきます。本日は以前読んだ論文にも引用されていた、専門学校の歴史を考察した論文を読みます。

読んだ文献

公的職業資格制度と専門学校の歴史的考察(植上, 2003)
東京大学学術機関リポジトリ
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/.../KJ000046...

要約

この論文は、日本の職業資格制度と専門学校(およびその前身である各種学校)の歴史的関係を分析しています。
著者は、職業資格制度がどのように発展してきたかを調べ、その過程で専門学校がどのように重要な役割を果たしてきたかを明らかにしています。
特に、戦前には各種学校が公的職業資格の養成機関として重要な役割を果たし、戦後には専門学校がその役割を引き継いだことが示されています。
また、現代では専門学校資格教育が専門学校全体の過半数を占め、中等後教育機関として独自の位置を確立しつつあると指摘しています。さらに、公的職業資格制度の制度理念の欠如と、資格教育への公的な保障の不足が問題点として挙げられています。

特に関心を持った箇所

公的職業資格制度は明治新政府が早急に着手しなければならない領域の公的職業資格から制度化がなされた。
最も早く公的職業資格として規定されたのは,小学校教員であり,医師,弁護士などが続いている。小学校教員にみられるように,当初はその養成機関も定められたが,当時においては高等,中等教育機関は全く機能しておらず,他方で有資格の小学校教員は早急に求められたために, 1874年(明治 7 年)に文部省は試験検定制度を導入し,試験検定を中心とした公的職業資格制度が開始された。公的職業資格制度は,制度的確立が早急に望まれるよ
うな職業から個別的,独立的に確立されてきている。

以上のように,現在の専門学校資格教育における主要な公的職業資格である,看護師,助産師,建築士,測鱚士,電気工事士,理容師,美容師,鍼灸師,幼稚園教諭,歯科技工士などの養成は,それらが公的職業資格となる前から,主に各種学校において始まっていた。これらの職業は,看護婦などのように社会の急激な変化の中で新しい職業として登場したもの,もしくは理髪師のように職業の性質が変化してきたものであり,新しく必要となる職業教育を行うことが従来の徒弟制度や正規の教育機関では難しいなかで,各種学校として,これらに対応する教育機関が自主的に設立されていったのである。

こうして新たに専修学校が制度化されると,従米の各種学校から専修学校への移行が漸次進んだ。1980年(昭和50年)までに2000校を超える各種学校が専修学校へ転換したが,公的職業資格制度あるいは技能検定制度との関連が明瞭な分野でしかも既に一定の新規学卒者を吸収していた学校が専門学校となるのがその転換の中心であった。1980年代以降に設置される専修学校は新規設置のものが大部分を占めるようになったが,特に非資格教育分野の専門学校において急激に生徒数が増加した。

実際,94年以降専門学校の生徒数は徐々に減少し,他方で大学の生徒数は増加している。専門学校全体でみたとき,18歳人口の減少と大学の量的拡大が,生徒数の減少の要因であるのは確かであろう。しかし,専門学校の生徒数について,学科別にその推移をみると,専門学校の全体的な減少に対して,資格教育分野が安定した増加を維持しているのがわかる。〈表2〉は90年代半ば以降の専門学校学科別生徒数の変遷を示したものである。制度化以降の専門学校の全体的な生徒数の急増をもたらした,情報処理などの非資格教育分野の工業系の学科群や商業実務の学科群で生徒数は急減している。他方,資格教育分野は,一部の工業系の学科で数を減らしてはいるものの,ほとんどの学科において安定した増加を示している。医療分野においてはこの10年で約6万人,衛生分野では約3万5千人,教育・社会福祉分野でも約3万5千人生徒数が増加しており,資格教育分野全体で10万人以上生徒数が増加している。

すなわち,各種学校・専門学校資格教育は,公的職業資格制度の統一的な制度理念の欠如や正規の学校の不足のなかで,養成施設として認定され始めた。戦後は,各種学校の養成施設認定の慣習化とともに,法制上の規制の緩さや経営の小規模さなどによって公的職業資格の細分化に対応が可能であったこともあって,各種学校・専門学校は公的職業資格の養成施設として本格的に認定されるようになったのである。また,養成施設としての認定により,各種学校・専門学校資格教育は他の専門学校とは異なる制度的な位置づけを獲得し,独自の発展を遂げてきたことも明らかになった。

第1が専門学校資格教育の視点による専門学校の分類の必要性である。従来,専門学校に関する研究では,専門学校全体をまとめて対象とする傾向が強かった。そのため,歴史的展開や教育内容,進学者の意識,労働市場における評価などの検討においても,それらの複雑な状態を理論的・構造的に解明することはできていなかった。また,専門学校が「資格」に関する教育を行っていることに注目している研究もあるが,「資格」の認識が不十分なために公的職業資格という視点を打ち出せず,検討が不十分に終わったもの,もしくは公的職業資格に注目できても,「養成施設」とそれ以外の区別を行えなかったものがほとんどであった。

第2に公的職業資格と教育との関係の問題点である。本稿で論じてきたように,公的職業資格制度自体に制度理念は欠如しており,したがって資格教育の制度理念も確立されていない。公的職業資格の取得方法が多様であったり,養成施設指定制度の規定などが不統一であるのも,こうした制度理念の欠如が背景にあるといえる。

自分にとっての学び

職業資格制度と専門学校を複合的に分析するという視点は新鮮でした。確かによく考えると、専門学校と職業資格は切っても切り離せない関係にあると思います。
専門学校に進学する学生の視点でも、「職業資格を取得するために必ず進学しなくてはいけない専門学校」と認識している学生もいれば、「資格は不要な職業だが進学する専門学校」と考えている学生もいるかもしれません。各種調査についても、資格制度に基づく分類を意識して読み解かないと、誤った解釈をしてしまう恐れがあると感じました。
また、専門学校には効率的に資格取得を支援するという側面だけでなく、学習現場の実態を資格制度にフィードバックする役割もあると思います。教育機関、職業現場、資格運営機関が密に連携し、全体をデザインしていくことが重要であり、立場を超えた協働が求められると感じました。

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