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水面

 通り過ぎていった一凪の風が、水面を揺らし波紋を生み出す。その様を、唯じっと見ていた。何か心が動いたわけでもない。そもそも、動く心など自身にまだあるのかすら疑わしい。そんなもの、とうの昔にわからなくなってしまった。

 けれど、目を離すことが出来なかった。

 底の見えないその水は、揺れ動き模様を作る。その内面奥深くを闇で覆い隠す代わりに、風による揺らぎを通して自らを伝える。取り繕いか?否、彼らはそんなことはしない。あるがままを示し、焼き付けるのだ。

 ―俺なんかとは違う。

 空を見上げると、曇天。その向こう側の色は、見えない。その先に光があるなど、信じることは出来ない。暗い。足下も、頭上も、全てが。だというのに、中途半端だ。だってそうだろう?この目に映る景色を認識できるならば、闇とは言わない。けれども見ての通り、ここから光を見いだすことは出来ない。

 光でも闇でもない。そんな場所に唯一人で立ち尽くしていた。誰のことも、見つけられないまま。誰にも気付かれぬまま。

水面は唯、そんな虚な俺の姿を映し出していた。

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