地域まちづくりのリアル 〜創業1年のよそ者はどう地域事業者・行政を巻込み助成金1億を獲ったか〜
こんにちは。「地域からハッピーシナリオを共に」 NEWLOCALの石田遼です。NEWLOCALは人口減少社会における持続可能な地域モデルの実現を目指すまちづくり会社です。
先日、「地域まちづくりファイナンスのリアル ~資本金100万円、創業1年のまちづくり会社はどう3億円の資金調達をしたのか~」という記事を公開し大変嬉しいことに予想外の反響をいただきました。
この度、NEWLOCALの関係会社である「男鹿まち企画」で、融資・助成金合わせて2億円の資金調達が完了しました。
今回も資本金100万円、創業1年のまちづくり会社で2億円の資金調達、ということで以前とほぼ同じ条件で2度目の調達ができたことになります。これで「このアプローチには一定の再現性がある」ということができるでしょう。
男鹿についても前回の記事で書いた「資金調達に必要なもの4つ」は全て該当し、真っ当なアプローチが結局一番近道、ということを再確認しました。
続編として男鹿の資金調達のプロセスを書こうと思っていたのですが、野沢温泉と重なる部分が多いため、この記事では焦点を変え野沢温泉でも使った観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」 (以下、高付加価値化事業)の申請・採択の部分にフォーカスします。
この助成金は地域事業者・金融機関・行政が連携し地域一体で申請するものなのですが、男鹿では我々が言い出しっぺとなって地域事業者や役場に声をかけて申請、採択までこぎつけました。
野沢温泉ではすでに村全体で旅館が連携して出す座組ができており、私たちは一事業者として参加しただけでした。男鹿では地域計画を役場の方と連携して私たち自身が書くなどかなり違う動き方をしました。
男鹿の高付加価値化事業は野沢温泉よりも、ドラマチックで、大変で、学びが多かったのです。(一方、男鹿は現地パートナーのおかげでその後の金融機関とのやりとりは野沢温泉よりもずっとスムーズでした。)
高付加価値化事業の申請・採択プロセスは私にとって、「地域でよそ者がどうやって地域事業者や役場の方達を巻き込み、目標達成に向かって動き、成果をあげるか」というケーススタディーとして大変勉強になるものでした。
この学びは助成金に限らず、地域で活動される皆さんが多くの局面で役に立つものだと思います。
前回同様、なるべくリアルな状況が見えるよう赤裸々に書いてまります。
それでは早速始めていきましょう!
結論:地域事業者・行政の巻き込みで大切なこと
今回も結論から入ります。
地域事業者・行政の巻き込みで大切なことはこちらです。
A.信頼を勝ち取る - 人間として、仕事仲間として、リーダーとして
①「悪いやつじゃなさそう」と思ってもらう
②「がんばってるやつ」と思ってもらう
③「ちゃんと仕事もできるやつ」と思ってもらう
B.分け前と役割を明確にする - 自分が関わる意味
④「こいつとやるといいこと/楽しいことがありそう」と思ってもらう
⑤「自分が何をすればいいかわかる」と思ってもらう
C.勝負所でベットする - 難局でこそリーダーシップを
⑥ 「こいつ、すごいかも」と思ってもらう
D. 行政向け:公益性・公平性を担保する
⑦ 「これなら説明できる」と思ってもらう
ケーススタディーを通じて具体的に見ていきます。
概要:資本金100万円 創業1年で2億円調達 & 事業者11社・行政を巻き込み助成金獲得
株式会社男鹿まち企画は株式会社NEWLOCALと株式会社稲とアガベの合弁で2023年3月に設立したまちづくり会社です。
日本各地でまちづくりを仕掛けるNEWLOCALと、男鹿でクラフトサケをつくる稲とアガベが互いの知見を融合する形で設立しました。NEWLOCALは2022年7月創業、稲とアガベは2021年3月創業、共にまだまだ若い会社です。
男鹿まち企画は男鹿駅前を中心に宿や飲食店の開発を計画しており、初期投資2億円ほどの調達を2024年2月に終えました。年内にホテルと蒸留所をオープン予定です。
この資金調達に高付加価値化事業を活用しています。私たちが発起人となり事業者11社・行政と共に申請。二度の不採択の後、三度目で採択されました。
高付加価値化事業とは観光やまちづくりの領域では知られている助成金で、地域一体で申請し、宿や観光施設の改修費が最大1/2助成されるというものです。今年は令和5・6年が一括で募集されたこともあり第三回公募までに全部で200弱の地域が採択、その数倍が応募しています。
経緯:二度の敗北と背水の勝利
1年間の出来事をタイムラインに沿って見ていきます。
男鹿まち企画創業:2022年9月-2023年2月
NEWLOCALを設立して間もない2022年9月末、丸の内で行われた日本酒のイベントで稲とアガベの岡住さんと出会いました。引き合わせてくれたのは起業家・ベンチャー投資家の私の妻。別のイベントで岡住さんと会い、男鹿の未来を熱く語る彼を見て私と合うと直感したそうです。稲とアガベのクラフトサケの鮮烈な美味しさと岡住さんの持つ熱量に圧倒されてその場で男鹿に行くことを約束しました。
10月、男鹿を訪問。寒風山や鵜崎海岸などの大自然、稲とアガベの醸造所やレストランのクオリティーと圧倒的なスピード感、何より岡住修兵という男のデカさに感動し、迷わずここをNEWLOCALの二拠点目にしたいと思いました。
11月、男鹿を再訪問。行政の資料などを読み込んだ上で自分の足で男鹿を見て周り地域のポテンシャルと課題を体と頭で理解しました。そして、活用しうる候補物件を見学し具体的な事業の検討をしました。
12月、稲とアガベとNEWLOCALで合弁会社をつくること、男鹿に酒と食を軸に関係人口を呼び込む拠点をつくる事業を行っていくこと、はじめの物件のラフプランを提案、岡住さんの合意を得ました。
会話や意思決定のスピード感が同じでガンガン物事が進んでいく気持ちよさがありました。2023年2月、男鹿市で行ったまちづくりイベントで合弁会社の設立を発表、登記は3/22 の「男鹿の日」にしました。代表は岡住修兵さん、取締役は私と稲とアガベCFOの齋藤翔太さんです。
今回書いていることはこの三人で進めました。簡単に紹介をします。
岡住修兵さん:稲とアガベ 代表 / 男鹿まち企画 代表。稲とアガベのファンは彼のつくったお酒と彼自身のファンで、とにかくビジョンを描く力と人を惹きつけ巻き込む力が凄まじいです。かくいう私もそんなファンの一人です。地域での彼の信頼と期待は絶大で今回役場・事業者を巻き込めたのも彼の信頼によるものです。
齋藤翔太さん:稲とアガベ CFO / 男鹿まち企画 取締役。岡住さんの右腕で実務能力と調整能力が異常に高い、攻めるCFO。公庫出身でファイナンスはもちろん強いのですが、仕事はCFOの役割を大きくはみ出していて、COO、CFO、社長室長、管理部長 あたりを全て兼任しています。彼と会った経営者はみんな「うちも齋藤さんみたいな人が欲しい」と口を揃えていうとか。地域事業者・役場・金融機関の調整も全て彼がやってくれたおかげで私は地域計画に集中できました。
なお、二人のnoteもめちゃくちゃ面白いのでぜひご覧ください。
男鹿についても少し紹介しておきます。秋田県男鹿市は三方を囲む海と寒風山を抱く美しい半島で、市のほぼ全域が国立公園です。世界遺産のナマハゲや、しょっつる、はたはたなどの食文化も有名です。
しかし、毎年-2-3%程度という急激な人口減少に直面し、2040年には人口が半減すると言われています。
そんな中、2021年に稲とアガベが設立。旧駅舎の醸造所を核にまちづくりを展開し、新しい機運と人の流れが生まれています。稲とアガベで男鹿を知り多くの酒・食好きの人や関係者が訪れているのですが、まちに見どころとなる場所が少なく(駅前に宿すらない)、十分にこの機運をいかせていませんでした。
男鹿の持つポテンシャルと新しい機運を活かし人口減少に抗う明るい未来を掴むため、日本各地でまちづくりを行うNEWLOCALは稲とアガベと合弁会社を設立。 酒と食を基軸にしたまちづくりを進め、新しい層を男鹿に呼び込むシンボルとなる場所、男鹿への関わり代を見つける入り口となる拠点をつくっています。年内に宿と蒸留所がオープン予定です。
初戦 -短期間でのチーム組成:2023年1-5月
野沢温泉で高付加価値化事業の話を聞いていた私は、これは男鹿でも使えると思い早速申請の準備を開始しました。こういう助成金の常として応募要項が発表されてから締め切りまでの期間が短く、事前に用意をしていないと応募はほぼ無理です。そのため前年の要項を読み込み準備を始めました。
高付加価値化事業の特徴として「5社以上の地域事業者が連携し地域として申請すること」があります。さらに、事業者として宿泊事業者が入っていることが重要です。地域全体の課題やコンセプトを書く「地域計画」と各事業者ごとの「個別事業計画」の提出が必要です。早速、岡住さん・齋藤さんを通じて役場・金融機関・事業者へのヒアリング・声かけを開始しました。男鹿の別のエリアで前年度に助成金の採択をされていたこともあり、役場をはじめ地域にこの助成金への理解があったのは幸いでした。役場、金融機関については比較的早い段階で「事業者が集まれば申請しよう」という状態にこぎつけることができました。
ネックだったのは事業者です。男鹿駅前にはそもそも宿がないのです。宿や観光施設が駅前にないからこそ男鹿まち企画をつくったのですが、採択されるには事業者が必要。男鹿市全体で見てもめぼしい宿泊事業者は昨年の予算で概ね改修を終えてしまっています。いきなりのハードル、とにかく事業者を探さなければなりません。
地域事業者の取りまとめをしながら、私たち自身も一参画事業者として事業計画自体を進める必要がありました。不動産事業につきものの、オーナー・金融機関・建築家・施工会社のジャグリングをしつつ(詳しくは前回のnote参照)、地域全体のコンセプトも考えていく必要がありました。さらに個人的には野沢温泉での申請も重なっており2023年初をどう乗り越えたのか今でもわかりません笑
そんな中、2/15に事業実施がアナウンスされ、3/1に公募要項が公開、4/13が〆切でした。1ヶ月半で全てを取りまとめる必要があります。役場の動きは流石に早く、3/6には事業者を集めた説明会が開かれました。
私たちはそこに合わせて勝手に地域計画の叩きを作成しました。時間が限られている中でインパクトある提案をしなければならないことと言い出しっぺとしての責任を考えると、役場に丸投げするのではなく事業者目線で実現したい地域のあり方を提示した上で役場に調整をしていただく方が良いアウトプットになると考えました。結果的にこの資料作成を通して男鹿への理解度が格段に高まり、地域全体の計画についてもお仕着せでなく自分ごとで納得のいくものを出すことができました。この後1ヶ月半、役場の方や事業者の方とワンチームで地域計画の作成と事業者集めを進めました。こういう時にタイトな締切は役に立ちます。通常であれば「一事業者がどういう権限で地域計画を作るのか」「一部の事業者が地域計画に口出しするのは不公平でないか」といった声が上がっても良さそうですが、みんな自分の仕事に必死でそんな余裕もなかったのでしょう笑 私たちの叩きを活用して役場の方が地域計画を仕上げていただきました。参画事業者については役場とともに各事業者からも周りに声をかけていただきました。
4/13に一度提出した上で伴走支援者という地域計画・事業計画の質を高めるサポーター(コンサルティング会社などが受託)のアドバイスの上、提案をブラッシュアップしました。実は野沢温泉ではこの伴走支援者の方がスパルタでめっちゃダメ出しされたのですがそのおかげでだいぶ提案の質が高まりました。一方で男鹿の方は、かなりマイルドなフィードバックのみ。一抹の不安を覚えながら4月末に提出を終えました。なんとか事業者数は規定をオーバーすることができました。
事業者数はもう少し充実したいという気持ちもありつつも、このメンバー・期間での提案書としてはやるだけのことはやった、というものを提出しました。役場の方の実務能力と事業者の本気度が印象に残りました。結果発表は5月末予定。宙ぶらりんの気持ちで建物のプラニングは進めていました。採択された昨年よりも質の高い提案書になっている、といった言葉も聞こえ正直我々含め全員「おそらく採択されるだろう」という気持ちでいました。
そして、運命の結果発表… 結果はまさかの不採択(同じタイミングで野沢温泉は採択。私としては嬉しさ半分、悔しさ半分でしたが、男鹿のことを考えると喜ぶことはできませんでした)。 ここから長い戦いが始まりました。
二戦目 - 予想された敗北 :2023年6-8月
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