時を刻む
街中にあるコーヒー店。そこは地元の人たちの憩いの場となっている。私はそこで長い間ここに来る人達を見守っている。
私が生まれたのは大きな戦争が終わったころ。街は復旧し穏やかな生活を取り戻していた。
私は店のマスターに気に入られ、一緒に住むこととなった。
店にはいろいろな客がやってきた。
毎週木曜日午後、決まった時間に来る若い女性。
毎回奥のテーブル席へと座る。マスターがコーヒーを運んでくると、その女性は毎回頬を赤くし下を向く。女性はマスターのことを見つめるが、マスターが気付くとすぐに視線を逸らす。そして1杯だけ飲み帰っていく。
雨の日にやってきた老夫婦はとても穏やかな人たちだった。
彼女が雨で濡れた服に困っていると、スーツをきた彼がすかさずハンカチを差し出す。彼女がイスに座ろうとする前に、彼はイスを引く。彼女が話をしているのを、彼はコーヒーを飲みながら微笑み聞いている。なんて素敵な人たちなのだろう。
けど中には嫌な人たちもいた。
中年の女性3人組が入ってきた。
きらびやかな洋服や宝石を身にまとっている。さぞかし上品な人たちだろうと思っていたが、旦那や子供たちの愚痴や自分の自慢話ばかり。そしてこの店の悪口も。とても腹立たしい人たちだった。
マスターはいろいろなお客様たちをもてなし、そして私よりも先に天国へと旅立った。
それから時は流れ、町の様子も時代とともに変わっていった。マスターが旅立ったあと、店は閉まることなく続いた。今はマスターのひ孫が引き継いでいる。
そして私は今もこの店で、時を刻みながら見守り続けている。