イギリス/Queenとハンバーガーと私【僕らの忘れられない旅#1】
イギリス・ロンドン 2016年1月
「Queenとハンバーガーと私」
宮下佳英(28歳・会社員)
その日の僕はロンドンはキングス・クロス駅を一望する、聞いたことのないハンバーガー屋にいました。
数ある「海外」の中でも、英国には特に強い思い入れがありました。
母が学生時代に英国留学をしていて、よく思い出話を聞いていたこと。漫画「マスター・キートン」を人生の教科書にしていること。映画「キングスマン」「ホットファズ」が大好きだということ。ゼミの教授が英国文学の第一人者であるということ。
そして何より、Queenの大ファンだったということ。
小学生の頃にハマり、アルバムは全部持っていたので、ファンを名乗っても良いかと思います。中でも名曲「Don't stop me now」は、数えきれないほどヘビーローテーションした記憶があります。歌詞はざっくり言うと「今最高に楽しいんだから止めないでくれ!!」。その前向きな雰囲気が好きでした。
ロンドンへの1人旅を決めたのも、そんな愛する文化と同じ空の下を歩いてみたいと思ったからです。
いざ旅行当日。直行便でヒースローからリトルベニスの近くの宿へ。荷物をベッドの上に放り投げた僕は、カメラと財布だけを持って、早朝から無我夢中でロンドンを歩き廻りました。
ベーカーストリート、サヴィルロウ、シティー、リバティー、トラファルガー広場…
普段海外1人旅は、地図アプリを見ながら順々に目標地点を決めながら歩いて行くのですが、ロンドンは何故か、毎日通った学生街のようにスタスタと流れるように歩くことができました。
18時過ぎにキングスクロス駅の前を歩いていた頃には、既に30㎞近い距離を一日で歩いていました。流石に疲れと空腹(昼食はプレタマンジェで食べたサンドイッチのみ)を感じた僕は、9と3/4番線を尻目に、軽い夕食を取ることに。
軽く済ませたかったので、本当に目に付いただけの、ファストフードっぽいハンバーガー屋へ。名前は確か「ファイブガイズ」だったと思います。(後から調べたらアメリカのチェーン店でした笑)
有線(?)が大きめの音量で流れる店内は非常に活気に溢れており、ロンドンっ子達の溜まり場となっていました。コーナーの席で肩を潜める異邦人の僕の隣には、今風なロンドン女子高生(と思われる)二人が座っていました。キッチンのスタッフさんも皆若い感じでした。お客さんもスタッフさんも人種が多種多様なのが、国際都市・ロンドン。
ボソボソと隅っこで、可もなく不可もないハンバーガー(空腹の状態でさえこの感じ)を貪っていると、ふと店内BGMから聴きなれた音が。
(このイントロ……間違いない。何百回も聴いた。Queenの「Don't stop me now」だ……)
やっぱ本場の国で聴くのは格別だな~とフレディーの澄んだ声に浸っていると、忘れられない出来事が起きました。
店内に流れるメロディに合わせて、店中のほぼ全員が「Don't stop me now」を歌い始めたのです。キッチンのスタッフさんも、隣の女子高生たちも。ミュージカルとかフラッシュモブとか、そういう大それたものではありません。スタッフさんは肉を焼きながらだし、隣の女子高生はスマホいじりながらだし。
そんな些細な出来事でしたが、私は忘れられないほど感動したんです。自分の好きな古い曲(なんと31年前の曲です!)が、本国では自分より年下の人からも愛されていること。接客中のスタッフさんまで歌い出すという、日本ではありえない光景にめぐり合えたこと。人種も年齢もバラバラな赤の他人達が、僕の大好きなQueenを通して一体になっていること。
感動した理由は色々あると思いますが、今この空間にいる人たちは確実に、平日から人生を楽しんでいました。英国人だって、悩みも社会問題も日本と変わらずにあると思います。でも歌詞の通り、「今最高に楽しいんだから止めないでくれ!!」と言っているかの様で、そんなロンドンっ子達の生き方に涙が出そうでした。(アジア人男性1人がハンバーガー食いながら泣いてたら怖いので、涙は必死に堪えました)
海外旅行は観光地を巡るだけではなく、その国の人達の「生き方」を知ることが出来ると言います。僕はあまり積極的に話しかけるタイプではありませんが、図らずも、たまたま入ったハンバーガー屋でその一端に触れることが出来ました。今思えば、この体験が忘れられず、より一層海外旅行にハマったのかと。
僕も「今最高に楽しいんだから止めないでくれ!!」と堂々と言えるような生き方を模索していこうと思います。
これが僕の忘れられない旅です。
※「Don't stop me now」はかなり有名ですね。Queenのおすすめ名曲は「’39」という曲です。
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