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たくあんと共犯

僕はたくあんが小さい時から好きだ。
なぜかあの毒々しい黄色をした、カリカリとした食感の甘じょっぱい食べ物が好きだった。まだあの頃はたくあんが大根の漬物だなんて、思いもよらなかったけど。

たくあんの最初の記憶はやはりお弁当かも知れない。たくあんというものはよくお弁当の付け合わせに入っている。お弁当に入っているたくあんの何がいいかって、どのお弁当のたくあんもだいたい同じ味なのである。濃い目の甘めで安っぽい味が良いのだ。

最近で言えば、行きつけの蕎麦屋の定食についてくるたくあん。味が濃すぎず、でも、そのたくあんの色はきれいなビビッドイエロー。そんなたくあんが最近はお気に入り。

Kはぼくの大学の同級生で、周りのみんなから全員一致で、変わってるよね、って言われるタイプだった。マイペースで、日本的な同調圧力をものともせず、真に自分がやりたいことを貫き通す、みたいな。

僕たちは趣味がよく合った。コールドプレイやピンクのような洋楽をよく聞いた。邦楽では宇多田ヒカル(これはぼくが真似しただけだけど、今ではたぶんKより好きになった)。小説をよく読むのも同じだった。Kは伊坂をよく読んだ。ぼくはもっぱら恩田陸。趣味は合うし、なんといってもKの少し変わった性格にとても惹かれていた。

九州を友だちと旅行した帰りに、唯一まだ学生だった僕とKはお金の節約のために電車で東京まで帰ることにした。道中で名古屋に寄った僕らは名古屋名物といえばひつまぶし、と意見が合ったので、名古屋駅の地下のレストラン街でひつまぶしを食べられる場所を探した。3つほど候補が上がり、それぞれを見て決めようとしたところ、2つ目のお店が通常の1000円引きで食べれたので、3つ目は見ずにそこに決めた。このままいくとひつまぶしの話みたいになりそうだけど、これはたくあんの話だからひつまぶしが本当に美味しかったことはこの一文だけに留めておこう。

そのお店はどの食事にもたくあんがついていた。もちろんぼくたちが頼んだひつまぶしにもついていて、とても美味しいたくあんだったので、つい、おいしい!とぼくは言った(普段は食に興味がないから何も言わない)。隣には仕事終わりの二人組のサラリーマンが焼き鍋うどんを食べ終わり、会計に向かって行った。お盆を見たらたくあんを残していた。

「あ、たくあん残してる。こんなに美味しいのにね。」
と、僕はKに言う。

Kは何を思ったのか、唐突に無言でその隣のお盆に手を伸ばし、残された手付かずのたくあんを取って、僕のお盆に置いた。

「そんな、だめでしょ。人がお金払ってるし、衛生的にも。」
と、僕はKに言う。

Kは日本人らしくないその薄茶色の目でこちらを見つめながら
「もったいないじゃん。」
と、僕に言う。

普段は知らない人が残したものなんて、手付かずとはいえ、絶対に食べないのに、僕は不思議なKの雰囲気に飲み込まれすぐにたくあんを食べてしまった。

「これでおれたち共犯だね。」
とKは笑いながら僕に言った。

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