SUKIYAKIと中央線
うえをむいてあるこう
なみだがこぼれないように
おもいだすはるのひ
ひとりぼっちのよる
ふと吉祥寺のPARCOの前を歩いていると聞こえてきた坂本九。海外仕様の曲名はSUKIYAKI。
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隠し味に牛乳を入れた少しマイルドなすき焼き。君の得意料理。君はきんきんに冷えたビールを、冷凍庫で冷やしていたコップに注ぎ、ぼくは10%果汁のりんごジュースで、乾杯。
君の作ったすき焼きを食べながらぼくはその日にあったことを話す。
ぼくしか話さないからいつも君は早く食べ終わって食器を下げる。(ほんとはぼくが食べるのがとても遅いだけ。)
食器を洗い終えた後、「じゃあ、また明日」と言い、自転車に飛び乗り逃げるようにアパートへの下り坂を駆け下りる。SUKIYAKIを歌いながら。
うえをむいてあるこう
なみだがこぼれないように
なきながらあるく
ひとりぼっちのよる
いつからだろう。同じ布団で眠るのをやめたのは。
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最近、新しい彼氏ができた。と同時に今までで最も切ない感情を知った。
すき焼きの彼をちゃんと好きではなくなっていたことだ。
あんなに忘れられなかったのに。
忘れられて楽になったはずなのにとても切ない。すき焼きはぼくから離れてくれないみたい。
まだ好きという気持ちが切なさから顔を出してこっちを見ている気がする。見ているだけで出ては来ないのだけれど。
ほろ苦い思い出とその切なさに感情を漂わせながら改札をくぐり、高尾行きの中央線に乗る。
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