読書メモ:リカレント教育の経済への影響(田中, 2020)

最近、ある方と「リカレント教育」「リスキリング」について議論しました。成人教育という意味では、私が経営しているスポーツスクールと共通する部分もあり、とても興味深い議論ができました。
「リカレント教育」「リスキリング」などのキーワードはよく耳にしますが、どのような定義をされているのか、どのような研究が積み重ねられているのかは知りませんでした。そこで、全体像が掴めるような論文を読んでみました。

読んだ文献

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/08/pdf/051-062.pdf

要約

この論文は、リカレント教育が日本の経済に与える影響について考察したものです。
著者は、少子高齢化や技術革新など、日本の経済環境の変化を背景に、リカレント教育の必要性を強調しています。
特に、従来の学校教育との関係性に着目し、リカレント教育が労働者の雇用・所得、人的資本の蓄積、そして経済成長にどのように影響するかを分析しています。さらに、リカレント教育に対する労働者のニーズを、従来の学校教育水準に基づいて補完的なケースと代替的なケースに分類し、それぞれの場合における経済への影響を詳細に検討しています。

特に関心を持った箇所

リカレント教育とは,1970年代初頭にOECDが提唱した概念であり,学校教育を終えて社会に出た後,個人のニーズに合わせて再び教育を受ける,循環・反復型の一種の生涯教育(lifelong learning)を意味する。

ただし,OECDが注目しているリカレント教育と日本で議論されているリカレント教育のタイプが異なることには注意が必要である。OECDの報告書がリカレント教育を過去に十分な教育を受けられなかった労働者に対する教育機会の提供として位置づけている一方,日本では,むしろ高度人材の育成に重点が置かれている。

従来の学校教育と補完的なリカレント教育については,一般に,リカレント教育が雇用,所得,人的資本,経済成長にプラスの影響をもたらす。しかし,代替的なケースについては,リカレント教育を必要としている層について有効であるという研究がある一方で,有意な効果が見られなかったとする研究も存在し,必ずしも明確なプラスの影響が見出されているとはいえないことが明らかとなった。

自分にとっての学び

「リカレント教育」と一口に言っても、その目的、対象者、学ぶ内容によって求められる形は大きく変わると感じました。キーワードだけで議論を進めると、互いの想像している内容が異なり、空中戦になってしまいかねません。
今回の論文で提示されていた「労働者のニーズと教育水準によるセグメンテーション」は、「リカレント教育」を議論する上で有効な視点だと思います。日本の労働市場において人手不足が深刻化する中、企業単位で戦略的に「リカレント教育」や「リスキリング」を推進する必要が高まっています。その際、総花的で焦点の定まらない取り組みとならないよう、セグメンテーションとターゲティングを意識することが重要だと学びました。

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