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ダイナー

「いらっしゃい」
男がカウンターへと座る。

「バドワイザーを1つ」
「かしこまりました」

男は古びた腕時計を見る。そして客が何度も入ってくるたびに、男は振り向き深いため息をつく。

「恋人と待ち合わせですか?」
男に尋ねる。
「いや、友人です。古くからの付き合いでね、仕事が忙しくてなかなか会えなかったんだが、お互いようやく都合がついてね」
男の腕時計をふと見ると、針が8時42分で止まっていた。
「すいません、その時計って・・・」

そこへ一人の客がやってきて男の隣へと座った。
「いらっしゃい、ご注文はどうなさいますか?」
「バドワイザーをお願いします」
「かしこまりました」
定員はお酒をグラスに次ぎ客の前に置いた。

「すいません、注文いいですか?」
奥のテーブルから声がかかり、注文を取るためカウンターから離れた。
戻ってくるとさっきまでいた男がいなくなっていた。

トイレにでも行ったんだろう。

男の隣にいた客は、悲しげな表情でお酒を飲んでいた。
「何かありましたか?」
「えっ」
「何か悲しそうな顔をしていたので」
というと客はしばらく沈黙し、話始めた。

「今日は友人の命日なんですよ。学生の時からよくつるんでたんですけど、社会人になってお互い仕事が忙しくなって、しばらく会えなくて。でようやく都合がついて。そしたら友人がバドワイザー置いてる店知ってるから、そこで待ち合わせしようって話になって。けど私その日急な仕事が入っていけなくなっちゃったんですね。 あの時仕事なんかしてないで、会っていればよかった」

そしてまた沈黙が・・・。

続きを語り始めた。
「その日友人はもう店に着いてお酒を飲んで待ってたけど、私が来ないことを知って、一杯だけ飲んで店を出た。その矢先、よそ見運転していた車にひかれてそのまま・・・。

「そうだったんですね」
客はカバンから腕時計を取り出し握りしめた。壊れて動いていない。よく見ると、針が8時42分で止まっていた。

 その後客は1杯だけ飲み店を後にした。店員はなにか違和感を覚えた。

すると奥からもう一人店員が出てきた。
「お前、何仕事中に酒飲んでんだよ!」
「何のこと?」
「いやお前さっき誰もいないのに酒出してたじゃん、しかもカウンターの前で独り言ブツブツ言ってたし。ちゃんと仕事してくれよ」
そういうとまた奥へ戻っていった。

え?じゃあさっきの男は一体・・・

するとさっきまでいなかった男が店の前に立っていた。
男は微笑み
「ありがとう」
と窓越しに言うとどこかへと歩いて行った。





ツイキャスにて一人朗読会行いますので、良ければ聞いてください。

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