ポーカーで食っていくには「能力」よりも「資質」が求められるのでは?という抽象論
ケニアでポーカーだけをして暮らすようになってから、早いものでもう1年半ほどが経とうとしている。
いま一度、立ち止まり、薄氷の上を歩きながらも、ここまで“ポーカーだけで”サバイブできた要因を振り返ってみたい(※なお、このnoteは家に居候させてもらっている起業家の河野さんとの対話から着想されたものであり、言語化したものであることを付記しておく)。
今回のnoteは、ポーカーの具体論にも突っ込んだ話がメインにはなりつつも、抽象の部分ではポーカー以外のすべての事柄に通じるものもあったりする。
ナイロビのポーカー環境の概略
まずは、ぼくが主戦場にしているナイロビのポーカー環境について簡単に概説しておきたい。
現在、ナイロビ内にはカジノが無数にある。そのなかで、ポーカーをプレーできるカジノは4〜5軒ほど。低レートであるbuy-in 5,000-10,000のブラインド100/200が2軒で、残りのカジノは高レートでbuy-in 50,000-100,000のブラインドが500/1000といった感じだ(ケニアの通貨であるシリングと日本円はほぼレートが同じなので、500といえば大体“500円”と思ってもらって大丈夫)。
低レートのテーブルにはケニア人を含め、世界各国かなりインターナショナルなプレイヤー達(インド人が多い)が集う。ハイレートになればなるほど、プレイヤー層は限りなく中国人に寄っていく。レートに関わらず、総じていえることは、レベル感の低さである。まず、“プロ筋”(ポーカーだけで生計を立てている人)と思われるプレイヤーは数えるほどしかおらず、マジョリティはレクリエーショナル・プレイヤーが占める。
オンラインなんかをプレーしていると、あるはずのバリューがないこと、なかったことに絶望することが多々あるが、ケニアにおけるライブキャッシュは逆で、ないはずのバリューがあること、あったことに歓喜することが少なくない。ようは、ショーダウンまでいったときに、「えー、そんなことある!?」といった状況がオンラインなら負の意味で、ケニアのライブキャッシュなら正の意味で頻繁に起こる。ようは、ぬるいのだ。
プロがいない環境はGTOよりもエクスプロイト
もう少し、“レベルの低さ”の具体を描写すると、ナイロビのポーカーテーブルで負け続けてる人の特徴は2パターンに大別できる。①ハンドレンジがガバガバでエニハンでプレーする。ベット過多・ブラフ過多で、逆に強ハンドで潜りすぎる。ドローで降りれなさすぎる。なにがあってもフロップのフラドロで降りれないタイプの人も少なくない。彼らは絵合わせのゲームをやっているのだ。②もうワンパターンは単純にタイト・パッシブ過ぎて、自分でまったくイニシアチブを握れてない。結果、アグレッシブなプレイヤーにスタックを削られて退場する。
低レートには①と②両方のパターンの典型的なプレイヤーが多い。なので、ぼくはプリフロップではなるべく自分がオープンする、なるべくリンプしない、臆せずスリーベット、フォーベットをするを徹底している。ポストフロップでもレンジに応じたCベットやセミブラフを適切に行うことを意識している。まあ、どれも基本的なことであるが、とにかく念頭に置いているのは常に自分がイニシアチブを握ることだ。イニシアチブを握ることで、なるべく他プレイヤーにエクスプロイトされることを防ぎながら、フォールドエクイティを積み上げていける。
もちろん、ポーカーにおけるセオリーは抑えたほうがいいし、突き詰めればナッシュ均衡や心理学的なべき論に収束することは分かる。けれども、ナイロビのように目に見えてレベル感の低い環境においては、肌感としてGTO(Game Theory Optimal)は薬より毒に近い。プレイヤー特性に合わせたエクスプロイットにとにかく寄せた方がいい。ベットサイズやアクション、テルが一辺倒なプレイヤーが少なくない。彼らは自分のハンドしか見えておらず、ボードとの絵合わせゲームに夢中になっているのだ。
“論理的な勇気”を養う修行、と思えるか
さて、本題のキャッシュゲームで食い続けるには「能力」よりも「資質」が必要なのでは?という話に入りたい。
大前提として、上述した環境で最低限負けない「能力」は必要である。能力のベースになるのはいわゆる地頭と呼ばれるものであり、ロジカルシンキングであり戦略思考が付随的に求められる。くわえて、自制心と忍耐ももちろん必要になる。
ポーカーをやる上で、思考を伴ったビビらない胆力は必須だけど、ただただ向こう見ずな度胸は害悪ですらある。前者を”論理的な勇気”と名付けよう。
絶対に降りてはいけない場面と、絶対に降りなくてはいけない場面がグラデーションとして存在する。その判断の精度は試行回数を増やして上げなくてはならない。一方、まずそういったタフな局面を、自分がイニシアチブを持って演出する立場で常に居れているのか。易きに流れてないかを問い続ける。
時間はいくら使ってもいいから場に飲まれないこと。換言するなら、己のこころの状態(state of mind)を揺さぶられかけても、一呼吸おき、意思決定の質を下げない。周りの目が気になっても、一瞬は代えがたい一瞬で、後から取り返せない。ポーカーの美しさはそれぞれのハンドが二度とないオリジナルなこと。
対峙する相手プレイヤーをいかに快適ではない(uncomfortable)心持ちにできるか否かがポーカースキルの裏返しだな、とも思う。相手の思考に釘を刺し、揺さぶるベットタイミングやベットサイズ。3betはもちろん、4betもガンガン投げかける。ドンクやチェックレイズの有効活用。ハンドレンジを特定させない自在性あるプリフロアクション。
人は何かにつけて、大なり小なりみんな、自分の都合のいいように物事や事象を解釈をする癖がある。ポーカーを中長期でプレーするなかで、そこに空隙と差分が生まれる。「速い思考」も「遅い思考」もどちらも大切だけど、ロジックを突き詰め、自分のバイアスを排し、最終判断し続ける修行に向かい合い続けるか。
テーブルにミニマムバイインで入る論理的メリットはあるのか?無思考なチェックやフラットコールはしていないか?
もちろん一定レベルに達したプレイヤー同士ともなれば、戦略ありきの不合理がアートのように追求される世界に突入していくだろう。けれど、その前段階においては、自分だけの弱いロジックは捨て去り、あるべき合理をまずは突き詰めるのが先なのではないかと思う。
この項を要約すると、最低限の地頭が良ければどうにかなる問題ではなかったりする、のがポーカーというゲームの奥深いところなのだ。次の項では、より資質によった話について言及したい。
“収束と分散”と“虚無感と倦怠感”をどう乗り越える
ポーカーはマインドスポーツでありスキルゲームである。つまり、決してピュアギャンブルではない。それでも、ディーラーがシャッフルされたカードはランダムであり、開かれるボードは操ることができない。運の要素も大きい。ハンドが入らず、ボードに絡まない日は苦しい。分散に向き合い続ける平静でブレない態度を養うことも重要だ。
上記のnoteでも既述したが、分散と向き合うことに加えて、ポーカーをやり続けるなかで訪れるのが「虚無感」と「倦怠感」だ。
はっきり言って、何十時間〜何百時間カジノでポーカーをプレーしたところで、なにかを生み出したり、世界に貢献したりしているわけではない。社会からみれば、一切の生産性が生み出されていない。そのことが頭にかすめると、プレーをすればするだけ虚脱感が重みを増していく。
こうした負の感情を克服するためには、究極のところ、ふたつくらいしか出口はないと思う。一つは、あらためて、正解がなく一生スキル向上を追い求められるポーカーの奥深さに立ち戻り、情熱を持ってプレイヤーとしてのレベルアップを図ること。キャッシュメインのグラインダーだとしても、気分転換でトーナメントに参加するのも刺激になるのかもしれない。
もうひとつは、ポーカーに関わらず、人生の張りを担保するための、別の活動にも時間を割くことだ。じぇいそるさんのYouTube活動はそれにあたるのだろうし、ぼくの文筆活動もまたそれにあたるのだろう。
不思議なもので、こころに曇りがないときは、ポーカーをやっていても負けることがほとんどない。逆になにかに迷っていたり、こころにちょっとしたざわめきがあると、結果はわかりやすく不安定になる。
なので、こうした負の感情に支配されそうになったときはテーブルを離れることにしている。1週間や1ヶ月、ポーカーから離れてリフレッシュだけに時間を充てる期間を取ったりする。その際は読書に大きく時間を割くことになるのだけれど、メンタルの一定に保ったり、情熱を失わない方策を探るときに、アスリートや各ジャンルの一線で活躍するプロフェッショナルたちの著書からヒントが得られることが少なくない。
ときどさんの『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』も良かったけれど、個人的に複数回読み返しているほど良かったのが梅原大吾さんの『勝ち続ける意志力』だ。あるひとつのジャンルで、一線を張り続けてきた人のルーティンや努力の続け方の型には普遍的なエッセンスが詰め込まれている。
成長のJカーブと“聴く”スキル
じぇいそるさんのようなパイオニアに比べれば、当然ぼくなんかポーカープレイヤーとしてはまだまだひよっこだ。だから、あくまでも個人的な経験であるし、もしかしたらナイロビ特有なのかもしれないけれど、この一年半たどったプロセスを振り返る。すると、成績やスキルがたどった道は、いわゆる成長曲線ではなく、スタートアップ用語でいう「Jカーブ」のようなものだったのではないかと内省している。
分かりやすく成長の曲線が上昇していくというより、一度、ガクンと沈み込む期間がある。わりと早い段階において、高い勉強代を払い、血を浴びることで、徹底した内省をする思考の癖をつけられるかどうか。
どれだけ経験を重ねようと、レベルが上ろうと、ハンドレビューを重ね、ディスカッションを続ける以外に成長の最短ルートはない。ときに耳の痛いことを言われても、素直に受け入れること、咀嚼すること、アクションに繋げることを厭わない。じつは何かを学ぶ上で、ポーカーに限らず、この姿勢でもって物事に取り組むことは人生を上昇させる上でとてもとても大切なことだと思っている。
言うなれば「正しい大人の正しい意見を正しく傾聴するスキル」とでも言えようか。簡単なことのようでありながら、案外、できていない人が多いような気もする。10〜20代の早い段階で、この姿勢というか癖を身につけることができれば、ポーカー以外の事柄においても、人生の局面を打開していく糸口になりやすい。逆に、歳をとってからこのマインドセットを身につけるのは意外と難しかったりする。虚心坦懐に素直な心で学び続ける姿勢は死ぬまで大切なものだろうと思う。
話を成長曲線に戻すと、「あれ、俺ポーカー上手くなってきたかも?」と思ったときが一番危険信号だったりもする。ちょっとでも心に隙ができると慢心が生まれ、慢心が負の連鎖を生む。謙虚な心と向上心と、常に自分に技術的・精神的瑕疵がないかどうか、点検を忘れない姿勢を手放さない。
ポーカーのスキル向上においてもうひとつ大切な視点が“潜在的失敗”に対して、いかにラーニングをかけていくか。誰が見ても明らかなミスは反芻し、次回以降のアクション改善をしていけばいいだけ。問題は自分で気づけない”ミス”にどうやって気づいて、どうやって改善するか。やはりディスカッションできる人と同卓するのが一番だと思う。
中国人の師的な存在であるジェイソンと初期の頃は、毎日のように夕ご飯を食べながらポーカーハンドレビューを続けた。ちなみに今でも毎日一緒にポーカーをしているし、二人だけでケニア国内旅行をするくらいに仲が良い。
言わずもがなとは思いつつ、当然、個人競技であるポーカーにおいてもやり抜く力=GRITみたいなものは必須の資質となるだろう。
つい先日、「“速読”よりも大切なこと」というnoteのなかでも与沢翼さんの『ブチ抜く力』がじつは名著なんですよ、と紹介した。もちろん、人生の全期間を全力疾走で走ることはできない。ガス欠でバーンアウトしてしまう。けれど、「やり抜く」と決めたある期間を全力疾走できない人生はどこにも行き着かない。全力で駆け抜けることで、人生のステージが押し上げられることは間違いなくある。
中長期でキャッシュゲームで食べていくために
そろそろ、話のラップアップを。
ここまで話してきたのは、ポーカーのキャッシュゲームで中長期で食べていくための、実体験を踏まえた心構えみたいなものだ。
他国の人に比べて、最低限の地頭であったり、自制心や忍耐がありそうな日本人はポーカー向きと雑な感覚は持ちつつも、このnoteで詳述したような「資質」の部分をみんながみんな持ち合わせているかというと、意外と数は少ないような気もする。
あと、じぇいそるさんがケニアに遊びに来てくださったときにおっしゃっていた「毎年のようにベガスにポーカープレイヤー志望の人たちが大挙してやってくるけれど、最終的にサバイブできるのは100人いたとして2〜3人くらい」と言っていたのを思い出す(正確に何人来て、何人残るか、というのは定かではないけれど、とにかく想像以上に少ない)。
もちろん退場してしまう理由として、サイドギャンブルに手を出したり、ポーカー以外で破滅してしまうパターンも少なくはないと思う。けれど、このnoteで書き連ねてきたように、メンタルの維持も要因としては大きいのではないかと容易に想像できる。
自分の場合は、居候させてもらっている河野ファミリー、とくに毎晩のように遅くまでハンドレビューに付き合ってもらった河野さんの存在はなくてはならなかった。おそらく、独りだったら早々に腐って、日本に帰国していたのではないかと思う。精神が死んでしまったら、その時点でゲームオーバーなのである。
ある程度の精神的な図太さは必要なのだろうけれど、周囲の支えや、精神的安寧を確保できる環境も同じくらい、もしくはそれ以上に大切なのではないかと思う。
海外ライブキャッシュで暮らそうと思っている人にとって、このnoteが背中を押すものになったのか、出鼻を挫くものになったのかは、読者次第だろうとは思う。重ね重ねにはなるが、あくまでもまだぼくは一年半しかキャッシュ生活をしていないひよっこなので、話半分に聞いてもらえればと思う。
もし未読な方がいたら、日本人グラインダーのパイオニアであるじぇいそるさんの本『職業プロポーカープレイヤー カジノを「職場」にする生き方』を読んでいただきたい。
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