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白檀の香り
ある晩、本棚の奥から取り出した古い写真アルバムを整理していると、
ふと懐かしい香りが立ち上ってきた。
それは幼いころに何度か訪れた祖父母の家の匂いだった。
匂いは記憶と深く結びつくというが,
父と祖父の折り合いがあまりよくなかったため,数度訪れただけの祖父母の家の匂いを自分が認識できることを意外に思った。
白檀のようなその香りは祖母を思い起こさせた。
たまにしか訪れない孫であったにもかかわらず,祖母は私を溺愛しており,
いつ着るともわからない着物やアクセサリーを買っては
よく実家に送ってきていた。
そんな祖母も何年も前に亡くなり,
区画整理により家も今は存在しないにもかかわらず
アルバムから立ち上った家の香りの鮮明さに戸惑った。
まるで祖母の家を久しぶりに訪れたかのようだった。
数週間後,母から私宛の荷物が届いているとの連絡をうけ
実家に戻ったところ,古びた小さな箱が届いていた。
叔母が祖母から預かったものの,
保管してそのまま忘れていたという私宛の荷物であった。
箱を開けるとふわりと白檀の香りが立ち上る。
あのときのあの香りは
やはりなつかしい祖母の香りであった。