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料理官能小説3

8枚切りのそれは乱暴に皿の上に2枚置かれた。玉子にはもう絶望しか残っていなかった。30分後にはこの男の腹の中に収まってしまうのだ。
スーパーで100円もしないような安物の8枚切りの2/8に乗せられて、グチョグチョになった全身を広げられていく。
ちょっとちょっとの工程で、何ともないような写真を撮られている。きっとこの男はこの後、しょうもない文章と共に玉子の赤裸々な全てをWEBで公開するつもりなのだ。
もうどうにでもなれと玉子は思った。耐えがたい感情とは裏腹に、この状況を楽しみ出していた。
食パンに挟まれて少しずつ水分が奪われていくような感覚の中、切り取られていくパンの耳はどうなるんだろうとか、食パンの「食」って何だろうとか、どうでもいい現実逃避をしていた。
きっと相手のことを思いやる気持ちの持ち主なら、パンの耳ラスクを作ったに違いない。でも目の前にいるこの気持ちの悪い男はムシャムシャと食べるだろう。
そう言えば聞いたことがある。
パンは全部食べられるのになぜ食パンだけ食パンという冠をしているのか。
主食用パンの略で食パンだったかな。
玉子はとうのく意識の中でそんな事を考えていた。
マヨネーズの便所となってしまった自分を諦めながら。胡椒の匂いが全体に染み渡り、この男の口の中で、この男の唾液に塗れながらこの男の身体の一部にされてしまうことを喜びとさえ感じながら。

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