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ご自由にお持ち下さいの循環 3
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建国記念日の今日、わたしはご自由にお持ち下さいの運営をやってみることにした。
事前に職場の人に声をかけてみたものの、不用品を持ってきてくれたのは幸田さんのみ。
美容院に行くたびに貰えるという高級トリートメントだ。(他に電子パーツも提供してくれたのだが、不覚にも落として無くしてしまった。本当に申し訳ないことをしたので、幸田さんにはお菓子を片手に平謝りした。)
仕方が無いので自分の不用品を持ち出す事にした。服や食器、漫画、雑貨などだ。
荷物をまとめていると高校生の娘がやってきて、ラインナップをチェックしては「これあげちゃうの?だったら私が欲しい!」などと言って、持って行ってしまう。
韓国で買ったフェイスパックやトルコのお皿、昔のりぼんのキャラクターのクリアファイル、ポストカードなどは娘の手に渡った。
物が減ってしまったので、娘からはニンテンドーDSのソフトや服を提供して貰った。
太いマッキーで、ダンボールに「ご自由にお持ち下さい」と日本語、英語、中国語で書き込む。「ご自由にお入れ下さい」はネットで調べても中国語がわからなかったので、日本語と英語だけにした。これで春節で来た観光客向けフォローもばっちりである。
娘に「恥ずかしいから東京じゃなくて千葉か埼玉でやって欲しい」とぶつくさ言われながら、大荷物を持って上野公園へ向かう。娘は東京を自分のテリトリーだと思っている。
快晴だが強い北風が吹き荒ぶ上野公園は、祝日なだけあってまぁまぁの人出だ。
動物園や美術館に向かう道は混んで邪魔になるので、少し奥に行った噴水の近くのベンチに座る事にした。
レジャーシートの上にご自由にお持ち下さいBOXを置き、中に服を入れる。ベイクルーズ系を中心に、わたしが素敵だと思うスカートなどを持ってきた。お腹が苦しくて履けないだけで、物は良いのである。
漫画や雑貨、DSのソフトなどはレジャーシートの上に見やすい様に並べる。隣にご自由にお入れ下さいBOXを置いた。
準備を整えてベンチに座り、本を読みながら人が来るのを待つ。
わくわくしながら待つも、全く誰も来なかった。通りすがりの人が視線を投げつつ素通りするパターンもあるが、ほとんどの人は目もくれない。30分待っても状況が変わらないので、目の前に敷いたレジャーシートを横にずらし、正面に人がいない状態にしてみた。
しばらく待つと、警備員の制服を着た初老の男性がやって来た。レジャーシートを指差し「これあなたが出したの?」と聞いてくる。
注意されるのかな?と思いつつも、わたしが出したので「はい。」と答えた。
彼はレジャーシートの周りを巡回しつつ眺めている。いつ怒られるだろうか?と待っていると「これほんとに貰っていいの?」とポーチを1つ手にとった。
なんと!貰ってくれる人第一号だったのだ。「これ眼鏡ケースにも使えるよね」と会話をかわしながら、わたしが以前派遣会社から誕生日に貰ったポーチを持って行ってくれた。
わたしはこういう交流がしたかったのだ。ありがとうおじさん!
その後は家族連れが訪れ、小学校低学年くらいの男の子が、ナルニア国物語のゲームソフトを持って行く。この家族とは会話を交わす事なく目の端で見送った。
同時に中国人風の女の子2人組が漫画に興味を持つものの、ペラペラとめくるだけで去っていく。
またしばらく待っても素通りが続くので、もう少し人通りの多いところに移動する事にした。
動物園に向かう道端に荷物を広げ、座り込むこと数分、今度はお巡りさんがやって来た。
迂闊にもわたしは、道を挟んで交番の向かいに広げてしまっていたのである。
「公園に許可取ってる?許可取ってないとダメなんだよ。」と言うので「お金を貰ってなくてもダメなんですか?」と聞いてみた。
無言で立ち去るお巡りさん。
その後のお巡りさんは道を聞く観光客にてんてこ舞いの様子だったので、忙しい中わたしになど構っていられないのだろうと気にしない事にした。
それにしても、ここでもみんな素通りである。こんなにも興味を持たれないものかとがっかりしながら座っていると、イベント会場の方からわたしの大好きなミュージカル「エリザベート」の劇中歌が聞こえてきた。
休日には大体何らかのイベントが開催される上野公園は、ご多聞に漏れず今日もたくさんの屋台で賑わっている。どうやら今日はステージでカラオケ大会か何かが繰り広げられているようだ。
楽しげなイベントに集うたくさんの人々と、誰にも目を止められないわたし。しかしそんなわたしに近づく人影があった。
さっきとは違うお巡りさんである。
「あのね。お金貰ってなくても許可取らないとダメなの。」
諦めたとばかり思っていたお巡りさんは、ちゃんと公園の管理事務所に確認をしていたのだ。さすが日本の公務員は勤勉である。
わたしは鷹を括って交番の前に座り続けたことを後悔した。最初に声をかけられた時に移動しておけば見逃して貰えたかもしれないのに。お巡りさんだって視界に不審者が存在し続ければ、対処せざるを得ないだろう。
営利目的じゃ無いから良いだろうと思って始めたものの、営利目的じゃ無くてもダメだという前例を作ってしまった。公園側だって、物をタダであげたいという訳の分からないおばさんの為に、公園の治安を乱されたらたまらないのだ。
上野公園をこよなく愛する民としては、ここでゴネて嫌な思い出を作りたくない。素直に撤収することにした。
ノロノロと荷物を片付ける横で「すいませんね」と繰り返しながら見守る(見張る?)お巡りさん。お勤めご苦労様です。
こうしてわたしの初めての「ご自由にお持ち下さい」循環プロジェクトは幕を閉じた。
お持ち下さったもの:
ポーチ、ゲームソフトの計2点
お入れ下さったもの:0点
何ともさみしい結果である。
これを踏まえ、また別の公園で同じことをするのか。形を変えて何かをするのか、しないのか。これからまたゆっくり考えようと思う。