きっとまた、わたしは彼のことを愛してしまうのだと思う。
きっとまた彼がわたしに声をかけてきたら、
わたしは彼のことを愛してしまうのだと思う。
彼の心はわたしにそっと吸い付く。
彼の気持ちは、ぴったりとわたしに吸い付き
わたしはそれが手に取るようにわかる。
そしてそれはわたしにとってものすごく気持ちの良い行為であった。
だから、彼のことを責めようとは思わない。
彼がわたしにただ嘘をついて近づこうと、していただけではないこと。
彼の中でも葛藤があり
彼の中でも整理をつけられず、
だからと言ってそれを伝え、関係がなくなることが怖かった。
彼は、はぐらかすことを選んだ。
彼は、遠い故郷に妻がいることをわたしに伝えなかった、妻がこちらに住むと決め、サプライズでやってきたことを知るまでは。
どちらにしても、私たちは関係が浅かった。
一緒に過ごした日々は短く、
お互いをよく知り、深めていくまでには至らなかった。
ただ、単純に、一緒にいることが心地よかった。
私たちは、一緒の屋根の下に同僚たちと住み、一緒に働いていた。
だから、期間は短くても、仕事中の様子も、家で一緒に過ごす時間もあり、お互いが他の人たちとどのように関係しているのかも、よく見ることができた。だから、完全に関係が浅かったとは言えなかった。
ただ、お互いの背景はあまり知らなかった。
それよりも、今一緒に仕事していて楽しいことがすべてだった。
わたしは、彼の単純なことで一人で笑いだすところがたまらなく好きだった。
そして、彼からわたしを誘ってくることはなかった。
ただし、わたしがお願いすることに対して、彼はいつもオッケーしてくれた。
彼が同意し難いことをわたしが言えば、彼の意見を最初は強く言うものの、
わたしがしたいといえば、いつもそれをそのまま受け入れてやらせてくれた。
彼にとってわたしは天使だった。
かまいたくなるような、可愛らしい存在であり、そっと彼に入り込んでくるような柔らかな羽毛であった。
最初に、彼がわたしに連絡をしなくなったのは、
彼が別の店舗で働き始めた後だった。
彼の友達とわたしが一緒に過ごしているところを見て、
彼は一度、完全にわたしから手を引いた。
わたしは、とても戸惑ったが、連絡先を削除されたため、
彼の意見を尊重した。
ただし、彼が、気持ちの整理をつける以前に、
無理やりしたことだから、また連絡してくる気がわたしには最初からあった。
彼は、わたしが好きだった。
わたしが、声をかければ、どうしても気持ちが緩んでしまう。
そして、わたしは、チェン・・・その彼のことがものすごく好きだった。
チェンは、わたしにとってとても面白い存在だった。
こんな父ちゃんだったら面白かったな。そう思う。
文句も言わずによく働く。
そして、周りからも信頼されてる。
人を責めることはなく、どちらかというと静かにしていることが多かった。
そして、単純なことで本当によく笑う。
背丈が比較的高く、ひょろりとしている無駄のない見た目も、わたしの好みだった。
顔が不細工なことは、この際忘れてしまっていた。
一緒にいて楽しかったから、顔のことはあまり気にならなかった。
気になり出したら、すぐにアウト。・・・という不細工さだった。
また、彼と一緒にいるときの周囲の反応はあまりよくなかった。
チェンは人に対してあまり明るくない。
気にしていない、全く。
そのため、人からもよくつっかかられる。
わたしと一緒にいて、少ない一緒にいる時間でも最低でも2度そういうことがあった。
あまりフレンドリーでない言葉をかけられる。
だから、わたしは彼と一緒にどこかに行くことはそこまで好きではなかった。
彼はあまり気が利かないのだ。
彼の手は大きくて、骨ばっていた。
わたしはその手が好きだった。
仕事をしているときの彼の手を見ているのもとても好きだった。
彼はとても真剣で、わたしがいてもいなくても表情や仕草にそれを全く出さない。
完全にオフのときでないと見せないくだけた笑顔を何度か見られるとき
わたしはとても美しいものを見たように
その笑顔をじっと見つめた。
まるで時間が止まったかのように、
その時間を隅々まで覚えていられるように
わたしは集中して、彼を見ていた。
*
彼のことが、今でも理解できない。
でも、理解したことは、今のわたしにできることはなにもない
ということだ。
そして、わたしは、わたしにできることは全てやりきった。
そして、わたしは、妻のあるものには近づかない。
たとえ、自分が傷つこうとも。
いくら自分が傷つこうとも、無垢な外野の人を自分の荒れた問題に引っ張り込むことはわたしにはできない。
いくらも、それはわたしの入れる領域ではない。
それは、わたしの問題でもない。
それは、相手がまず整理して、相手自身でけじめをつけて、相手が行動すること。
それだけの相手の行動や意思がなければ、相手が動く気がないのであれば、
わたしには
どうすることもできない。
したくても。
とてつもなく、何かしたくても。
いくら変えようとしても、わたしはわたしの気持ちを伝えた・
彼はわたしではないからわたしの気持ちや行動通りには動かない
それもわかってる
動いて欲しい
行動して示して欲しい
だけど、そんなにこちらが望む通りに動いてくれることはない
わたしは、そこまで彼を愛していなかった。
のだろうか・
となんども頭をよぎった。
確かに、わたしは彼のことを本気では愛していなかった。
なぜなら、一緒にいるときも、飽きたりしていた。
そんな自分を知ってたから、彼と会わなくていいなら
それもいいや、と思ったのだろう。
でも、彼といるのは楽だった
でも、恋愛するといつも疲れた。
わたしはどうしてもすぐに恋愛ごっこをしてしまう
そうなると、わたしはいつもすぐに飽きてしまった。
少しずつ、恋愛ごっこから抜けてきてはいる。
セックスするときも、無理にお互いを盛り上げようとしたりもしないし
男の人と一緒にいても気が向かないときは力を抜く。
そういうことができるようになってきたのも、
毎回学ぶことであり、
こんなに次に移るたびにわたしが成長していく姿を見るのであれば
すべては無駄ではなかったのだろうと思う。
日本で育ち、思春期は単身海外で過ごし、独特な感覚を持っています。日本で2年社会経験を積んだのち、現在はアイルランドの小さな街で生きています。