青いリボンの約束
秋の風が街に吹き込む大学キャンパス。紅葉した木々が並ぶ通学路を、美青は青いリボンで結んだ髪を揺らしながら歩いていた。その姿は、周りを通る学生たちの視線を自然と集める。だが彼女自身はそれに気づく様子もなく、少し遅れ気味の授業に急いでいるだけだった。
「今日もまた寝坊しちゃった…」
低く小さな声でつぶやき、前髪を直す。美青はいつものように自分の控えめな性格を自覚しながらも、大学生活を淡々とこなしていた。
講義の終わりに、友人たちと昼食を取る予定だった美青。しかし、カフェテリアに向かおうとしたその時、教室のドアの向こうに見覚えのある姿が立っているのに気づいた。
○○:やっと見つけた
美青:え…?○○くん?
○○は彼女の高校時代の同級生だった。気さくで明るく、誰とでもすぐに打ち解ける彼と、控えめで静かな彼女とは対照的だったが、なぜか馬が合い、いつも一緒にいた。
久しぶりの再会に少し驚きながらも、美青は彼を近くのベンチに誘った。
○○:大学が同じだとは聞いてたけど、まさか本当に会えるなんて
美青:私もびっくり。○○くんは元気そうだね
彼は相変わらず明るい笑顔で、美青に高校時代の話や大学での出来事を次々と話し始めた。その話しぶりに、美青は懐かしさと安心感を覚えた。○○は、彼女が自分自身を大きく見せなくてもいい数少ない相手の一人だった。
数週間が過ぎ、○○と美青は再び頻繁に連絡を取るようになった。授業後に一緒にカフェに寄ったり、週末に図書館で勉強したりする中で、美青の心には次第に変化が生まれていた。
自分に自信が持てず、必要以上に周りに気を使ってしまうことの多かった美青だが、○○といるときは自然体でいられる。そんな自分に少しずつ気づき始めていた。
ある日の夕暮れ、美青は○○と帰り道を歩いていた。秋の空は茜色に染まり、風が木の葉をさらっていく。そんな静かな空気の中、○○が不意に立ち止まった。
○○:美青、ちょっと話があるんだ
美青:うん…?
その表情がいつもの明るさとは違い、どこか真剣だったため、美青は思わず立ち止まり、彼を見つめた。
○○:俺さ、高校のときからずっと美青のことが好きだった
彼の言葉は、静かな夕暮れの中で心地よい風と共に耳に届いた。
美青:…え?
美青の目が大きく見開かれる。彼の告白に驚きながらも、自分の胸がドキドキと早鐘を打つ音を感じた。
○○:美青は自分に自信がないっていつも言ってたけど、俺からしたら美青のそのままが一番好きなんだ。だから、俺と付き合ってほしい
夕陽に染まる○○の顔が美青の目に焼き付いた。彼の言葉は真っ直ぐで、彼女の心にしっかりと届いた。
だが、美青は一瞬ためらった。自分なんかが○○の期待に応えられるのだろうかという不安が、彼女の中でささやいていた。
美青:○○くん…私なんかでいいの?
○○:私なんかじゃない、美青じゃなきゃダメなんだ
彼の力強い言葉に、美青の目には涙が浮かんだ。
美青:…ありがとう。私でよければ、よろしくお願いします
その瞬間、○○の顔がほころび、美青の心の中にも暖かな光が差し込んだ。
大学生活という日常の中で、彼女は彼との絆を深め、少しずつ自分を好きになれるようになった。美青にとって、この告白は新しい自分を見つける第一歩だった。
青いリボンを揺らす風の中で、二人は未来に向かって歩き始める。
それから数カ月。美青と○○の関係は、ゆっくりと確かなものになっていった。
美青は、○○がそばにいることで少しずつ変わり始めていた。これまでは周囲に合わせるばかりだった彼女も、自分の意見を伝えるようになり、大学での友人関係も広がっていった。
○○:最近、美青すごく変わったよな。前より自分に自信持ててる気がする
美青:そうかな…?○○くんが支えてくれたからだよ
○○:いや、美青自身の力だよ。俺はちょっと背中押しただけ
彼の優しい声に、美青はまた心が温かくなるのを感じた。
そんな二人の関係にも、ある日一つの試練が訪れた。
美青と○○はいつものように大学の近くのカフェで向かい合っていた。しかし、この日はどこか○○の様子が違っていた。
○○:実は…少し悩んでることがあるんだ
美青:悩み?何かあったの?
○○はしばらく言葉を選ぶように沈黙した。そして、絞り出すように口を開いた。
○○:俺、来年から東京に行くことになったんだ。親の仕事の都合で、実家の家業を手伝うことになって…
美青:…東京?
突然の話に美青は言葉を失った。二人の大学生活がまだ続くと思っていた矢先のこの告白は、彼女の胸に重く響いた。
○○:だから…俺たち、どうしようかって思ってる
美青:…どうしようって…?
○○:俺は、できればこのまま付き合っていきたい。でも、遠距離になるし、美青に負担をかけるのも嫌なんだ
彼の真剣な眼差しを前に、美青の心は揺れていた。
その夜、美青は一人で部屋の窓から夜空を見上げていた。○○の言葉が頭から離れない。
「遠距離なんて自分にできるのかな…」
「○○くんの負担にならないかな…」
不安ばかりが浮かび上がる。けれど、同時に彼と過ごした日々の思い出が、胸の奥を温かく照らした。
美青:私は…○○くんと一緒にいたい
彼女の中で答えは決まっていた。どれだけ離れても、彼を支えたいという思いが勝った。
翌日、○○を呼び出した美青は、夕暮れの河川敷に二人で並んで座った。
美青:私、遠距離でも大丈夫だよ。○○くんと一緒にいたい。だから、離れることを怖がらないでほしい
○○:美青…
彼女の言葉に、○○は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかい笑顔に変わった。
○○:ありがとう。本当にありがとう。俺も、ずっと美青のそばにいるつもりだよ。離れていても、俺たちは大丈夫だよ
美青:うん、絶対に大丈夫
二人は見つめ合い、固く手を握り合った。その手の温もりが、これからの困難を乗り越えるための力を与えてくれた。
○○が東京に引っ越してからの日々は、決して楽なものではなかった。直接会える時間は限られ、忙しさの中で連絡が減ることもあった。それでも、美青は彼との約束を守り続けた。
そして○○もまた、どれだけ疲れていても、美青に「おはよう」と「おやすみ」を伝えることを欠かさなかった。
季節が巡り、1年後。
○○が久しぶりに大学に戻ってきた日は、桜が満開の日だった。再会の場で、美青は○○の姿を見つけると、一瞬戸惑った。
彼は少し痩せたように見えたが、その笑顔は以前と変わらず優しかった。
○○:待たせたな
美青:…ううん。待ってないよ
彼女の目に涙が浮かぶ。それは、寂しさや不安を乗り越えた二人だからこそ流せる、嬉しさの涙だった。
○○はそっと美青の手を握り、自分の胸に引き寄せた。
○○:これからも一緒にいよう
美青:うん、ずっと…
桜の花びらが二人の肩に舞い降りる中、彼らの未来への一歩がまた踏み出された。
その青いリボンの約束は、これからも二人をつなぐ大切な絆として輝き続ける。