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「Respect!」#5 Hue Rain ブロ彩子

刺繍ブランドRyme et Flow.の松澤葉子です。
Noteでのコラムの不定期連載として、様々なジャンルで活躍されているクリエイターとの対談・インタビューを載せていきます。

第5回は、糸編みアクセサリー作家のブロ彩子さん。
ご自身のブランド「Hue Rain」のこと、ものづくりと今にいたるまで、そしてこれからの興味深いお話をいただきました。


ものづくりと生活の場所

ブランドと、それまでの経験

YM:ISETAN手藝(2024年8月)でご一緒できて、ご縁が繋がれまして嬉しいです。

ブロ彩子:こちらこそです!

YM:「Hue Rain」のブランドについてお聞かせいただけますか。

彩子:糸を編んで、アクセサリーを仕立てて販売しています。オリジナルの素材であるワイルドシルクの糸作りから自社でおこなっていて、主にかぎ針編みという手法を使って作品を作っています。

YM:ブランドを始めてから何年目でしょうか。

彩子:2016年ですね。その時はドリームキャッチャーを作っていました。自然素材だけで作って、販売していたのが始まりです。

YM:ものづくりを始めたきっかけは何かありますか。

彩子:昔は絵を描いていたんです。小さい頃から手芸も大好きだったんですが、絵描きやデザイン制作を続けていて。
最初に個展を開いたのも絵です。「色彩の雨」がテーマで、本当に世界に色彩の雨がさっと降っていて、祝福されているような、世界に力を与えるような景色が見えた瞬間があって、それを形にしたいと思って絵を描いていました。

初めての作品展示と販売

彩子:東日本大震災があった時に、チャリティー展に応募して出展しました。審査が通って飾られて、お客様に買ってもらえてという経験が、物を作って販売し、ひとに届けるという第一歩でした。

YM:買ってもらう、という初めての経験だったのですね。

彩子:はい、もうすっごい怖かった!恐怖でした。

YM:嬉しさより恐怖だったんですね(笑)でもわかります。

彩子:でしたね。応募しておいてなんですが、作品を世に出すって恐怖でした。なんで応募したんだろうって会場へ行くのも嫌で、現実を見るのが怖くて、半泣きで会場へ行きました。
そしたら展示した作品2点のうち、1点はすでに売れていて。うわあと思って立ち尽くしていたら、ある女性が声をかけてくださって。
「これはあなたが描いたの?じゃあこちらの絵を私はいただくわ」って。
本当に言葉が出なくて、涙がバーッと溢れてしまって。そうしているとその方が手を握ってくださって、「何も言わなくても伝わるわ」って。
その方は仙台から来てくださったんです。仙台も大きな被害があったから、その場所からここに来て、この絵を買ってくださるっていう、力、エネルギーや色んな思いを想像しまして。本当に衝撃で、自分にとっても大きな原動力になりました。
これからもこういう活動をしていきたい、と思うターニングポイントでしたね。

個展開催から島での生活へ

YM:それから絵を描き続けて。

彩子:はい、その展示をきっかけに繋がって個展を開いたんですが、その時はまだ自分の思いやメッセージがちゃんと固まっていなくて、土台ができていない状態で。それで今度は個展の後にいただく声、賞賛やダメ出しもあったり。色んな反応を受け止めきれなくて、急にもう嫌だ、逃げたいとなっちゃって。

YM:それは最初の販売からどれくらい経ったころですか。

彩子:2か月後です、すぐだったんですよ。とんとん拍子の勢いで進んでしまって。今となってはいい経験でしたけどね。
それで逃げ出した先が利尻島です。

YM:それまでは地元の鳥取や、東京にお住まいで。そして利尻島に移られてからも、制作はされていたんですね。

彩子:震災が起きた年は東京に住んでいました。東京の人の目から逃げ出した後に、いろんな各地の文化や人に触れて、自分はどんなものを表現して作っていきたいんだろうって、ゆっくり模索していった感じです。

旅の生活、タイ移住と「Hue Rain」スタート

YM:絵描きなどの制作から、アクセサリーブランド「Hue Rain」として固まったのは、タイに行ってからでしょうか。
※(利尻島のあと日本の諸島やハワイを経て、2015年よりタイ北部に移住)

彩子:そうですね、それまではリメイクやキャンドルなどいろんなものを作っていたんですが、旅をする中で、かぎ針編みが自分の旅のスタイルやライフスタイルにすごく合っていて。荷物が少なくて、糸と針さえあれば、どんな場所でも、長距離バスや海辺でもできるという。

YM:きっと今までの旅の経験が、アクセサリー制作に直に活きている感じですよね。

彩子:ほんとにその通りです。ドリームキャッチャーを作ったきっかけは、アリゾナのグランドキャニオンに行ったときに現地のものを見て、すごくスピリットの籠った、装飾品を超えたものだったので衝撃を受けまして。
私も自分なりにそういった魂を込めた、装飾品にとどまらないものを作りたいという思いがありました。
アジアを回りながら素材や作風を考えて、タイでよく使う竹の素材や、タッセルも現地の民族の文化ですし、そういうアイデアを旅をしながら集めていった感じです。
点と点をつなぎ合わせるように、自分の形を模索していきました。

タイでのドリームキャッチャー制作

あたらしい日々に寄り添うアクセサリー

YM:ドリームキャッチャーって魔除け、お守りですよね。アクセサリーは、それがすごく小さくなったものを身に着けるという感覚でしょうか。

彩子:おっしゃる通りです。最初はドリームキャッチャーだけで始めたんですが、部屋に飾るだけよりも、身に着けるお守りのようなものができたらいいなと思って。人間、外に出て活動する時間も長いですから、生活に寄り添うお守り、心に響くものを作りたくて、段々とアクセサリーを作るようになっていきました。

イタリアでの生活と制作

YM:今は鳥取にお住まいですが、その前はイタリアに住んでいらしたんですね。イタリアの生活はどうでしたか。

彩子:イタリア生活はめっちゃコロナでした(笑)
タイから日本に帰ってきて、イタリア人の夫と出会って、2020年からイタリアに2年間いたんです。行ってすぐぐらいにコロナが蔓延して、ロックダウンになって外出もできないし。

YM:イタリアといえど、日々家の中で過ごして、制作されたりとか。

彩子:そうですね。その時に制作に向き合う時間がすごくとれたんです。イタリアに行ったからには、良い景色を皆に届けないと、楽しまないとってプレッシャーがあったんですが、そういうのからも解き放たれて。思う存分引き籠っていいんだって。

YM:じゃあ、まんざらでもない日々でしたか。

彩子:うん、ジレンマもありつつ制作に集中できて。コロナのおかげで、隔離期間やロックダウンで人との距離ができた。そして遠くの人のことをより考えたときに生まれたのが、鳥の耳飾りです。
思いはいつも自由で、どこまでも飛んでいけるっていう気持ちを込めていて、それが沢山の方の目に留まって、「Hue Rain」が広まったきっかけになりました。

「Hue Rain」について

デザインと素材、ワイルドシルクとの出会い

YM:鳥の耳飾りはイタリアで生まれたんですね。

彩子:今販売しているデザインは、ほとんど全てイタリアで生まれたものです。

YM:現在の「Hue Rain」はジュエリーとしてデザインが洗練されていますが、イタリアの前、タイにお住まいの頃はもっと民族的でしたか。

彩子:そうなんですよ。タイに住んでいたころに作っていたドリームキャッチャーは現地で作られるヘンプの糸を使っていました。

zoom画面越しに。

YM:大きいですね!

彩子:そうそう、結構これよりも大きいのも作っていましたね。
アクセサリーもこの糸で、タッセルの耳飾りなど作っていたんですが、この素材は小さなアトリエで手作りで作られるもので、手がかかるうえに販売が難しい。そして販売停止になってしまって、そこから改めて、人肌にも合う糸を探した時にワイルドシルクというものを知ったのが今の素材の始まりです。

YM:ワイルドシルクについて、どんな素材でしょうか。

彩子:今までシルクは艶々できれいなものっていうイメージでしたが、ワイルドシルクを初めて手にしたときにすごく野性味があって、生き物だなって感じたんですね。美しさや艶もありつつ強度もあって、ちょっと麻に似たような。

YM:じゃあ、素材にすごくこだわりをお持ちなんですね。

彩子:そうですね、どんなに手を加えても、作品は素材が9割決めると思っています。

オリジナル製造のワイルドシルク

鳥の絵とモチーフ

YM:「Hue Rain」のブランドロゴや箱にも鳥の絵が描いてある通り、やっぱり鳥がお好きなんでしょうか。

彩子:鳥は好きですね。生き物が好きで、鳥は自由の象徴や希望というか。かぎ針編みの手仕事って、右手と左手で、糸と針を持ってきゅっと引いたり動かしたりする。この手の動く姿が、鳥が遊んでいるように見えて、この景色をロゴマークにしました。

YM:確かに似ているかもしれません、鳥がご飯を食べている時のようです!

彩子:ご飯ですか!わかんなかった(笑)

ものづくりと世界

楽しいこと、大変なこと、大事に思うこと

YM:ものづくりをする上で、楽しいと思う瞬間はありますか。

彩子:やっぱりお客様とやり取りできること。自分の表現を受け入れてもらえて、気持ちを返してもらえて、それが循環する。本当に生き甲斐だなと思っています。

YM:そうですよね、人と作品を介して繋がれるっていうのは素敵ですね。逆に大変なことって何でしょうか。

彩子:好きな作業だけしていけたらいいですけど、仕事として利益を考えたり、事務作業や苦手なこともしていかないといけないので(笑)つらいところですよね。
どんなに思いがある素敵なものでも、継続しなければ消えてしまう。
タイの手紡ぎ手染めの麻糸が生産停止になってしまったことや、最初は仕入していたワイルドシルク糸の流通が激減したことで、オリジナル糸の製造を選んだ経験から感じています。

YM:すごくわかります。ブランドとして一番大事にしている事ってなんでしょうか。

彩子:手仕事ってすごく想いやエネルギーがこもるから、それを渡すうえで、人にも自分にも心地よいもの、本質的なものを作りたいと思っています。表面だけの美しさとか、生活のための利益だけじゃなく。
社会や人の為、自分の為にもなるものを目指しています。そんなかっこいいこと言って、たいしたことはできていないんですけど。。

YM:作品は手からのエネルギーが入っていきますよね。とてもわかります。

押し花をつくってラッピングに加える
これも手作業でひとつひとつ行なっている

目指すこと、理想の形


YM:今後目指している事や理想形はありますか。

彩子:漠然としているんですが、自分一人でできることは限られているので、もっといろんな人と協力してやっていきたいなって。今年に入ってからは外注できるところはしたり、撮影をプロにお願いしたり、手仕事は手伝ってもらったり。

YM:それはブランドの幅をもっと広げていきたいという姿勢からでしょうか。

彩子:ですね。ひとつひとつ制作に時間がかかるので、自分の世界を広げたり、ブランドを大きくしたりという動きは取りづらくなるので。人と一緒に、枠をもっと大きくするような動きができたらと思います。

YM:人に頼るって難しいですよね。

彩子:そこも超えていくべきこところかなって。一人の世界が好きだから、手仕事に没頭しているところも確かにあるし。クリエイティブってすごく孤独で、それが素晴らしいところでもあるけど、人が加わって孤独が減っちゃうと思うので。でもそこから逆に生まれる孤独もあるのかな。

これまで出会った世界を紡ぐ、これからの世界と出会う


彩子:私にとって「Hue Rain」は、どんな風に人や世界と関わっていきたいのかを、ただただ表現しアクションしているんです。
なので私なりに本質的な活動をして、他者と関わりあえることが本当に幸せに思っています。

YM:私も共感できることが沢山ですし、改めて発見するようなお話も聞かせていただけました。ありがとうございました!


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