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熱海殺人事件2025

友人の娘さんが、役者になったのだという。新国立劇場演劇研修所を修了したとのこと。立派だ。仲間と共に劇団を立ち上げ、この度、旗揚げ公演を行うのだそうだ。素晴らしい。そして、旗揚げ公演の演目が、つかこうへい『熱海殺人事件』。うおお。

私は、演劇好きを自称できるほどではないが、つかこうへい好きは自信を持って言える。一番好きな作家はつかこうへいであり、一番好きな映画は『蒲田行進曲』だ。

つかこうへいが死んでから、15年が経とうとしている。この国は変わった。昭和気質はブラックと蔑まれ、コンプライアンスが叫ばれ、MeeTooからいくつかの告発を経て、「ホワイト革命」は成就した。いま、パワハラとセクハラを煎じ詰めたようなつかこうへいが生きていたなら、さぞ肩身の狭い思いをしていただろう。

「歌は世につれ世は歌につれ」と言うが、演劇もまた、時代の波に乗らねばならない。しかし、時代の波に乗ることは、アンチつかこうへいと言える。そう、つかスピリッツを体現したいなら、時代を作る気概で取り組まなければならない。『熱海殺人事件』は難しい台本だ。しかし台本の完コピを目指すこともまた、アンチつかこうへいと言える。時代をぶった斬るべく、このくらいの台詞は加えて欲しい。

木村伝兵衛「それで、キミは誰かね?」
斎藤元彦「申し遅れました。兵庫県警から本日付けで赴任となりました、斎藤元彦であります」
木村「兵庫の斎藤?はて、どこかで聞いた名だが」
斎藤「はい。本当に、たまたま、偶然にも、兵庫県知事と同じ名前であります」
木村「偶然だと?」
斎藤「はい。本当に、たまたま、偶然にも、同姓同名であります」
木村「ふざけたこと言ってんじゃねえ。偶然とかたまたまとか、どうしてそんな他人事のようなこと言ってられるんだ」
斎藤「しかし…」
木村「しかしもへったくれもねぇ。自分の名前にくらい責任を持ったらどうだ。お前のせいで、一体何人が死んだと思ってんだ」
斎藤「申し訳ありません」
木村「思い出せ斎藤、志半ばに倒れていった百条委員会のメンバーの顔を。思い出せ斎藤、己の街の未来をお前に託した550万兵庫県民の顔を。そしてなにより、「立派な男になれ」と言い遺して死んでいったお袋さんの顔を思い出せ」
斎藤「しかし」
木村「しかしじゃない」
斎藤「しかし、ワタクシの母はまだ、生きております」
木村「あ、そう」

オレ作『熱海殺人事件2025』より

もっとも、こんな台詞は実際には難しいだろう。そしてなにより、つかこうへい自身も、その生涯の後半は、時代を斬ることなどとうにできなくなっていた。女優に卑猥な台詞を叫ばせることで、世の中のタブーを破ったかのように取り繕ってはいたが、ハッキリ言って、晩年のつかこうへいは、まったくおもしろくなかった。つかこうへいだけではない。誰もが、時代の波に飲み込まれたのだ。

そんな中、SNSのタイムラインに流れてきた切り抜き動画を見て、ぶったまげる。

フジテレビ「爆笑ヒットパレード2025」生放送、爆笑問題。
太田は言いました「フジテレビは潰れます」。太田は言いました「今年が正念場」だと。太田は言いました「新番組のタイトル『だれかとだれか』」。太田は言いました「日枝ぁ、日枝出てこい」と。
日枝って、あの日枝ですよ。
つかさん、いま、義理と人情、自由と正義は、漫才師風情がやっております。
つかさん、ぼく、悔しいです。


※友人の娘さんの舞台は、4月4日からとのこと。まだ見ぬまま、これを書きました。舞台は観に行くつもりです。

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